このところ、radikoなどの影響もあり、ラジオ放送への注目度が上がってきている。リスナーの傾向は、若年層では深夜放送などが中心で、年齢層が上がるにつれて、語学学習などの講座ものの比率が高くなっているそうだ。語学講座が最充実しているのはNHKなのだが、radikoに参加しているのはTBSラジオ、文化放送、ニッポン放送、ラジオNIKKEI、Inter FM、TOKYO FM、J-WAVEで、NHKは含まれていない。
ICZ-R50は、AM/FMラジオの録音が可能なラジオレコーダー。ラジオレコーダーは、昔で言うところのラジカセのカセットの部分をICレコーダーに置き換えたもので、手軽な語学学習のツールとしても注目を集めているカテゴリー。NHKでは、外国語講座の番組が充実しており、テキストも低価格(1月分で380円)なため、英会話スクールに通うよりも圧倒的に低コストで学習を始めることができる。ICZ-R50のICレコーダー部分は、MP3形式での録音に対応。内蔵メモリーは4GB。STモード(ステレオ標準)/STSPモード(ステレオ長時間/SPモード(モノラル標準)の3種類の録音モードを持っており、それぞれ、最大で44時間40分/57時間5分/178時間の録音が可能だ。また、SD/SDHCカード/メモリースティックデュオを利用すれば、さらに録音容量を増やすこともできる。USBポートも装備しており、録音したファイルをPCに転送、編集を行うことも可能だ。
録音は、現在放送しているものをダイレクトに行うこともできるが、タイマー予約も可能だ。タイマー録音の場合、放送局、時間などを指定して予約を行う。予約は1回のみ、毎週、曜日指定などの種類を選択することが可能で、最大20件まで登録できる。予約は本体からだけでなく、USBで接続したPCから行うことも可能だ。なお、搭載しているチューナーは1基なので、裏番組の録音やタイマー録音中に別の放送局の番組を受信することはできない。また、ICZ-R50には、音程を変化させずに、再生速度のみを変化させる「DPC」(デジタルピッチコントロール)や、指定した範囲を繰り替えし再生する「A-B間リピート」など、語学学習に向いた機能も搭載されている。録音した番組をデジタルオーディオプレーヤーなどに転送すれば、好きなときに語学学習を行ったり、深夜放送を聞いたりすることが可能だ。
右サイドにはSD/メモリースティックデュオ用のカードスロットを装備。録音容量の増設が可能だ。また、本体のメモリーに録音したファイルを、カード経由でPCに持っていくこともできる |
ICZ-R50の選局部分。上下でプリセットの移動、左右で周波数の移動となる。AMでは9kHz単位で、FMの場合は100kHz単位 |
本体左側には、電源スイッチとバンド切り換えスイッチ、ICレコーダーを単体で使用するためのボタンなどが装備されている。電源ボタンの左下にあるのが録音するためのマイク。ICZ-R50は、幅が195mmあり、その両端に左右のマイクが装備されているため、一般的なワンポイントのステレオマイクよりも臨場感の高いステレオ録音が可能だ |
上面には、録音や再生のためのボタンが並ぶ。ラジカセに近い操作体系 |
ICZ-R50のスタイルは、ホワイトとシルバーを基調とした丸みを帯びたデザイン。同社のラジオというと、黒くて硬派なイメージがあるが(昔はそういう製品が多かった)、ICZ-R50は、それらとは若干異なるテイストだ。ただし、選局関連などの操作部分をすべて本体右側に配置し、本体右上に角形のディスプレイを装備している点などは、かつてのICF-11系のモデルにも通じるところがあるようにも見える。同社に伺ったところ、とくにデザイン的にICF-11系を意識したというのではなく、ポータブルラジオとしての使いやすいサイズ、カタチを追求した結果、このようなスタイルになったとのことだ。
さて、以降は、このICZ-R50をラジオリスナーの視点でレビューしてみよう。まずは、FM放送の受信を行ってみる。最近では、携帯電話や、デジタルオーディオプレーヤーなどにも、FMラジオ機能が搭載されているものは少なくない。ただし、それらの多くは、ラジオとしてはさほど強力ではない。一般的に、ヘッドホンのコードをアンテナ代わりに使用することになっているのだが、それでも、たいして高感度というわけではなく、例えば、マンションに住んでいるような場合、部屋の中で良好に受信ができるかというと、よほど電波状況がよい環境でないと、それは無理だろう。受信状況場良くない場合はラジオを窓に近い場所へ持っていくなどすればよいだろう。鉄筋コンクリートの住宅は、いわば住宅ごとシールドしているようなものだ。それに比べると、昔の木造住宅の屋内の電波状況は非常によかったといえるだろう。
ICZ-R50でのプリセットの方法は2種類ある。1つは、メニューから「地域設定」を選んで、現在の場所を選択する方法。筆者の現在地は神奈川県なので、ここでは「神奈川」を選択している。この方法を使用すると、放送局名も自動的に登録される。ICZ-R50では、録音したファイルは、放送局名のフォルダに入れられ、また、ファイル名は「日付時間放送局名」となっているので、これはなかなか便利だ。なお、放送局名が入っていない場合には、「日付日時周波数」となる。もうひとつの方法が、「オートプリセット」を利用する方法だ。オートプリセットでは、その場で放送を受信して、受信可能な局のみを登録していく。なお、オートプリセットを行った場合でも、地域選択で選んだ地域の放送局名が反映されるので、いずれにせよ地域選択は行っておいた方がよいだろう。さて、地域選択を行って、プリセットされた結果が下の表だ。
プリセット番号 | 周波数 | 放送局名 |
---|---|---|
P01 | 76.1MHz | Inter FM |
P02 | 77.1MHz | 放送大学 |
P03 | 78.0MHz | Bay FM |
P04 | 79.5MHz | NAC5 |
P05 | 80.0MHz | FM東京 |
P06 | 81.3MHz | J-WAVE |
P07 | 81.9MHz | NHK FM |
P08 | 84.7MHz | FMヨコハマ |
プリセット内容は、大まかにはOKだ。ただし、筆者は神奈川県の東北部在住のため、いくつか変更したい点はある。まずは、76.1MHzとなっているInter FMだが、同局は、東京向けには76.1MHzで放送を行っているが、横浜からは76.5MHHzで放送を行っている。また、NHK-FMが81.9MHzとなっているが、神奈川県の東北部では、NHK-FMは、81.9MHz(JOGP)よりも82.5MHz(JOAK)のほうが強い。そこでオートプリセットを行うと、76.5MHzのInter FMや82.5MHzのNHK-FM、さらに79.1MHzのかわさきFMなどが登録された。周波数の違う局や、コミュニティFM局などは設定を変更すればよいだろう。
同じ場所で、携帯電話のFMラジオ機能を使用して受信を行ってみたところ、おおむね同じ局が受信可能だった。ただし、携帯電話の場合、受信できるといっても、かなりノイズが強く、快適に受信できるというわけではない。かわさきFMやInter FMなどは、ほとんど聞いていられないような状態だ。それに、どの局も、良好な受信のためには、アンテナとなるイヤホンのコードをなるべくまっすぐに伸ばしておく必要があるなど、あまり実用的ではない。一方、ICZ-R50のほうは、ロッドアンテナだけで、クリアに受信できている。ICZ-R50は、家庭で使用するためのFMラジオとしては、十分な受信性能を持っているといえるだろう。
続いて、AM放送を受信してみる。ICレコーダーや、デジタルオーディオプレーヤで、AMラジオが搭載されている機種は限られている。これは、やはりAMラジオと電子機器との相性の悪さが影響しているのだろう。AM放送は、FM放送に比べて、電子機器の発生するノイズの影響を受けやすい。AM放送を受信しているラジオを、何らかの電子機器のそばにもっていくと、たいていノイズの影響、つまり雑音が入る。PCやネットワーク機器などの場合、当然ノイズが入ると予想できるが、中には、電気ストーブのように、なぜノイズを出すのかよくわからないものでもノイズを発生したりする(おそらくタイマー部分あたりがノイズを発生しているのだと思う)。そのようなAMラジオと、電子機器であるICレコーダーとの組み合わせがどのようなものになるのか、気になるところだ。ちなみに、一部の家電製品のセンサーでは、455kHz付近を発振するセラミック発振子が使用されているケースがある(温水便座など)。455kHzは、一般的なシングルスーパーAMラジオの中間周波数であり、AMラジオにとんでもなく大きな影響を与えることになる。このような電気的なノイズが受信の妨げになっているような場合、ノイズの発生源からの信号を減衰させるような指向性の高いアンテナを使用することがある程度の対策になる。AMラジオに使用されているアンテナの多くは、バーアンテナと呼ばれるフェライトバーにコイルを巻きつけたもので、バーアンテナと垂直の方向からの信号を強くキャッチし、水平方向の信号はほとんどキャッチしない。ノイズの発生源を避けるように向きを変えれば、ノイズの影響は軽減できる(ただし、指向性はノイズだけでなく、当然放送局からの電波にも働くので、良好な受信を行うためには、ノイズ源と放送局の方角がなるべく90度に近くなるような位置を探すなどの工夫が必要だ)。ただし 携帯機器などでは、本体サイズの関係から、あまり大きなバーアンテナを内蔵することは難しい。アンテナの大きさは、感度にも直結してくる。つまり、ある程度のサイズがないと、良好なAM放送の受信というのは難しいということになる(ループアンテナなどを外付けすれば、バーアンテナよりも良好な指向性/感度を得ることも可能だ。ICZ-R50にはAM用のアンテナ端子が装備されており、しかも、外部アンテナ接続時に、内部アンテナをオフにするためのスイッチも用意されている。室内のノイズがひどい場合、効果を発揮するだろう)。一般的な中波ラジオでは、バーアンテナと組み合わせられた同調回路からの信号を、直にミキサーに入れている。それに対して、ICZ-R50では、1段の高周波増幅回路が搭載されており、そこで増幅を行った後にミキサーに入れられる。単純に増幅のみを行うのでは、ノイズなども増幅されてしまうことになるのだが、高周波増幅回路の後ろには同調回路があり、これにより、選択した周波数以外の信号を減衰させている。また、これにより、イメージ混信などの発生も抑えられている。
ラジオの性能は、感度が高ければOKのように思われがちではあるが、それは性能の一部にしか過ぎない。感度以外にも、選択度、忠実度、安定度など、良好な受信を実現するために必要な要素が存在する。感度以外で最も重要なのは選択度で、隣接した放送との混信をいかに防げるかという能力だ。これはIF段の特性によって決定される。ただし、IF段の帯域を狭くすると、それだけ音質、つまり忠実度は下がることになる。製品によっては、IF段の特性を切り換えられるようにしているものもあり、そういった製品では、混信がない場合には帯域を広くして良好な音質を、混信がある場合には帯域を狭くして可能な限り内容のわかる受信を目指すことが可能だ(効果は限定的だが、トーンコントロールでも、ある程度代用は利く)。ICF-R50には、選択度の切り換えスイッチは存在していないが、ラジオノイズカットボタンが装備されている。これをオンにすると、隣接した局からの混信や、高域のノイズが抑えられる。また、前述したように、安定度はPLLが採用されているICZ-R50では、基本的に問題となることはない。
さて、FMの場合と同じように、AM放送でもオートプリセットを行った。オートプリセットには、HとLの2つのレベルがあり、Hを選んだ場合には、受信可能な局をなるべく多く登録する。一方、Lを選んだ場合には、良好に受信できる局のみを登録するようになっている。今回は夜間に、Hでオートプリセットを行っている。中波放送の特性として、夜間だと、かなり遠隔地の放送局も受信できる。その結果が次の表だ。
プリセット番号 | 周波数 | 放送局名など |
---|---|---|
P01 | 540kHz | NHK第1と、外国語の放送が混信している |
P02 | 594kHz | NHK第1 |
P03 | 603kHz | 韓国語放送? |
P04 | 666kHz | ここもNHK第1。540kHzよりも受信状態がよい。関西圏らしい |
P05 | 810kHz | AFN |
P06 | 945kHz | 中国語放送? |
P07 | 954kHz | TBSラジオ |
P08 | 1134kHz | 文化放送 |
P09 | 1242kHz | ニッポン放送 |
P10 | 1323kHz | 中国語放送? |
P11 | 1350kHz | RCCラジオ |
P12 | 1422kHz | ラジオ日本 |
RCCラジオは広島の中国放送だが、夜間になると関東でも普通に聞こえてくるおなじみの放送局だ。540kHzの放送は、かなり微弱なうえ混信もある。ラジオノイズカットをオフにした状態では、混信がひどく聞き取れないが、オンにすれば、内容を認識できる部分もある。NHK第1と思われるが、となると松本か山形あたりなのだろう。なお、ラジオノイズカットは、放送を聞く時だけに効果があるのではなく、録音したファイルにも、その効果は適用される。基本的に受信できて当然な局は、普通に受信できている。窓のそばといっても室内で、内蔵のバーアンテナのみでの受信なので、このような結果となったが、外部アンテナを使用すれば、また別の結果が出ただろう(ちなみに手持ちの、古いトランスレス真空管ラジオでは、594kHzのNHK、810kHzのAFN、954kHzのTBS、1242kHzのニッポン放送、1350kHzのRCCラジオ、1422kHzのラジオニッポンが受信できている)。ICレコーダーとAMラジオとの組わせであるが、とくに目立ったノイズも感じられない。ICZ-R50は、普通に受信できる放送を聞く、あるいは録音するための製品で、遠隔地の放送を無理やり受信するための製品ではないのだろうが(そういった用途向けには、同社は、また別の製品をリリースしている)、そういった用途に使用しても、なかなか面白いのではないかと思わせる製品だ。録音するために、他の機材を用意しなくてもよいというのは大きなメリットだし、録音した放送を聞くための様々な機能も便利だ。