運動会シーズンが終わった。子どもの成長を知るいい機会だが、なかにはわが子の体力のなさにガッカリした親もいるのでは? 体の資本はやはり体力。勉強がどんなにできたって、運動がからっきしダメ…というのも考えものだ。子どもの体力を伸ばすために親はどんなことを心がけたらいいのだろう。東京・青山の「こどもの城」で長年子どもの体育指導を行ってきた中村裕先生(体育事業部長)に話をうかがった。
運動の能力がないというより、経験が足りない子が多い
――先月文部科学省が公表した2009年度の体力・運動能力調査では、中学生男子(13歳)の50m走が1985年頃の水準に戻るなど、回復傾向もみられましたが、全体としては依然として低水準だったようですね。中村先生は最近の子どもたちの運動能力についてどう感じていますか?
運動の能力が下がったというより、経験が足りない子が増えたとは感じています。2、30年前も運動の苦手な子はいました。ただ以前は100人に対して10人くらいだったものが、今は100人に対して20人になったという感じです。
たとえば、野球をさせてみるとわかります。ボールの投げ方や取り方を知らない子が多く、フォームがぎこちないのです。むかしだったら自分が野球をしなくても、近所で年上の子が野球をしていて、自然にこうやって投げるのだと理解していったものですが、そういう機会もないのでしょう。
特に都会では子どもたちが運動しようにも、「遊ぶ場所」も「時間」も「人(仲間)」もないような状況。公園に行っても危険だという理由で固定遊具がないことが多い。昔は回旋塔なんかもあって、手がすべって飛びそうになったり、落ちてしまったりもしましたが、それによってこれ以上は危ないという感覚を身につけることができたものです。今の子どもたちを取り囲む環境も、子どもの運動経験を少なくさせてしまっていると考えています。
鬼ごっこは遊びの原点であり、スポーツの原点
――子どもの運動経験を増やすために、具体的に親は子どもにどんなことをさせたらよいのでしょうか?
お母さん方から「運動ができる子どもにするために、どういうトレーニングをしたらいいですか」と聞かれることがよくあります。そのときは「運動能力を伸ばすにはとにかくよく歩かせ、よく走らせることが大事です」と答えています。最近は歩いたり、走ったりすることが少ないために背筋や腹筋が弱い子どもが多いように感じます。直立して歩くということは背筋と腹筋を鍛え、脚力もつく全身運動で、運動の基本です。
――どんな方法で歩かせたり、走らせたりするのがよいのでしょうか?
3歳くらいまでは、広いところで歩いたり、走ったりするのはそれだけで楽しいことですが、次第にそれだけではつまらなくなり、5歳くらいになると外遊びにも"しかけ"が必要になります。楽しみながら歩いたり、走ったりできるゲームがいいですね。
たとえば、親子でじゃんけんをして、負けた方が決めた場所までケンケンで行く「ケンケンゲーム」もいいし、公園なら木の枝を何度も投げ、目標の場所まで何回で届くかを競う「木枝ゴルフツアー」も楽しいですよ。鬼ごっこや缶けりもおすすめです。
――最近は「鬼ごっこ」の良さも見直されてきているそうですね。
ええ、私も運動神経や体型、性別といったものに関係なく楽しめる鬼ごっこはすばらしい遊びだと考えています。仕事で全国を回ることがあるのですが、その地方によってルールはいろいろですね。本当に数えきれないほどの種類の鬼ごっこが存在するんですよ。私はラグビーが好きなのですが、よく考えると、鬼ごっことラグビーは似通っているところがあるんです。鬼ごっこは遊びの原点であり、スポーツの原点ではないかと思っています。
小学生低学年くらいまでの子には「となりの子はできるのに」は言わない
――運動会や体育の授業などでは、たとえば鉄棒などができずに運動に苦手意識を持つ子もいるようです。そんなとき親はどうしたらいいでしょうか?
「となりの子はできるのに」というセリフは言わないでください。幼児や小学生低学年くらいまではマイナス面は言わない。運動は何回も繰り返してやることで脳に刺激を与えることでできるようになります。A君ができるのにうちの子ができないから焦ることはないし、「この子は運動はダメ」と見切ってしまうのもよくありません。確かに遺伝的なものはありますが、やればやるだけできるようになります。同じことを3回でできる子もいれば、20回かかる子もいる。そういうことなのです。
――ほめてあげることも大事なことですか?
子どもを運動嫌いにしないためにはほめてあげることはとても大事なことです。子どもはそもそも親に喜んでもらいたいものです。少しでもいいところがあれば、褒めちぎってあげてください。
褒めて自信を持たせてあげることで、それまでできなかったことができるようになることはよくあります。極端な例ではありますが、以前鉄棒で逆上がりに挑戦していた年長児の女の子がいました。あと少しというところでうまくいかなかったのですが、スタッフが「きょうは○○ちゃんのリボンかわいいね」とリボンをほめたのです。その後すぐに逆上がりができたんですよ(笑)。
――子どもが小さいときから水泳教室や体操教室に通わせている親も多いですが、子どもが行くのを嫌がったときにはどうしたらいいですか?
小学生の低学年くらいまでは本人があまりに嫌がっている場合、無理に通い続けることはないと思います。逆に運動嫌いになる可能性がありますね。ただ、小学生も中学年になれば、「ここでもう一度頑張ってみよう」と励ますことも大事です。すぐに「そうか、じゃやめよう」では、うまくいかないときにはすぐに"逃げる"子になりかねません。そのあたりのさじ加減も大事です。
楽しかったり、うれしかったり……。こどものうちにそんな運動の体験がたくさんあれば、運動嫌いにはなりません。大人を見ていてもそう思います。医者から言われてスポーツクラブ通いを始めた人はなかなか続きませんが、体を動かす喜びを知っている人は長続きすることが多いですから。運動の経験を増やしてあげ、たくさんほめてあげることでどんどん子どもの運動能力を高めてあげてほしいですね。