レオナルド・ディカプリオの最新主演作「シャッター アイランド」は、四方を海に囲まれた孤島を舞台にしたミステリー映画だ。監督はマーティン・スコセッシ、原作は「ミスティックリバー」の作者デニス・ルヘインによる小説という豪華な顔ぶれで、これはもう否応なく期待が高まるわけだが――実はもう一つ、本作には日本限定のとある仕掛けが施されている。

それが「超日本語吹替版」である!

……わかる、わかるよ。今モニターの前でこの記事を読んでいる皆さんのその渋い表情、すごくこっちに伝わってきたよ。僕も思ったもん。「"超"って何だよ」って思ったもん。

ということで、まずは「超日本語吹替」って何ぞやというところを説明しておこう。

超日本語吹替によるやり取りに注目!

日本で洋画を見る場合、だいたい「字幕」と「吹替」を選べるようになっているというのは皆さんご存じの通り。そして現在の主流となっているのはおそらく「字幕」の方なんじゃないかと僕は思っている。というのも、吹替版には次のような不満があるからだ。

・俳優と声とのイメージが合ってないことがある

・台詞と口の動きが大幅にズレることがある

・大人の事情により声の演技があまりうまくない人が起用されることがある

こういった理由で字幕派は吹替を敬遠する傾向にあるわけなのだけど、この「超日本語吹替」では逆にそこに目を付け、次のように宣言したのだ(※以下、公式サイトより引用)。

1.字幕・吹替の微妙なズレを無くします(字幕翻訳者戸田奈津子さんが吹替版を初監修)

2.プロの声優だけを使います

3.翻訳的な言い回しを避け、違和感の無い話し言葉にする

4.役名をわかりやすく表記します

5.大人のための吹替版を目指します

……なんだかすごそうな雰囲気は伝わってくるけど、いまいちよくわからないという方のために、ここからは「シャッター アイランド」の内容にも触れつつ、各項目について説明していこうと思う。

観客はディカプリオの視点で事件の謎を追う

本作の舞台は1954年のアメリカ、ボストンの沖合に浮かぶ孤島、シャッター アイランド。連邦保安官のテディ(レオナルド・ディカプリオ)は新しい相棒のチャック(マーク・ラファロ)と共に、精神を患った犯罪者を収容するアッシュクリフ病院を訪れる。彼らの目的は女性患者失踪事件の捜査。しかし事態は思いも寄らぬ方向へと展開していく――。

さて、まずは「字幕・吹替のズレ」についてだが、これはつまり"英語と日本語の単語数の違いによって生じるズレ"のことである。

語学力がないので公式サイトの例を引用しよう。たとえば「Were you a nurse?」を翻訳する場合、本来は「看護師?」の一言で十分意味が通じる。しかし「Were you a nurse?」では3回唇が動いているため、「看護師?」だけでは明らかに映像での唇の動きが余ってしまうのだ。そこで「超日本語吹替版」では、「看護師だったのか?」と言い回しを変えて、言葉と唇の動きを合わせているのである。……なんて面倒くさい作業! でもだからこそ、やる意味があるといえるのかもしれない。

では肝心の効果のほどはどうだったのかというと、確かに唇とセリフのズレは最後までほとんど感じなかった。さらに「翻訳的な言い回しを避け、違和感のない話し言葉にする」というもう一つのこだわりともうまく両立できており、セリフ部分での「超日本語吹替」の狙いは概ね達成できているといっていいだろう。

会話は確かに自然である

……ただし、従来の吹替での"唇とセリフのズレ"を、どれほどの人がそこまで気にしているかはわからない。一般的な観客にとってインパクトがあるのは、むしろ「プロの声優だけを使います」や「役名をわかりやすく表記します」といったこだわりの方だろう。特に「プロの声優だけを使います」という宣言は、最近の"にわか声優"ブームに辟易していた方にとっては朗報である。

さて、「超日本語吹替」が成功している一方で、本作のストーリーはややわかりづらい。基本的には孤島に舞台を限定したクローズドミステリーなのだが、そこにテディの回想シーンや夢がちょこちょこ挟まってくるため、どこまでが現実なのかという部分が若干曖昧になってしまうのだ。とはいえ、謎解きのためのヒントはそうした回想シーンも含め随所に丁寧に設置されており、決して理不尽なミステリーではないところは評価したい。

回想シーンにも重要なヒントが……

オチには賛否両論ありそうだが、誰かと一緒に見てあれこれ話すにはぴったりの映画である。せっかくなので、映画館では「超日本語吹替」を選び、どっぷりと物語の世界に浸かってほしい。

『シャッター アイランド』は、4月9日よりTOHOシネマズ スカラ座ほかで全国ロードショー。

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