独立行政法人・情報通信研究機構~空中に結像する映像の不思議、それに触れる不思議

独立行政法人・情報通信研究機構、第二研究部門 知識創成コミュニケーション研究センターの前川聡氏が展示していたのは、映像を空中に結像させる不思議な「光学素子」だ。

空中に結像したその映像は確かに立体感があり、そこにそのものがあるように見える。ちゃんと奥行きのある実像が垂直に起き上がって見えるため、なんとも不思議な感覚が味わえる。

これはTMD(Transmissive Mirror Device)、日本語訳としては「面対称結像光学素子」と命名された光学素子だ。

この素子はナノテクノロジを用いて作られており、金属製の薄い素子基板に100ミクロン角の四角形の穴を10ミクロンピッチで貫通さて、さらに直交する内壁の隣接する二面に対してアルミのマイクロミラーを蒸着させた構造となっている。いうなれば、直角に合わせた微細な立て鏡を無数に配列させているというイメージだ。この構造には「微小2面コーナーリフレクタアレイ」(Micro Dihedral Corner Reflector Array)という名前が付けられている。

上から凸レンズ、鏡、TMD

TMDの構造と顕微鏡写真

TMDの実物単体写真。まだまだとても小さいものだが、前川氏によれば、これでも非常に高価だそうで「車が新車で買えるほどの値段がする」とのこと

TMDは実像を面対称位置に結像させる。もちろん結像させる像は液晶画面のCGだけでなく、実体物でも立体映像でもOK

他者から見れば何をしているが訳が分からないが、被験者からすると指の位置に映像が見えている

体験位置に来るとこんな感じに見える。蝋燭の芯は実在のもの。炎がCGだが、視点を変えても実体物の蝋燭の芯の位置に炎が結像している。すなわちこれはCGが空中に立体的に結像していると言うこと

こうした2面コーナーミラーの特性として、各鏡の垂線で作る平面内においては光を再帰的に反射するという特性がある。この特性を持つ2面コーナーミラーを同一平面内にアレイ構造で配置させると、ある位置の点光源から発せられた光線は、その平面内の全ての2面コーナーミラーで反射されるため、その位置の面対称位置を必ず通る。これが空中に映像が結像するタネだ。

なので、TMDを挟んで面対称位置にオブジェクトを置けば、それが浮いて見えるし、同様にTMDを挟んで面対称位置にディスプレイパネルを置けば、その表示を浮かせてみせることができるというわけだ。

ブースでは、この空中に結像させた映像に対しユーザーが触れるというインタラクションのデモまでを披露。液晶ディスプレイを指で触って操作するタッチパネルは一般化しているが、展示されていたシステムでは、このTMDによって結像した空中映像に対して指で触ることができるのであった。

空中映像タッチパネルともいうべきこの仕組みは、格子配置したレーザーセンサーを用いて指の位置をセンシングすることで実現している。

ブースに用意されていたデモは息を吹きかけると空中に結像したロウソクの火が消えるというものと、空中に結像したノートパッドに対して指で線が描けるというものの二種類。

デモシステムは両方とも空中映像自体が小さく、インタラクションの範囲も狭かったが、TMDの大型サイズが実現できればSF映画「マイノリティ・リポート」で登場したような、空中へのジェスチャーだけでPCが操作できるインタフェースが実現できるようになるかも知れない。

空中タッチパッドディスプレイの概念図。空中結像させたい位置に対し、TMDを挟んで面対称位置に液晶ディスプレイを置くことになる

空中タッチパッドディスプレイを体験しているところ。これも端から見ていると何をしているのかよく分からない

空中に結像したノートパッドに線画を描いているところ。TMDが小さいせいでインタラクション範囲がまだまだ狭い

フレーム部分はレーザーセンサーパネルがあるだけでフレーム内部は中空。ここにディスプレイがあるわけではない

レーザーセンサーの基本原理。遮蔽物や空気密度の変化による微細な光線焦点のずれ(シュリーレン現象)を検出する

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