マイクロソフトの基礎研究を担う組織が、マイクロソフトリサーチである。10年後の世界を視野に捉え、それに向けた技術開発を行う。

現在、マイクロソフトリサーチは全世界に6拠点。約850人が勤務する。アジア太平洋地域には、中国・北京にマイクロソフトリサーチアジアが置かれ、Windowsをはじめとする各種製品向け、Bingをはじめとする各種サービスに活用される基礎技術を開発してきた経緯がある。

このほど、マイクロソフトリサーチアジアの所長である、洪小文(シャオウェン ホン)所長が来日。マイクロソフトリサーチアジアの取り組み成果や、日本の大学、研究機関との連携などについて話を聞いた。

--最初に、マイクロソフトリサーチの取り組みについて教えてください。

マイクロソフトリサーチアジア 所長 洪小文(シャオウェン ホン)氏

ホン マイクロソフトリサーチは、1991年9月に、マイクロソフトの本社がある米ワシントン州レドモンドに設立され、現在、英国・ケンブリッジ、中国・北京、米カリフォニア州マウンテンビュー、インド・バンガロール、米マサチューセッツ州ニューイングランドにも拠点を配置し、全世界6か所の体制となっています。

ミッションは、「すべての研究について、その最先端の研究領域を拡大すること」、「革新的な技術を速やかにマイクロソフト製品に技術移転すること」、「マイクロソフト製品の将来性を確かにすること」を掲げています。従事する研究者は850人以上。グリーンITや環境保護、人間とロボットの相互作用、e-homeなど、55の分野において研究を行っています。

北京に拠点を置くマイクロソフトリサーチアジアは、1998年11月に設立し、これまでの10年間に数々のイノベーション、研究成果をあげています。ナチュラルインタフェースや次世代マルチメディア技術、検索技術およびオンライン広告技術などの研究分野に対して、20のリサーチグループがあり、これまでに発表した論文は3000以上に達します。過去5年間にマイクロソフトが発表した論文の10%がマイクロソフトリサーチアジアから出ています。また、Windows7やBing、Windows Liveなどのマイクロソフト製品への技術移転は260以上となり、過去4年間における他社への技術ライセンス数は20件に達しています。

--マイクロソフトリサーチでは、10年先の技術を研究することを目的にしていると聞いています。その観点から、現在、重要なテーマはなんですか?

ホン 「3つのスクリーンと、ひとつのクラウド」です。これは、マイクロソフトリサーチアジアが取り組んでいるテーマではありますが、同時に、マイクロソフト全体のコンセプトであり、業界全体で共有している課題でもあります。

3つのスクリーンとは、「パソコン」、「薄型テレビ」、「携帯電話」。こうした高性能な端末を利用して、クラウドの世界で提供されるサービスをいかに利用するか。そこに向けた技術が、これから10年のテーマになります。なかには、クラウドこそがすべてであり、それを利用する端末は、機能がないダム端末でいいという人もいますが、それはあまりにも近視眼的な見方です。多くの人々は、パワフルなデバイスを手に入れようとしています。

例えば、携帯電話やスマートフォンも、最新のものを手に入れようとする人は多いですし、テレビやゲーム機もかなり早いサイクルで買い換えています。また、PCやネットブックにも高機能を求めている。クラウド時代になっても、この考え方は変わらないでしょう。クラウドによる、より良いサービスを受けるには、手元に持っているデバイスも、より優れたものであった方がいい。ユーザーインタフェースも、音声入力やタッチパネル、フルカラー表示である方がより使いやすい。そうしたことを考えると、クラウドだけが進化するのではなくて、3つのスクリーンも、それにあわせて進化することが必要だということになります。

1991年に、ビル・ゲイツが、「Information at Your finger tips(あなたの指の上に情報を)」というビジョンを打ち出しました。それから20年近くを経過して、これがいよいよ現実になろうとしている。いつでもどこでも、どんなデバイスを通じても、情報にアクセスできるようになる。そのためにはクラウドだけでなく、デバイスの進化がこれからも続いていきます。

「3つのスクリーンと、ひとつのクラウド」