東芝は、新たな中期経営計画を発表。インフラサービスとデバイスの2つの中核事業を、それぞれ新規上場会社としてスピンオフし、東芝を含めて独立した3つの会社へと再編する方針を示した。2023年度下期のスピンオフおよび上場完了を目標にしている。新会社の名称については、東芝の冠を残すかどうかを含めて現時点では未定としている。
インフラサービスとデバイスをスピンオフ
東芝 代表執行役社長兼CEOの綱川智氏は、「株主価値の向上という観点に加え、すべてのステイクホルダーの視点に立ち、事業ごとのビジネスの特性、バリューチェーン、ビジネスサイクルなどの観点から徹底的な議論を行い、この戦略的再編がベストであるとの結論に至った。東芝は140年以上の長い歴史のなかで、時代の変化とともに、会社の形を変えて、進化してきた。新たなインフラサービスカンパニーとデバイスカンパニーは、それぞれの事業領域でリーディングカンパニーとなることを目指す。未来に向けた変革の始まりである」としたほか、「シンプルな構造にすることで大きな価値を顕在化すること、専門的かつ俊敏な経営を実現すること、株主への選択肢を増加させることがスピンオフの狙いとなる。それぞれが分離、独立するなかでも、『人と、地球の、明日のために』という東芝の経営理念と思いは引き継ぎつつ、それぞれの事業が新しい企業風土のもとで、成長していくチャンスであり、持続的で利益ある成長を実現するためのステップであると考えている。広く社会に貢献できる存在であり続けたい」などとした。
インフラサービスの新会社は、発電や送変電、再生可能エネルギー、エネルギーマネジメントを行う「エネルギーシステムソリューション」事業、公共インフラや鉄道、産業向けシステムソリューションを行う「インフラシステムソリューション」事業、官公庁・民間企業向けITソリューションを担う「デジタルソリューション」事業のほか、ビルソリューション事業や電池事業で構成。2021年度の売上見通しは2兆1,000億円となる。「革新的な技術とともに、専門分野に特化したソリューションを提供することで、再生可能エネルギーへの転換において、主導的な役割を果たし、地球規模で掲げるカーボンニュートラルの目標達成、インフラレジリエンスの向上に貢献する会社になる」と位置づけた。
デバイスを担当する新会社は、パワー半導体や光半導体、アナログICなどの「半導体」事業、データセンター向け大容量HDDの「HDD」事業のほか、半導体製造装置などで構成。2021年度見通しで、8,700億円の売上げ規模を持つことになる。「社会やITインフラの進化を支えるリーダーを目指す」とした。
また、東芝は、キオクシアと東芝テックで構成。キオクシアの株式については、現金化することになる。また、連結子会社である東芝テックについては、「決定したことはない」としながらも、「データ事業やデジタル化のなかで、欠くことができない会社である」と語った。
東芝の綱川社長兼CEOは、再編の考え方として、「大きく異なるビジネス特性の観点から、2つの事業を分けるべきと判断した」とし、「インフラサービスカンパニーは、特定した顧客向けに、直接、機器やソリューションを提供することが特徴であり、ビジネスサイクルは長期に渡るものが多く、市況よりは当事者間の交渉内容に影響を受ける。設備投資の規模は相対的に小さく、個別に受注生産を行う。一方、デバイスカンパニーは、ビジネスサイクルが短く、市況に大きく左右されることが特徴である。多くの顧客ニーズに合致する、多くの品種を提供するために見込み生産も行う事業である。多額の設備投資を機動的に行う必要がある。このように、インフラサービスカンパニーとデバイスカンバニーは、ひとことでいうと、経営重心が違う。これをひとつのところでやっていた。スピンオフすることで、専門性のある経営体制で、それぞれの市場機会を捉え、競争優位性を確保することができるほか、従業員にとっても、自己成長の破壊を得ることができ、特定分野での成長の可能性が生まれる。メリットの方が大きい」などとした。
再編案は株主価値のため? それとも競争力のため?
綱川社長兼CEOは、スピンオフのメリットとして、「経営体制の改善」、「資本配分の効率化」、「株主還元の拡大」の3点をあげた。
「経営体制の改善」では、それぞれに深い業界知識と明確な成長戦略を持つ、専門性の高い取締役と執行役を選定し、社外からの人材起用も含めた新たな経営体制を構築すること、マネジメント階層の削減により、迅速な意思決定を実現すること、それぞれの事業が必要に応じて、潜在的戦略パートナーを独自に選定できることが容易になるという点をメリットにあげた。
「資本配分の効率化」では、業界ベンチマークをもとにした継続的なポートフォリオとコスト構造の見直しや、特定の事業領域や事業要件に合致した効率的で、効果的な資本配分方針を設定。資本市場との直接的な対話の機会が増えることで、株主価値の最大化を意識した経営が可能になるとした。
「株主還元の拡大」では、キオクシアの株式について、株主価値の最大化を図りつつ、実務上可能な限り速やかに現金化し、手取り金純額については、スピンオフの円滑な遂行を妨げない範囲で、全額株主還元に充当するとの考えを述べたほか、適切なレバレッジの活用を図るとともに、事業売却を含むポートフォリオのさらなる見直しを継続することをあげ、「今回の戦略的再編は、株主価値創造と還元をコミットするための新たなステップと捉えている」とも述べた。
また、綱川社長兼CEOは、「約5カ月間に渡り、毎週のように討論を行い、あらゆる選択肢に対して、検討を重ねてきた。その結果、最善の選択であると結論づけたのが今回の戦略的再編である。戦略委員会も相当な時間と労力をかけて、オプションとの比較検討を行い、最適な道筋を検討してくれた」と振り返った。
東芝 戦略委員会のポール・ブロフ委員長は、「今回の計画が、すべての株主にとって、価値創造のための最適な選択であることを確信している。東芝の進化における大きな転換点になるだろう。日本の商慣習に縛られない大胆な取り組みであり、東芝のような大企業が、これほど斬新なステップを選んだのは、長期的な株主価値創造に向けて、最良の道を進むという決意の表れである。幅広い選択肢と比較した結果、客観的なプロセスを経て、この結論に達した。高い柔軟性とリターン増大の機会を含めて、株主に最も大きな価値創造のポテンシャルを提供できると考えた。東芝にとって、絶対的に正しいステップであり、新たな価値創造への道を歩むためのエキサイティングで、活気に満ちた重要な一歩になることを確信している」と語った。
再編については、スピンオフ税制を利用した適格組織再編を目指しており、産業競争力強化法の活用など、最善で、最も効率的な方法での検討を進めているという。
スピンオフする事業は、事業年度2期分の監査が必要であるため、2021年度からこれを視野に入れた取り組みを実施するほか、2022年1月~3月の間に、臨時株主総会を開き、株主の意見を聞く機会を設けたり、戦略委員会のメンバーを含んだステアリングコミッティを設置し、準備を着実に進めるという。
「株主総会決議や規制当局による審査要求事項を満たすことを条件に、2023年下期に上場完了を目指すが、実行可能な範囲で、プロセスを速める努力をする」(綱川社長兼CEO)とした。
スピンオフに伴うコストとして、2021年度以降に100億円程度の発生を見込むが、各事業で業界ベンチマークに基づく販管費削減により、スピンオフコストを相殺できるとしている。
東芝の畠澤守副社長は、「今後3年間は、スピンオフを確実に実行すること、スピンオフ後の成長に向けた布石を打つための大切な期間になる。スピンオフ完了後には、さらに財務状況の改善が加速することになり、この3年間でも研究開発投資は増やしていく」とした。
今後3年間にスピンオフ後の成長に向けた布石
説明会では、今後3年間の事業計画についても言及した。
インフラサービスカンパニーでは、2023年度に売上高2兆2,300億円(年平均成長率3.3%)、営業利益は2,000億円を目指す。また、今後3年間で2,160億円の設備投資、2,320億円の研究開発投資を行うほか、M&Aの投資も計上。合計で4,830億円を投資する。
東芝の畠澤副社長は、「インフラサービスカンパニーは、顧客やパートナーが掲げている意欲的なサスティナビリティ目標の実現を支援することになる。カーボンニュートラルとインフラレジリエンスという2つの重要な社会課題の解決に取り組むことができる理想的なポジションにいる。エネルギー分野、インフラ分野における成長の鍵は、AI、セキュリティ、プラットフォーム技術との融合である。サイバーフィジカル技術を活用したソリューションを提供するビジネスへの転換を進める。デジタルを掛け合わせることで、国内トップクラスの地位を確立し、アジアを中心にグローバル市場でのシェア拡大を目指す。営業利益率5%を確実に維持し、ROICも10%を維持するなど、安定した財務基盤と力強い成長見通しを持っている」などとした。
エネルギーでは、電力事業者への機器や設備の納入実績や、エネルギーマッチングやエネルギーマネジメントサービスを通じたエネルギーの効率的利用の促進のほか、フィルム型ペロブスカイト太陽電池などの先端技術による提案、パートナーとの連携によるバリューチェーン全体での提案を進めるという。
また、インフラでは、最適運用の促進や、セキュリティ確保をしたレジリエンスの実現、保守サービスの提供に加えて、今後は蓄積したオペレーションの知見とインフラ事業者向けのデジタル技術を融合し、劣化診断を含むアセットマネジメントやO&M、自動化および省人化ソリューション、コンサルティングなどを提供し、コスト最適化の提案も行っていくという。
デバイスカンパニーでは、2023年度に売上高8,800億円(メモリ転売分を除いた年平均成長率3.3%)、営業利益は540億円を目指す。3年間の設備投資は1,880億円。研究開発費は1,530億円。パワー半導体製造設備の増強に加えて、半導体開発設備の能力強化、ニアラインHDDの供給能力増強を行うなど、厳選した分野に投資をしていく姿勢をみせた。
「カーボンニュートラルの実現をはじめ、広く社会に貢献する事業になる。顧客との関係性、長年に渡る技術開発の経験、生産能力の構築などを強みとし、速いビジネスサイクルにフォーカスしながら事業拡大を図っていく。主要製品をグローバルに提供できるポジションを確立しているのが特徴であり、技術を、利益と成長に結びつけることができると考えている」と述べた。
パワー半導体分野では300mmライン設備や、化合物半導体の開発などに積極的に投資。機器や社会インフラの電力効率の改善を加速させるという。パワー半導体の売上高は、2021年度の950億円を、2023年度には1,200億円にまで拡大する計画だ。
また、データセンター向けのニアラインHDDでは、大幅な市場成長が見込まれることを捉えて、キーコンポーネントの開発協業により、専門領域の先行開発と生産性向上を図り、大容量製品の開発を加速するほか、データセンター顧客のサポート体制の強化に取り組むという。ニアラインHDDは、2021年度には2,000億円の売上高を、2023年度には2,800億円に拡大する計画だ。
東芝グループ全体では、2023年度に売上高3兆5,000億円、営業利益は2,000億円、営業利益率5.7%、EBITDAが3,300億円、ROICが10%、フリーキャッシュフローは1,000億円を目指す。
これまで東芝が打ち出していた東芝Nextプランでは、2023年度には売上高で4兆円以上、営業利益では8%以上としていたものに比べると下回るが、綱川社長兼CEOは、「東芝は、過去の中期計画を達成した試しがないと戦略委員会からも指摘された。確実にやり切る数字を考えて、今回の計画に盛り込んだ」としたほか、「半導体が不足している状況を考えると、300mmのパワー半導体の生産ラインへの投資は半年前には決断できたのではないかという反省がある。半導体の分社会社があり、本社があり、経営会議がありという体制によって、俊敏な判断ができなかった。新たな体制では、それぞれの市場、競争原理、競争相手を鑑みた上で、専門分野にフォーカスした執行部が速い決断を下し、スピード勝負により、グローバルに勝ち抜くことを目指す」としたほか、「東芝には、テレビも、家電も、パソコンもなく、メディカルもない。総合電機メーカーという感覚はもはやない。今回の再編は、総合電機メーカーの解体ではなく、未来に向けた進化である。未来に向かって進みたい」とした。
さらに、「事業を通じて、社会課題を解決することが重要であり、個人的にはブランドにはこだわらない。東芝メディカルはキヤノンメディカルになったが、コロナ禍において貢献しており、やってきた仕事が社会に貢献し、従業員が満足し、大きくなっていることをうれしく感じている。それが理想である。3分割して、社名がどうなるかということよりも、使命やミッションをどう実現するかが大切である」などと述べた。
ガバナンス強化のその後、経営陣は反省すべき
一方、綱川社長兼CEOは、11月12日に提出されたガバナンス強化委員会による調査報告に関してもコメント。「ガバナンス強化委員会は、東芝の再生のためには、ガバナンスの再構築が不可欠であるとの強い思いを描き、東芝の将来のために報告書をまとめていただいたと認識している。違法性の問題は指摘されていないが、市場が求める企業倫理に反する行為を取っていたことは、経営者として恥ずべきことだと思っている。しっかりとガバナンスの議論をしていくが、東芝が打ち出す再発防止策は毀損されたと信頼を回復するための第一歩だと考えている。東芝グループの価値観のひとつに、誠実であり続けるという一文がある。現場の社員の多くは、この価値観を持って、日々仕事に取り組んでいる。一方で、一部の経営陣がこの価値観からかけ離れた行動をとっていたことについて、会社とて真摯に反省すべきだと考えている。企業経営はすべてのステイクホルダーとの信頼関係の上に成り立つものである。組織のリーダーが、倫理観や誠実さを大切にする姿勢を示す重要性がある。誤りを認める文化、上に意見が言える風通しがいい組織を築くことに注力してきたが、もう一歩掘り下げて、再度、地道な努力を積み重ねたい。『重く受けとめ、再発防止に取り組む』というひとことで終わらせるつもりはない。執行部でブレインストーミングをして、どうすればいいのかということを、時間をかけて、しっかりと決めて、実行をしていきたい。ガバナンスを強化していくことは最重要課題であり、分社後の新たな経営陣に最も求める要素である」と述べた。