日本エー・アイ・シーが2015年から販売する「グラファイト グリル&トースター」は、同社がアラジンブランドで展開している暖房機「グラファイトヒーター」の「遠赤グラファイト」を搭載したトースター。遠赤グラファイトがわずか0.2秒で発熱する特性を活かし、短時間でおいしく焼き上げるトースト機能が評判を呼び、累計販売台数が100万台(2020年10月時点)を突破した。
そんな製品のフラッグシップモデルとして、2021年4月に発売されたのが「アラジン グラファイト グリル&トースター CAT-GP14A」。1台8役の機能をこなす新製品の発売の経緯と、開発過程におけるエピソード、知られざるこだわりを、日本エー・アイ・シー 企画本部 商品戦略課の片山幸二氏に伺った。
炊飯機能で「一日中使えるトースター」に
新モデルで特筆すべきポイントは、8つの機能を搭載するマルチさ。1~4枚の食パンを同時に焼けるトースト機能をはじめ、冷凍トースト、温め・オーブン、高温グリル、煮る、蒸す、低温調理・発酵のほか、なんと炊飯機能まであるなど、もはやトースターの域を超えている。
特に目をひくのが炊飯機能。専用の炊飯釜を用い、1~2合のご飯をお任せで炊ける。炊飯時間は1合で28分、2合で30分だ(浸水時間を除く)。トースターとしては異例の機能だが、片山氏はその発想の原点や、実装した経緯について次のように語った。
「実は、炊飯自体は従来モデルでも可能です。付属のグリルパンを使った炊飯方法を、公式サイトでご紹介しています。今回の機種で初めてなのは自動制御による炊飯機能です。トースターというと、これまでパンを焼く朝しか使わないイメージでした。炊飯機能を強化したのは、朝だけでなく一日中トースターをご活用いただくためです。トースターで炊飯する発想は、ダッチオーブンや飯盒(はんごう)炊飯から得ました」(片山氏)
かくして、トースターで炊飯器のような機能を実現する挑戦が始まった。だが、その開発・製造過程は、想像以上に苦労の連続だった。
というのも、通常の炊飯器と同様に、複数の要素を検討しなければならないためだ。その1つが炊飯釜の仕様。さまざまな比較の末、アルミ製の釜が採用された。「グラファイトヒーターの熱を効率よく伝えて早く炊けること」に加えて、「(試作した鉄製の釜よりも)軽くてお手入れしやすい」との理由で決まった。
次に取り組んだのは釜の厚みだ。0.6ミリ、2ミリ、3ミリで炊き比べたところ、「薄いほうが温度ムラが出やすく、炊き上がりにも差が出た」という。ただし、「仕上がり自体は厚いほうがよかったのですが、扱いやすさとも両立しなければなりません。その兼ね合いで3ミリが最適と判断しました」と片山氏。他にも「塗装の色も温度の上昇度合いなどを測定し、グラファイトヒーターの熱を効率よく集める黒色を採用しました」と明かす。
多角的な検証で行きついた、昔ながらの炊き方
グラファイトヒーターによる炊飯は、スタートして約30分で蒸らし工程まで完了する。炊飯時の火加減の自動制御プログラムを完成させるため、まずは「おいしいご飯」の基準づくりから始めた。
「土鍋で炊いたようなご飯を目標に、火加減を調整していきました。まず、釜の厚みや形状が違う土鍋で炊き比べをして、(チーム内で)おいしさの基準を作りました。次に、沸騰までにかかる時間や中の温度を測って検証したところ、たどり着いたのは、やはり昔ながらの『はじめちょろちょろ中ぱっぱ』という炊き方でした」(片山氏)
検証の結果、炊き方のプログラムは伝統的な炊き方に即した構成に。続いて、食味の評価も多角的に行った。
「食味に関する評価は、ある程度は感性に基づく感覚的なものですが、顕微鏡でお米のサイズを確認したり、ヨウ素液を使ってα化の反応を見たり、化学実験さながらの手法も試しました。製品化までには2年ほどかかっていますが、学生時代は化学系だったこともあり、その過程は楽しかったです」(片山氏)
トースターで炊飯まで行えるユニークな機能を実現した、「アラジン グラファイト グリル&トースター」のフラッグシップモデル。その開発過程は、機械設計の枠組みを超えて、化学の領域にまで踏み込み、一から挑んだもの。技術者の飽くなき挑戦とその姿勢に敬服する。