シトロエンが原点回帰と電動化を地元パリから発信|新型C5エアクロスとマイチェンしたアミに込められた意味とは?

フランスのメーカーはしばしば新型車の発表会をするだけでなく、「ブランド・デイ」と題して、最新モデルから展開する新しいデザイン・ランゲージやラインナップ・ファミリーを先行的に示すことを熱心に行う。日本では商品が優れているからブランドになったと、よく結果論で考えられがちだが、元より秀でたメゾンからしか優れたプロダクトは生まれないからだ。卵か鶏、どちらが先かという話のようだが、かくかくしかじかのプロダクト群が沢山出ますよというメッセージのみならず、そうしたニューモデルをなぜ用意したか、フランス的にはメゾンありきでブランドとしての姿勢をまずは示すところなのだ。

【画像】フランス、パレ・ド・トーキョーで披露されたシトロエン新型「C5エアクロス」とマイナーチェンジされた「アミ」(写真14点)

今回、シトロエンが発表したのは新型の「C5エアクロス」と、フランス現地では”ヴォワチュール・サン・ペルミ(voiture sans permis、免許要らずの4輪車のこと)”にカテゴライズされる「アミ」のマイナーチェンジモデル。これらを地元・パリというか、昔はシトロエンの工場があったジャベル河岸にほどなく近いパレ・ド・トーキョーで披露したのだ。

シトロエンは1919年の創業以来「大統領から農民まで」、つまりDSというフラッグシップから大衆車たる2CVまで手がけてきたことで知られる。あらゆる社会階層の隅々にまでモータリゼ―ションを普及させるという20世紀的な課題に対し、今やEVもしくはハイブリッドによる「電動化」をすべてのレンジに押し広げ、あらゆる人々に電動モビリティへのアクセスを開くことが21世紀前半の新しいテーマ。それを先駆けるのが新しいC5エアクロスとアミという訳だ。

アミは欧州でもっともアフォーダブルなEVと捉えられており、新たに追加された「アミ・バギーFORオール」は7950ユーロから、特別仕様車のアミ・バギー・パルメイラが9980ユーロで、オンラインのみで販売される。ご覧の通り、往年のメアリを彷彿させる開放的なバカンス・カーぶりで、8月までに600台以上をデリバリー予定という。シトロエンは昨年来、欧州で新型C3をもローンチしており、ë-C3のショートレンジ版(航続距離200㎞)なら2万ユーロを切っている。MHEVもあれば、BEVの商用バン仕様もあるし、C3エアクロスでは7人乗り仕様も選べる。

かくしてエントリーモデルを分厚く強化した後に、満を持して登場したのが最新のデザイン・ランゲージによるC5エアクロスだ。STLMと呼ばれるステラミドル・プラットフォームに基づく車両はシトロエンとして初出で、これまでもC6や2代目C5などを生産してきたフランス西部のレンヌ工場で、フラッグシップモデルとして生産される。パワートレインはBEVとPHEV、48VのMHEVの3種類。BEVには73kWhのバッテリーと210ps/520㎞の通常モデル、97kWhに230ps/680㎞を組み合わせたロングレンジ版が用意される。外観上の区別は、フロントグリルが上段だけ開けられているのがBEV、ハイブリッド2車種はナンバーステー寄り下段もグリルとなる2段開口だ。

PHEVは直列4気筒1.6リッターターボ(150ps)+92kW(125ps)モーターの組み合わせで、システム最大出力は143kW(195ps)となる。PHEVのモーターは21kWhのバッテリーで駆動され、新開発のeDCS、つまり7速ダブルクラッチ式のトランスミッションに内蔵されている。シトロエンは市街地で約86㎞、回生の仕方によっては100㎞以上走行が可能で、シトロエンは650㎞の最大航続距離が可能という。

しかし注目は、単にエントリーモデルとは割り切りにくい、3気筒1.2リッターターボのMHEVだ。136psのエンジン出力に対し、通常で12ps (9kW)、ピーク時には 21kW(28ps)にまで出力を高める永久磁石同期モーターを0.9kWhという、これまたコンパクトなバッテリーでアシスト駆動する。組み合わされるトランスミッションは、新開発の6速eDCSで、ハイブリッドとして最適化されていることは間違いない。できるだけシンプルなメカニズムで効率と快適性を高めるシトロエン的アプローチが濃厚な仕様として、日本市場にももっとも導入が待たれる仕様といえる。

とはいえ、新しいC5エアクロスの外寸は小さくはない。欧州の認証値で全長4652×全幅1902×全高1660㎜というボディ外寸で、やはり目を引くのは全幅1902㎜だが、全長も初代より2代目の方が150㎜長い。しかしホイールベースは2784㎜と+60㎜ものエクステンドぶりで、広々とした室内空間ならびにC5 X並に快適なレッグスペースをもつリアシートと、シトロエンは強調する。そう、じつは新しいC5エアクロスは、シトロエンの新しいフラッグシップモデルと位置づけられているのだ。

だからこそ快適性にはあらゆる注意が払われている。「SUVラウンジ」を名のり、ソファのようなデザインの「アドバンスト・コンフォート」シートはさらなる進化を遂げ、シートファブリックはもちろん、水平基調のダッシュボードからシンプルな線で統一された室内は、モダンなサロンのようだ。

全体として非常にクリーンな線でまとめられたC5エアクロスのデザインを、デザイン部門ディレクターのピエール・ルクレルクはこう繙いてみせた。

「C3、C3エアクロス、そしてC5エアクロスの新しい世代のデザインでやろうとしたことは、顧客の期待に応じること。あらゆる調査が示した結論で、今日では多くの人々が安心できることを求めているのです。これはSUVに移行する人々が増えたことと関係しています。守られ、安心できることが必要だからです。ですから外観はシトロエンの強いアイデンティティを備えつつもかなり頑強なものにしました。内装は逆に、とにかくシトロエンらしい快適性、ファブリックやソフトな素材で丁寧に覆っています。前の世代のシトロエンのエクステリアはとても丸かったですが、私は就任した頃からそれを進化させることを求められていました」

それでも、昨今流行りの”スクワークル(スクエアとサークルを合わせた造語、四角く丸的なデザインを指す)”に陥っていないのはなぜか問うと、

「そう感じてもらえるのは嬉しいですね。数年前なら直線をあまり使わないことが流行りでしたが、コンセプトカー”Oli(オールイー、ALL Eの意)”で示したようにシンプリシティを突き詰めた結果、直線的な要素も多々あります。前世代のデザインが成功していた分、変化をもたらすのは容易ではありませんでした。今回はまずボディ自体を引き締めた上で、少しアドオン風の要素が突き出ています。C5エアクロスにおいて空力はとても重要なテーマでしたから、例えばリアコンビランプは薄いブレードをボディに食い込ませ浮いているかのような処理で、整流パーツを兼ねています。これはデザインに寛容なエンジニアと、フランス国内の認証機関のおかげで実現できたものです。またSUVらしくグラフィック的にはポイントを高く見せているのですが、キャビンを絞ることで空力も車内スペースも犠牲にしていません」

また室内で、先代C5エアクロスでは横長だったタッチスクリーンは縦長となり、従来の10インチから13インチにまで拡大されている。

「新たなフラッグシップという性質と昨今のトレンドから、もっと大きくてもよかったのでは?という声もありました。でもセンターコンソールから一体に延びるようなデザインで、手元のコマンド周りのエルゴノミーとはそれこそ、わずかにミリ単位で変えただけでまったく違うものとなります。だから15インチの方が良かった、とは一概には言えないんですよ」

この時代に、プレミアムを標榜するでもなくローコストを掲げるでもない。あくまでパリ発の大衆車ブランドとして、モビリティに貢献し続けることがシトロエンの矜持なのだ。

文:南陽一浩 写真:シトロエン、南陽一浩

Words: Kazuhiro NANYO Photography: Citroën, Kazuhiro NANYO