3番目に注目されたシーンは20時36分で、注目度68.9%。蔦重が田沼意次を「忘八」と罵倒するシーンだ。

平賀源内の殺人容疑を晴らすべく、蔦重は須原屋市兵衛(里見浩太朗)らとともに意次の屋敷を訪れていた。蔦重は源内に依頼した本の原稿が1枚を残し持ち去られていることを。市兵衛は源内が竹光しかもっていなかったことと、下戸であったことを理由に源内が犯人ではないと主張するが、意次の返答は歯切れが悪かった。蔦重は意次に考えを問うが、意次は今の源内ならやりかねないと答えた。

そこに田沼意知が衝撃的な知らせを持ってやってきた。「たった今知らせが参り、平賀源内が獄死したと」その場にいる全員に動揺が走る。大義であったと部屋から立ち去ろうとする意次に蔦重は食いかかった。「田沼様は、源内先生に死んでほしかったんじゃねえすか」荒ぶる蔦重を市兵衛や三浦庄司(原田泰造)がいさめるが、蔦重は止まらない。

「田沼様は源内先生に何か、まずいこと握られてたんじゃねえすか!」と詰め寄る蔦重に、「ありがた山、察しがいいな。俺と源内との間には漏れてまずい話など山ほどある! 何を口走るか分からぬ狐憑きは恐ろしいからな」と、意次は蔦重の言葉を否定しなかった。蔦重は怒りのこもった目で意次をにらみつけ、「忘八…この忘八が!」と、皆の前で意次を罵倒した。

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「これまで結構いい関係だったのになぁ」

ここは、斬り捨て覚悟の蔦重の暴言に、視聴者はヒヤヒヤしながら画面を注視したと考えられる。

源内の無実を訴え出た蔦重と市兵衛に、内心では源内の無実を確信している意次。しかし、意次は総合的判断で事態の早期収拾を図り、苦悩の末に冷徹な判断を下す。蔦重と政治の板挟みにあう渡辺謙の苦悶の表情が実に印象的だった。政治的責任のない蔦重には、意次が長年にわたって苦楽を共にした源内を裏切ったようにしか見えず感情が暴発。ついには現役の老中に「忘八」とまで言い放った。

SNSでは、「蔦重の口から発せられた意次への憎悪にまみれた『忘八が』がずっと頭に響いている」「蔦重と意次さま、これまで結構いい関係だったのになぁ」「蔦重、自分が慕ってる人のこととなると周りが見えなくなるから、須原屋さんが一緒にいてくれて良かった」と、暴走する蔦重にコメントが集まった。蔦重と意次が和解する日はやってくるのだろうか。

怒りのあまり意次を「忘八」となじった蔦重だが、この時代にこんな行動をとれば、最悪、斬り殺されても不思議ではない。武士には侮辱されたり、敬意のない行為を取られたりした際には、町人や農民を斬っても罪に問われない「斬捨御免」という特権がある。もっとも後に調査され、正当な理由がないと判断された場合には違法とされ、逆に「辻斬り」として処罰されることもあるが、今回の相手は幕府の大物である田沼意次。意次が寛容な人格者でなければ、『べらぼう』は4月末という第2クールの途中で終了の憂き目に遭っていたかもしれない。

蔦重が意次に証拠として提出した源内の遺稿に、「七ツ星の龍」と言う人物が出てきた。田沼家の家紋は「七曜」。そして意次の幼名は龍助。つまり源内が最後に書いた物語は、窮地に陥った意次を旧友である源内が助けるという内容だった。蔦重が手にしたのは冒頭の1枚のみで、他の原稿は後のシーンで焼かれていた。源内は「死の手袋」を題材に執筆したが、家基暗殺の首謀者から見れば相当に危険な内容だったのだろう。「忘れろ。それがお前のためでもある」という意次の言葉に源内が従っていれば、また違う結末を迎えることができたのかもしれない。