2番目に注目されたのは20時27分で、注目度69.4%。田沼意次(渡辺謙)が密かに獄中の平賀源内に会いに来たシーンだ。
「源内。俺だ。意次だ」獄中で震える源内のもとへ意次がやってきた。源内が人を斬ったと聞きつけた意次は、供も付けずに1人でやってきたようだ。何があったのか意次は源内に問いただす。
源内は記憶をたどって一部始終を意次に説明するが、その内容は意次には合点がいかぬ部分が多かった。意次には源内の言う屋敷の普請話も、その窓口となった丈右衛門という男も知らなかった。この件には何か裏があると感じた意次は、さらに源内から詳しく話を聞き出そうとするが、源内は意次の反応を見て、自分が罠にはめられたのだと気が付く。
「いなかったのかも知れません。そんな男はいなかったのかも」と言う源内を意次は懸命に励ます。「俺ゃもう何が夢で何がうつつだか…」意次は弱々しくうなだれる源内の手を格子越しに握ると自分の頬にあてがった。「夢ではない。俺はここにいる。源内。意次はここにおる」意次は今にも壊れてしまいそうな源内の意識を、必死で留めようとひたすらに声をかけ続けた。
「本当にいいバディだったのになぁ」
このシーンは、源内と意次の人間関係と安田顕の圧倒的な演技に、視聴者の注目が集まったと考えられる。
煙草の影響で自身の記憶は曖昧となり、置かれている状況を冷静に判断できなくなっている源内を、意次は見捨てることなく牢まで会いに来た。源内は幻と現実の見分けもつかない危うい状態だったが、意次はそんな源内に声をかけ続け牢越しに抱きしめる。
SNSでは、「喧嘩別れみたいになってた和解がこんなかたちになるのはつらい…」「意次さまと源内さん、本当にいいバディだったのになぁ」「意次さまと源内先生の格子越しの会話はお互い本心なのに、すれ違ったままなの切なすぎる」と、2人のやり取りに胸を痛めた視聴者からコメントが寄せられた。
源内の冤罪を晴らそうとした意次だが、息子である田沼意知(宮沢氷魚)の進言で非情な決断を下すことになった。史実でも獄中で死亡したとされる源内だが、その死因としてもっとも有力なのが破傷風による病死だ。破傷風は、土壌に広く存在する破傷風菌が、主に傷口から体内に侵入することで感染する。人から人へ直接感染することはない。源内は刃傷沙汰を起こし投獄されたから、手傷を負っていた可能性は十分にある。破傷風の処置には傷口を清潔に保つことが必要だが、当時の劣悪な牢の環境ではそれもかなわなかっただろう。破傷風の致死率は現代でも無治療の場合、成人で15~60%。江戸時代ならもっと高かっただろう。
非業の死を遂げた源内だが、実は生存説もささやかれている。表向きは獄中死として処理され、故郷である高松藩に匿(かくま)われた説。そして意次によってその領国である遠江・相良(現在の静岡県牧之原市)に逃がされたという説だ。
個人的には源内は意次によって生かされていると考えている。その前提で今回の放送を見返してみると、随所にそれらしき演出が折り込まれているように感じた。源内の遺体は誰も見ていないことをわざわざ蔦重(横浜流星)にしゃべらせるなど、後々に元気な源内が姿を見せる伏線であれば良いのだが。
今回、源内のきな臭い晩年の様子を見事に演じきった安田顕には、「安田顕の演技が最高だったし、内容も史実との絡め方が絶妙でしびれた」「涙や鼻水ダラダラで発狂する安田源内さんほんとにすごかった」「安田さんの演技、孤独感がひしひしと伝わってくる」と、称賛が集まっている。今回は名バイプレイヤー・安田顕の独壇場だった。