ワコムは11月16日~17日の2日間、東京・新宿住友ビル三角広場にて展示会「Connected Ink 2021」を開催。様々な企業がブースを出展したほか、世界4都市の会場とはオンラインでつながりました。
「アニメーター100万人チャレンジ」と題したセッションにて、ササユリ動画研修所はアニメーション制作の現場で活躍する人材の育成について提案を行いました。
ササユリ動画研修所が提唱する「アニメの未来」
ササユリ動画研修所は、スタジオジブリで27年間にわたり動画検査のメインスタッフを務めた舘野仁美氏が立ち上げた企業。アニメーション制作技術に関する教育機関で、2021年4月にアニメ制作会社「WIT STUDIO」が開講した「WITアニメーター塾」のカリキュラム開発などを行っています。
セッションに登壇したササユリ動画研修所の有村虎彦氏は、「会社の使命は『優秀なアニメーターで業界を満たす』ことです。絵が上手いことに加えて、仕事を効率良く早く処理できるアニメーター人材を増やすことを目指しています」と説明します。なお、ここでいうアニメーターとは「技術職の職人」であって「芸術家」ではないとのこと。
ササユリ動画研修所では新人研修に注目。仕事で必要な最低限の技能と知識を詰め込まれるこの段階で、「ササユリの無駄なく本質を伝えるカリキュラム」を課すことで、育成を成功させようという考えです。
求める人材は国内だけにとどまりません。「放送・配信を利用した遠隔授業を実現できれば、世界中の100万人がアニメーターにチャレンジできる。対面で教える場合に比べて成功率はグンと下がりますが、たとえ成功率が1%でも、100万人が挑戦すれば1万人のアニメーターが育ちます」(有村氏)。
ちなみに現在、国内のアニメーター人口は約5,000人。世界に目を向ければ、「この倍の人材が得られるチャンスです」とアピールします。
有村氏は、日本のアニメーション制作会社の特殊性についても言及。日本国内の約600社ほぼ全社に通用する共通ルールがあるため、それを習得すれば外国人にも「日本でアニメーションの仕事ができる」「自分のアニメーションを日本の会社で展開できる」メリットがあると説きます。
そこで必要となるのが、クリエイターを支援するワコムのツールです。「作画のデジタル化が進めば、アニメーターは『時間と距離』の制約から解放され、世界中のどこにいてもアニメーション制作の最前線で活躍できます。これがササユリが提唱する持続的開発可能(SDGs)な商業アニメーションの未来です」(有村氏)。
日本のアニメーション産業を前進させるために
このあとは、ササユリの育成カリキュラムについて、具体例を交えながら説明していきました。
たとえば、アニメ制作における企画、シナリオ、デザイン、絵コンテ、レイアウト、原画、動画、仕上、撮影、編集といったどの制作工程においても、日本のアニメーション制作会社には他セクションと「連携」するための暗黙のルールが存在しているそう。
この暗黙のルールにより、ミス無く効率的で最高品質の仕事が回る、と有村氏。一例として、動画セクションから仕上セクションに納品するときには、カット袋の中の制作資料は「1番上に背景原図や撮影指示など、2番目に動画…」と並べる順番が必ず決まっており、これはどこの会社に行っても共通であると説明。このような“日本作画作法”のすべてを教科書にして教えていくことを考えています。
もちろん、「見る力」を育てることも大事。商業アニメーション制作においては、たった0.05mmの線の間隔、太さの違いに気付けるように適切な訓練を積む必要がありますが、ササユリには段階的学習により最短時間で成長させるメソッドがあると説明します。
そのうえで、「ササユリカリキュラムの導入によるライセンス費用はかからず、教科書を購入してもらえばどんな団体や教育機関が教えても構わない。これにより日本全国にあるアニメーション教育機関と協力していける」と有村氏。
最後に「車輪の再開発をしている時間はありません。素早く土台を学んで、日本のアニメーション産業を前進させていけたら。先行協力校の参加をお待ちしています」と呼びかけました。