外部からCEOを招へいしたAcronis、今後はどうなる?

バックアップとセキュリティに関するソフトウェアおよびソリューションを独自の視点で提供するAcronisは、創業者のセルゲイ・ベロウソフ(Serguei Beloussov)氏からパトリック・プルヴァミュラー(Patrick Pulvermueller)氏へと、CEOが交代しました。前CEOのセルゲイ氏はテクノロジーと研究戦略を主導する最高研究開発責任者(CRO)となります。新CEO・パトリック氏に、今後どのような方向性でAcronisを率いていくのか聞きました。

―― 本日はよろしくお願いします。まず簡単に自己紹介をお願いします。

パトリック氏:2021年7月にAcronisのCEOに着任したパトリック・プルヴァミュラーと申します。前職(注:GoDaddy)を含め、サービスプロバイダー業を22年間経験してきました。現在はヨーロッパに7名の家族で住んでおりますが、私自身は来日経験が何度もあります。

  • Acronisの新CEO、パトリック・プルヴァミュラー(Patrick Pulvermueller)氏前GoDaddy社のパートナービジネス担当プレジデントとして、Acronisとも取引に関わっていました

―― Acronisに加わったきっかけについて教えてください。

パトリック氏:前職はGoDaddyという会社でパートナービジネスを担当していました。担当分野の1つがセキュリティ製品なので、Acronis製品を販売だけでなく社内利用もしていました。ですので、Acronis製品のセキュリティ機能のすばらしさを理解しています。GoDaddyはAcronisにとって重要なパートナーであり、GoDaddyは私が担当しています。

以前、Acronisという会社を深掘りして調べる機会があり、3つの魅力があると感じていました。1つ目は優れた経営陣とトレーニングを十分に受けたチームを持っていること。2つ目は最新テクノロジーを活用して開発された製品群を持っていること。最後の3つ目は、Acronisのターゲット市場に大きな発展性があることです。私がAcronisに入社してまだ日が浅いですが、入社前に抱いた期待以上の会社だと確信しています。

―― ビジネスの範囲に関してお聞きします。現在の「個人・SMB・エンタープライズ」の販売比率と、これが3年後にどうなるとお考えですか。

パトリック氏:大まかにいうと、個人が1割弱、エンタープライズが2割弱、残りの7割はSMB(中小企業)です。よって今現在、注力するセグメントはSMBということになります。

とはいえ、個人ユーザーはセキュリティに対する技術的な知識に乏しいケースもありますが、Acronis製品によってPCやモバイルデバイスを簡単・確実に守れるかを確認するのは重要です。エンタープライズユーザーは規模が大きいので、製品がスケーラブルで、そして効率的に導入する基盤となっているかわかります。個人ユーザーやエンタープライズユーザーに注視することは私たちにとって重要なことです。今後もすべてのカテゴリに継続して投資を行います。

3年後も売上比率はあまり変わらないと思いますが、パートナービジネスはエンタープライズビジネスにも寄与し、大口の顧客獲得にもつながっています。よって、エンタープライズの比率が少し上がるかもしれません。

  • Acronis製品のウリは、バックアップとサイバーセキュリティを一体化していること。画像は企業向けのAcronis Cyber Cloudのダッシュボード。多くの情報を分かりやすい画面にデザインしています

―― データ保護やバックアップソリューションは他社も提供しています。Acronis製品の差別化ポイントと今後の課題について教えてください。

パトリック氏:Acronis製品の優位性は、多くの機能が完全に統合されており、1つのエージェントソフトによる統合化されたエクスペリエンスです。複数の製品を組み合わせるのとは違い、デバイス保護にギャップが生じず、インストール時間も短く、コストも下がります。サービスプロバイダーやリセラーにとっては、簡単にAcronis製品を学ぶことができ、複数のユースケースに適合できるのが魅力でしょう。

課題は組織の内外ともに存在しますが、組織内の課題はプロセスに注視して改善を図れば解決できるでしょう。外部に関してはリセラーや代理店に対して、(以前から知られている)バックアップとイメージングだけでなく、「Acronisはほかにもできることがある」という認知を深めたいと思っています。

  • 近年、Acronisはスポーツ関係とのコラボレーションを加速。写真はイギリスのF1レーシング・チーム「Williams Racing」とのもの

Acronisのビジョンとミッションは変わらない。Acronisを成長させるのが私の仕事

―― 前CEOのセルゲイ氏は数年前から「SAPAS(※Acronisが注視しているデータ保護に関する5つのベクトル、Safety・Accessibility・Privacy・Authenticity・Securityの略語)」を強く打ち出していますが、今後、事業や製品の方向性に変化はあるのでしょうか?

パトリック氏:私がCEOに着任したとき、Acronisの従業員に対して「今までのAcronisのすばらしいビジョンとミッションは変わらず継続する」とメッセージを出しています。つまり「SAPAS」の方針は今後も変わりません。私がCEOになってどこが変わるかというと、Acronisがより成長する支援を行うということです。

たとえば、2020年12月の時点で世界に1,400名の従業員がいましたが、現在は1,700名に増え、組織を大きく拡大しています。企業としてどのような人材を採用していくのか、既存の社員のモチベーションを高めつつ学ぶ機会を持ってもらうことで、成長の機会を提供するのが私の重要な仕事になります。コロナ禍で在宅勤務が拡大している中で特に重要なことです。

  • 右から2番目が前CEOのセルゲイ・ベロウソフ(Serguei Beloussov)氏。ここ数年でビジネスを順調に拡大してきました。写真はイスラエルオフィスオープングの1コマ

パトリック氏:また、仕事のプロセスに注目して、効率性と効果を高めるのも私の仕事でしょう。これらはGoDaddyの時代、世界で数千名もの人々をマネージメントしていた経験が役に立つと考えています。

Acronisの創立者であり、筆頭株主であるセルゲイ氏は今後も取締役会のメンバーとして留まり、テクノロジーと研究戦略を主導する最高研究開発責任者(CRO)となります。製品に関しては彼と密に連携し、新しいものを開発・提供いたします。

―― 約半年間で300名ほど社員を増やしてチームを強化したということですが、各国の状況や強化した職種に関して教えてください。また、日本市場をどのようにとらえていますか?

パトリック氏:より良い人材を獲得するためには、特定の国に偏らせてはいません。製品を拡大するための研究開発やクラウドインフラを拡充するための人員が増えています。一方、国ごとに異なる事情に対応するため、各国のセールスマーケティングも増強しています。

日本は経済規模が大きくテクノロジーが高度に発達し、まだ企業のデータが社内データセンターにあるというのが特徴的です。そこで日本国内においては、日本固有のニーズに応える強力なチームを作りたい。また、データがローカルにあり、オンプレミスとデータセンターが必要という前提で継続的に投資を進めたいと考えています。

私自身はクラウド派なので、ローカルクラウドのニーズに応えるため世界中に36のクラウドデータセンターを用意しており、どこにいてもAcronisの製品が使えるような橋渡しをしたいと考えています。

  • Acronisとスポーツとの関係は、単に資金面にとどまらず、データを利活用するコラボレーションパートナーとして共創活動を行っています。例えばイギリスのサッカークラブ「マンチェスター・シティFC」とは、データのバックアップや利用で協業

―― 最後にビジネス外の話になりますが、Acronisはスポーツ関係団体とパートナーシップを結んでいたり、Acronisサイバー財団経由で学校の設立を行っていますが、これらは今後も継続されますか?

パトリック氏:結論をいうと大きく変わりません。スポーツ関係団体とのパートナーシップで生み出される大量のデータを、AIやMLのアルゴリズム開発に活用したいと考えています。また、サービスプロバイダーのネットワークを活用し、スポーツの大会やイベントでパートナーと一緒に存在感を高める「Teams Up」という活動にも取り組んでいます。

教育に関しては私自身、全世界の誰もが知識にアクセスでき、すべての人々が創造して学べる環境があってしかるべきと思っています。このため、Acronisサイバー財団に関する取り組みを継続します。単にAcronisのCEOとしてだけでなく、財団の活動に共感している寄付者も含めて推進したいと考えています。(2021年中に4つの学校を開設するという)計画に関しては、コロナ禍で必要な場所に安全に送金するのが難しくなっていますが、計画以上の達成ができると確信しています。

―― ありがとうございました。