米Microsoftは6月24日(現地時間)、Windows 11の発表イベントにおいて、開発者のビジネスチャンスを拡大する「Microsoft Store」のアップデートを発表した。イベントの主役はWindows 11だったが、市場へのインパクトという点ではMicrosoft Storeの方が大きいとも指摘されている。

Microsoft Storeは、UWP(Universal Windows Platform)アプリの普及を目指して、UWPアプリを配信するアプリストアとしてWindows 8時代の2012年にサービスを開始(当時の名称はWindows Store)。2017年にWindows 10で、ゲームや映画/TV番組など他のデジタル配信プラットフォームが統合され、今のMicrosoft Storeという名前になった。アプリストアとしては、インストールやアップデートの管理のしやすさがユーザーから評価されたものの、開発者のUWPへの移行が進まず、ユーザーの利用が限られるマイナス循環に陥っていた。

「最初にストアの基盤として組み込んだポリシーや技術的な制約によって、アプリケーションを(Microsoft Storeで)公開するのに困難な場合があるというアプリ開発者からのコメントがあり、そうしたフィードバックをもとに、お客様と開発者の両方のニーズを満たすことができるよう、Microsoft Storeを再考し、再構築しました」(Giorgio Sardo氏、GM、Microsoft Store担当)

アップデートに伴う強化ポイントは大まかに3つ。

利用者がストアを快適に見て回れるようにデザインを刷新、軽快に動作するようにした。また、「Stories」というお勧めのコンテンツを紹介する読み物を用意、利用者のコンテンツの発見を促す。

UWP、Win32、.NET、Xamarin、Electron、React Native、Java、PWA(Progressive Web Apps)など、あらゆる種類のアプリに対応。25日から申請を受け付ける。「Microsoft Teams」「Visual Studio」といったMicrosoftのソフトのほか、「Adobe Creative Cloud」、「Disney+」、「TikTok」、「Zoom」などの登場が明らかになっている。また、WindowsがAndroidアプリの実行をサポートし、Amazonとの提携によって、Microsoft Storeで見つけたAndroidアプリをAmazon Appstore経由で入手できるようになる。

  • Windows 11で動作するAndroidアプリ

    Windows 11向けアプリと同じようにAndroidアプリも利用可能

開発者に大きなインパクトを与えそうなのが、決済プラットフォームの選択を可能にすること。7月28日から、開発者がアプリに独自またはサードパーティーの決済プラットフォームを導入できるようになる。その場合、Microsoftに手数料を支払う必要はなく、サブスクリプション契約など売上の100%を得られる。ただし、このオプションの対象はアプリのみでゲームには適用されない。

Windowsはプラットフォーム作成者のためのプラットフォーム

ユーザーにとって使いやすいMicrosoft Storeで、必要なアプリを入手できるようになればユーザーが積極的に利用するようになり、それが開発者のビジネスチャンスの拡大につながる。

イベントでMicrosoft CEOのSatya Nadella氏は「Windowsは単なるオペレーティングシステムではありません。プラットフォーム作成者のためのプラットフォームです(platform for platform creators)。幅広い設計スペースで、人々がそれぞれのビジネスやコミュニティを構築することを可能にします」と述べた。

名指しこそしなかったが、Microsoft StoreのアップデートはAppleとGoogle、特にApp Storeを意識したものだと見られている。欧米においてテクノロジー大手の独占的な力に対する視線の厳しさが増しており、Appleに対してはApp Storeが問題視されている。アプリストアで苦戦するMicrosoftにとって、これは巻き返しのチャンスである。

アプリ開発者も不満の声を上げており、最近ではクリエイターのコミュニティ活動を支援する「Fanhouse」の問題が話題になった。Fanhouseはクリエイターから売上の10%しか徴収しない手数料の低さをウリにしているが、売上全体の30%をAppleから要求された。それだとFanhouseは赤字になる。クリエイターの活動を支援するどころか搾取しているとAppleに強く反発した。Fanhouseのような開発者の成長を後押しするのが、MicrosoftがWindowsを「プラットフォーム作成者のためのプラットフォーム」とアピールするポイントだ。

The VergeでDieter Bohn氏は「(Nadella氏の)レトリックはおだやかで良い印象を与えるが、App Storeを巡る現在の議論、訴訟、規制といった視点で解釈すると鋭く直接的な批判である」と指摘している。

新しいMicrosoft Storeは、次のWindows Insiderビルドに初期プレビューが含まれる予定で、正式版はWindows 11とWindows 10で利用できるようになる。