商品の高付加価値化やパーソナライズ化に貢献するHPのデジタル印刷機

続いてはプリンティング関連だ。ヒューレット・パッカードはワールドワイドで個人向けプリンタを手がけているが、ビジネス向け、エンタープライズ領域、および印刷業界における規模のほうがはるかに大きい。ここでは、我々のような一般消費者が普段あまり目にしない(気にもかけない?)、巨大な「印刷機」に注目してみよう。

本屋とスーパーマーケットを模したデモ展示。ほぼすべての展示物が、HPの業務用印刷機で作られている

HPは「Indigo」シリーズというデジタル印刷機を持っており、ワールドワイドでほぼ独占に近いシェアを獲得している(だいたい数千万円から数億円もする機器なので、1台売れたり売れなかったりでシェアの変動も激しいのだが)。デジタル印刷機の大きなメリットは、少数のカスタム印刷を低コストで実現できることや、必要な数だけ無駄なく印刷できることだ。現在の主流であるオフセット印刷は、1種類の印刷ごとに「版」を作るため、同一かつ大量の印刷には強いが、デザインなどを変えた少数印刷には弱い(コストが膨大になる)。

日本にはまだ存在しないデジタル印刷機「HP Indigo 30000 Digital Press」。内部をちょっとだけ見せてもらうと、7色のインクカートリッジが使われていた

プレゼンテーションで紹介されたIndigoを用いた事例は、コカ・コーラのキャンペーンだ。ペットボトルの1本1本に、すべて異なるラベルを貼り付けて出荷するというもの。日本では別のキャンペーンを展開しているのだが、仮に、コンビニで売られているコカ・コーラのペットボトルを想像してほしい。日本全国、同じラベルのコカ・コーラは1本たりとも存在しないということなのだ。これはデジタル印刷機でなければ、現実問題として不可能である。そのほか、ワインのラベルや缶ビールのラベル、子どもたちが創作したストーリーを1冊ずつの「本」に製本するといった事例が紹介された。

例えば冊子なら、1冊からでもきれいに製本できる。イギリスの子どもたちが創作したストーリーを本にしたものが好評だとか。必要な分だけを必要なコストだけで作れるのが、デジタル印刷の大きなメリット。
ヒューレット・パッカード カンパニー アジアパシフィック&ジャパン担当 プレインティング・パーソナルシステムズグループ グラフィックス・ソリューションビジネス HP Indigo & インクジェット・デジタルプレス・ソリューションズ部門 ディレクター兼ゼネラルマネージャのRoy Eitan(ロイ・エイタン)氏は、「売れ残った本などの廃棄物をほとんど出さなくて済むため、環境負荷も低い」と話す

コカ・コーラとHPがコラボレーションした、コカ・コーラのキャンペーン。ペットボトル1本ごとに、HP Indigoで作ったラベルが貼られている。ラベルのデザインはすべて違う

キリンビールのキャンペーン缶もHP Indigoで(写真左)。最近はお酒のボトルラベルが人気だとか(写真右)。少数のプレミアムなボトル(およびラベル)を、HP Indigoで手軽に制作できる

HP Indigoで作った小ロットのパッケージ例と(写真左)、1個ずつ違った写真をはめ込んだパッケージの例(写真右)

HP Indigoで刷り上がったばかりのラベル。違ったデザインのラベルを1枚単位で高速に出力できる

Indigoシリーズのほかにも、HP Scitex、HP Latexといったシリーズがあり、それぞれインクや得意分野が違う。例えば、水をベースにしたインクだと、環境負荷が低くニオイを発しないというメリットがある。そこで壁紙に応用し、日本のとあるホテルの場合、フロアごとや部屋ごとに壁紙を変えて異なるイメージを演出している事例があるそうだ。

ダンボール印刷などに使われる「HP Scitex インダストリアルプレス」。巨大なダンボールを給紙(!)すると、これまた巨大なプリンタ本体の内部を何往復かしてインクを乗せていく

こちらは「大判プリンター」という位置付けの「HP Latex」シリーズ。大型の製品は、デパートの垂れ幕といった巨大な印刷物も余裕で作れる

HP Latexシリーズで作った壁紙や垂れ幕の例。右の写真は、一見すると石材を並べた壁に見えるが、実は1枚の壁紙。トリックアートのようだ

今のところ、デジタル印刷の規模は業界全体で5%~10%くらいとのことだが、将来的にはもっと伸びるに違いない。HPでは、「規模は5%~10%でも価値は20%~25%」としており、先述したコカ・コーラとのコラボレーションによって、おもしろい可能性が大きく広がったという。いずれ日本でも、身近にあるさまざまな商品において、パーソナライズされたデザインやオリジナリティの高いデザインを目にする機会が増えそうだ。