半導体チップは熱くなりすぎると壊れてしまう。このため、安全な温度範囲で動作させる必要があり、チップ自体も自衛のために温度を測定して熱くなりすぎるとクロックを下げるなどの方法で温度を下げるようになっている。

しかし、半導体チップやパッケージには熱容量があり、短い時間のスケールで見ると、容量(熱容量)に電流(発熱)が流れ込んでも電圧(温度)はゆっくりと上昇するので、短時間ならより大きな消費電力となっても上限の温度を超えない。

チップやパッケージの比熱による熱容量があるので、短時間なら上限を超える消費電力となってもチップ温度の上限に範囲に収まる (出典:Cool Chips 16におけるMcCool氏の基調講演スライド)

この熱容量を利用すると、短時間であればより高速に処理ができ、第2の戦略のRace to Haltをさらに進めることができる。

また、システムではプロセサだけが電力を消費するわけではなく、メモリやキャッシュも大きな電力を消費する。また、ディスクやセンサ、ネットワーク、ディスプレイなども電力を消費する。従って、HDDではなく、消費電力の少ないSSDを使用するなどシステムレベルでの電力の低減を考える第6の戦略も重要であるという。

スパコンと携帯は規模の点では両極端であるが、消費電力の低減が重要という点では同じで、McCool氏は、互いに相手から学べることがあるという。

携帯は1つのプロセサ(チップ)に複数コアが載り、共通メモリであるのでコア間のタスクの移動が容易で、戦略4の統合がやりやすい。分散メモリのスパコンでも、より手間はかかるが、統合により電力を減らせる (出典:Cool Chips 16におけるMcCool氏の基調講演スライド)

仕事をまとめて空きコアを作り、電源をオフにする戦略4は、1チップにすべてのコアが載り共通メモリとなっている携帯電話のプロセサでは容易に実現できる。分散メモリのスパコンではデータの移動が必要となるのでより努力が必要であるが、処理を移動してまとめる戦略4は実行可能である。いずれにしても処理をコアに固定することは、省電力やロードバランスの点で望ましくないという。

携帯は短時間の動作で長い休みという動作であるのに対してスパコンは長時間連続して動作する。それでも、個々のプロセサをみると空き時間があり、戦略2や3を使える可能性がある (出典:Cool Chips 16におけるMcCool氏の基調講演スライド)

また、携帯は短時間動作して、その後、ユーザの操作待ちというバースト的な動作で、電源オフできる時間が長い。これに対して、スパコンは長時間連続して動作する。

しかし、スパコンでもコアごとにみると、他のコアの処理の終了を待っていることがあり、このようなケースではパワーゲートなどの手段が使える。

携帯とスパコンでは省電力という共通の要件があり、同じような手が使える。しかし、動作環境や規模の違いがあり、実装の仕方には違いが出る (出典:Cool Chips 16におけるMcCool氏の基調講演スライド)

以上のように、スパコンでも携帯プロセサと類似の省電力技術が適用できる。しかし、動作のパターンやシステム規模が違うので、適用の形態は違ってくるという。ということで、「スパコンが携帯から学べることは」という講演タイトルからいうと、ちょっとインパクトの弱い結論であった。