――アコースティックのパートをあえて変えなかった理由はありますか?

折倉氏「最初のレコーディングのときに弾いてくださったのは、専門のギタリストさんだったのですが、今Ritaさんがおっしゃったフレーズも、実はその方が、レコーディングのときに即興で作ってくださったフレーズなんですよ。もちろん変えても良かったかもしれませんが、やはり印象的なフレーズあので、あえてそのまま残すことにしました」

――「夢を見る夢」をはじめ、今回のアルバムは「死」をテーマにしていますが、それは少し冒険だったのではないでしょうか?

Rita「個人的なことなのですが、この5年の間に、大切な後輩が亡くなったりして、私自身も、永遠の別れといった出来事に直面することが多かったんですよ。それを美化するとか、変に悲しみすぎるということではなく、亡くなった人をたまに自分の中で思い出して、思い出の中でその人にもう一度甦ってもらう。そういう思い出を自分の中で作っていくことが、実は別れてしまった人に対して、とても大事なことなのではないかなって。5年前には経験していなかったことを、自分でも実際に経験して、その痛みや悲しみ、そしてそれを乗り越えていくということについて真面目に考えた。それも今回のテーマになっていて、"死んだ"ということを殊更に取り上げるわけではなく、自分の中でその感情をいかに音楽の中で表現していくかということに取り組んでみました」

――詞のテーマは「死」でありながら、曲の表現はけっこうバラエティに富んでいますよね

折倉氏「『死』とか『別れ』といった単語だけを取り出すと、どうしてもネガティブな印象、悲しい方向に行き過ぎてしまうと思うんですよ。だからそれだけを形にすると、ものすごく暗いピアノのバラードばかりになってしまう。ただ、そういった単語ひとつにも、ストーリーや設定、物語の中に当てはめていくことができる。そうやって多面性を出していったほうが、単純に聴き栄えもよくなるかなって思いながら作りました」

――「二つめの空」もあまり暗い曲ではなく、何か悲しみの先を観ているような前向きな感じがします

Rita「折倉さんもおっしゃっているとおり、『死』というテーマをひとつの方向で捉えるのではなくて、いろいろな多面性をもって捉えることで、死の向こう側にある自分の生きていく姿のようなもの、それを乗り越えてまっすぐに前を向いていく感じ、そういった部分も見据えていらっしゃると思うんですよ。なので楽曲には、わりと多面性が出ているのではないかと思います」

折倉氏「個人的な好みの問題なんですけど、例えば誰かが死んだとか、知り合いが亡くなったということがあると、死んでしまったことによって何かガクンと落ちて終わるのではなく、結局その後のことを考えざるを得ないわけですよ。『Aster』はゲームなので、基本的にはファンタジーなんですけど、例えば極端な話、死んだ人が生き返ったりはしない。あくまでも現実を受け止めるといった感じがすごく強く出ています」

Rita「すごくリアリティがあるんですよ」

折倉氏「そこを強く押したかったというのはやっぱりありますね」

Rita「そのあたりのコンセプトは私と折倉さんの間でわりと明確に一致していたので、折倉さんにおまかせして本当に良かったと思います。これが違う側面を押し出す形だったら、この作品は成立しなかったかもしれません」

――今回の詞・曲はすべて折倉さんですか?

折倉氏「最後の『Diary』と『Diary~reversible~』いう曲は共作という形になっていて、片方は自分、もう片方はRitaさんが作詞をなさっています」

Rita「実は収録しながら話がまとまったのですが、何ででしたっけ?(笑)」

折倉氏「最初に『Diary』のデモを持っていったとき、自分で持って行きながら、何かこれだと普通過ぎる、みたいに思っちゃって……」

Rita「そんなことはなかったんですけどね(笑)」

折倉氏「アルバムを作り出した最初のこと、Ritaさんから『アルバムの中に、手紙調というか、自分のことをただ切々と語るみたいなテーマの曲があってもいいんじゃないか』という話があったんですけど、自分的には納得がいかない部分があったので、そういった感じに作り直してみたんですけど、元のバージョンも、それはそれで歌詞だけを変えて作ってみようという話になったんですよ」

Rita「そうそう。本当に途中で変わったんですよ。収録2日目ぐらいかな……何となく休憩中に話をしていたとき、この『Diary』という曲には、それぞれに何か側面があるんじゃないかと。だから折倉さんからみた視点と、私からみた視点で作ってみようと。本当にふとした思いつきなんですけど、そこからすぐに詞を書き始めました」

折倉氏「速かったですよ」

――それですぐに詞が書けるところがすごいですよね

Rita「たぶん、折倉さんからデモをいただいた段階で、私の中に何らかのイメージがすでに出来上がっていたんじゃないかと思います。そのあたりの経緯は自分でもぼんやりとしていて、あまり覚えていないんですけど(笑)。どちらもヒトリゴトなんですよ、完全な。私が書いたバージョンは、人に対してすごく懺悔をしているようで実はそうでもなく、自分のことだけをただ語っているというバージョンで、折倉さんのバージョンはまたちょっと違っていて、わりと相手のことを思っていますよね」

折倉氏「ただ、どちらにしてもまだ救われていない感がありますね(笑)」

――最後の曲なのに(笑)

Rita「それが結局、人を失ってしまったときの自分の想い、何か自分の中で消化し切れない悔やんでいる想い、そういったものを表現することになるのかなって……救われていないんですけどね(笑)」

折倉氏「それで〆ているところが、今回のコンセプトにあっているような気がします」

(次ページへ続く)