第8章 Windows 8に関するその他の機能とまとめ - Windows 8は次世代を担えるか

最後にWindows 8の導入タイミングについて一考する。まずは"Windows 8へ移行すべきか"という根底の部分を考えてみよう。筆者はWindows 8の存在が公になった2011年1月から注目し、同年秋に公開されたWindows 8 Developer Previewから本日まで、Windows 8というOSに触れてきた。繰り返しになるが、Windows 8は従来のデスクトップ/ノート型コンピューターだけでなく、タブレット型コンピューターのタッチパネルによる操作を前提に設計されている。

そのため、キーボードやマウスだけでなく、スマートフォンでは一般的なタッチ操作を新たなUIとして取り込んだことによる弊害が大きい。執筆時点ではMicrosoft Designスタイルを完全サポートするコンピューターは発売されていないため、タッチ操作については言及できないものの、キーボードおよびマウスで操作する限り、初期プレビュー版から感じていた違和感は少しずつ払拭してきた。Windows 8を使いこなす上でポイントとなるのは第3章で述べたショートカットキーであり、Shellスキームの利用だろう。

本稿もWindows 8 RTM版で執筆しているが、前述したようにIME周りの問題は依然残されているものの、それ以外に大きな不満は感じていない。Windowsストアアプリには将来性を感じるが、執筆時点では常用する場面は少なく、気分転換にニュースを見る程度。また、Windowsストアは充実しているとは言いがたく、Microsoftのソフトウェア開発者に対する啓蒙活動を見ていると"今後に期待"というのが正直な感想だ。

Windows 8をデスクトップベースで運用するのであれば、前述したカスタマイズツールが功を奏する。だが、フルHDのディスプレイを複数使用している環境の場合、スタート画面が現れるのは一枚のディスプレイに限られるため、さほど邪魔に感じることはない。もっとも、これらの意見は筆者の個人的感想のため、万人にWindows 8が適しているかは別問題である。

Microsoft Designスタイルに対しては賛否両論があり、筆者も既存のWindows OSユーザーにお勧めできるかと問われれば、言葉を濁してしまうだろう。それでも、Windows 8に加わった基本的な新機能を真正面から見れば、Windows OSとして正しい進化を遂げていることが事実であることは、長年Windows OSを使い続けてきた方なら理解できるはずだ。

Windows 8の評価として、"Microsoft Designスタイルに魅力を感じないのであれば、Windows 8へアップグレードする理由は見つからない"というものがあるが、それは間違いである。Windows 8の評価がMicrosoft Designスタイルで左右されるのは事実だが、Windows 8が備える機能を鑑みれば、正しくは"Microsoft Designスタイルを享受することができれば、Windows 8は魅力的なOSになる"と言うべきだろう。

もう一つの思案ポイントである、Windows 8の導入タイミングを考えてみる。Windows OSにある程度精通した方がよく述べる言葉に、"Windows OSはService Packが登場してからインストールすればよい"というものがある。これは、新規開発されたアプリケーションにはバグが付きもので、Windows OSも例外ではないからだ。数多くのバグ修正を行い、一定レベルまで安定化させるService Pack 1がリリースされてから導入するのも一つの考えだろう。

しかし、Windows 8はWindows Vistaをベースに改良を加えた二番目に当たるOSである。確かに新機能は多いものの、ドラスティックな変更は少ないため、デスクトップベースに限れば、大きなトラブルを引き起こすバグの存在は少ないのではないかと推測する。

さて、現在お使いのOSがWindows 7の場合、Windows 8へのアップグレードは様子を見るという選択肢があるのも事実だ。確かにWindows 7とWindows 8の間には差が生じるものの、OSのアップグレードという大仕事を行うまでのメリットが生まれるかと言えば疑問である。

プロセッサを最新のものにし、UEFI搭載マザーボードを購入するなど新規のコンピューター環境にインストールするのであれば、Windows 8の方がパフォーマンスを引き出せるのは確実だ。しかし、Windows 7で使用してきた一世代もしくは二世代前のコンピューターであれば大差はない。そのため、"Windows 7を運用しながら様子を見る"という選択肢があることを明確にしておこう。

その一方でWindows XPユーザーは、OSのアップグレードよりもコンピューターを含めたWindows 8への移行をお勧めする。メインストリームサポートは2009年の時点で終了し、延長サポートも二年後の2014年4月8日に終了するだけに、Windows XPに固執するメリットは少ない。またハードウェアもレガシー化し、Windows 8が快適に動作するとは考えづらいのだ。コンピューターの買い換えを思案中のWindows XPユーザーは、Windows 8マシンを対象に含めるべきだろう。

以上でWindows 8に関する解説を終えることにする。本稿がWindows 8に対する理解度を高め、既存環境にとどまる、もしくは移行する際の一助になれば幸いだ。

阿久津良和(Cactus)

■お知らせ(2013年10月21日追記)
「Windows 8.1」対応版の大百科を掲載しました。
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~インストールから設定・活用まで~ すべてが分かるWindows 8.1大百科
http://news.mynavi.jp/special/2013/windows81/

参考文献

・DIGITAL RETRO(ゴードン・ライング/トランスワールドジャパン)
・MS-DOSエンサイクロペディア Volume1(マイクロソフトプレス/アスキー)
・OS/2の歩みを振り返る(元麻布春男の週刊PCホットライン/PC Watch)
・Windowsプログラミングの極意(Raymond Chen/アスキー)
Building Windows 8
・History of OpenVMS
History of Windows
Wikipedia
Windows Vista開発史(Paul Thurrott/日経BPITpro)
Windowsの歴史(横山哲也/ZDNet Japan)
・コンピュータ帝国の興亡(ローバート・X・クリンジリー/アスキー出版局)
・パーソナルコンピュータを創ってきた人々(脇英世/SOFTBANK BOOKS)
・パソコン創世記(富田倫生/青空文庫)
・闘うプログラマー 上下巻(G・パスカル・ザカリー/日経BP出版センター)
・僕らのパソコン30年史(SE編集部/翔泳社)
・遊撃手(日本マイコン教育センター)