約12年の“推し活”――人生の約半分を共にする“推し”と仕事を両立させるアラサー女性のマイルール

#自分だけの"推し"の見つけかた

なんとなく過ぎていく毎日に「退屈だなぁ」と思っている読者のみなさま、“推し活”を始めてみませんか。“推し”って、アイドル? アニメ? ――いえいえ、いまはもっと多様化してるんです。アラサー女子におすすめしたい多彩な“推し活”の世界をご紹介する本特集。アラサーの働く女性という、おそらく「推し活」を一番謳歌できるであろう層が実際にはどのように推し活を楽しんでいるのか? 「推し」がいないライターが「推し活」を楽しむ女性たちにインタビューしました。

アラサー独身女性という、おそらく「推し活」を一番謳歌できるであろう層が実際にはどのように推し活を楽しんでいるのかを、「推し」がいないライター・瑞姫さんが「推し活」を楽しむ女性たちにインタビューする企画「令和アラサー女子の推し活事情」

今回は静岡県在住、ひろさん(26歳・看護師)にインタビューしました。

12年に渡る“推し活”の始まり

現在26歳のひろさんの「推し活」の始まりは、約12年前まで遡る。

当時中学生だったひろさんは2010年に、クラスメイトがたまたま持ってきていた雑誌に載っていた、関ジャニ∞の村上信五さんに惹かれたことが推し活のきっかけとなった。

「学生時代によくある『このグループの中だったら誰が好き?』という質問をされて、その時に『かっこいいな』と思ったのが村上さん。そこからネットで名前を検索して、出ているテレビ番組を見たり、とりあえずCDを借りてみようと当時最新だったアルバムを聞いたりして、どんどん好きになっていきました」

しかし、当時はまだ中学生だったこともあり、CDや雑誌を買ったり、テレビで見るという選択肢しか知らなかったという。

コンサートに行くようになったきっかけを聞くと、SNSがまだ無かった時代、関ジャニ∞のファンが集まっていたインターネットの掲示板で情報を得たことを明かしてくれた。

「掲示板で同じグループを応援している人に出会ったことで、そこから急激に“推し活”は広がって行きました。ラッキーだったなと思うのが、お母さんも昔からSMAPのファンで、ジャニーズのファンに理解がある人だったので、私が応援しているのを見て『関ジャニ∞の大倉君がかっこいい』と一緒にファンになったんです。それで2010年のライブに行くことができました」

ジャニーズというジャンル的にも、親子で応援するファンは多い。同じように応援する人と共にコンサートに行ったり、情報共有を楽しんだりするのも、より「推し活」を楽しむ選択肢のひとつだ。そこからひろさんはコンサートや舞台があれば、必ず会場へ足を運び続けている。年によっては、5大ドーム全てを回ったこともあるそうだ。

▲“本人不在の誕生日会”の様子(提供写真)

「コンサートで必ず購入するグッズがあって、それがうちわとクリアファイル。2010年からずっと集めていて、“本人不在の誕生日会(※)”をやる時に全部並べたり、コンサートに行く時にお気に入りのビジュアルのうちわを持って行ったりしています。もう10枚以上ありますね」

※「推し本人はいなくても誕生日を祝いたい」という気持ちから、ファンが個人的にケーキなど用意して推しの誕生日会を開き、祝うこと。

お願いすると、快く“本人不在の誕生日会”の写真を見せてくれたひろさん。写真に映るお気に入りのビジュアルの写真やうちわの中で、特にお気に入りを聞くと、「2009年の、自分が知り得なかった時の村上くん」と教えてくれた。

最初は一人で、そこから母親と「推し活」を楽しんでいたひろさんだが、今では大学で出会ったという同じ関ジャニ∞を好きな友人たちとオールでライブDVDを見ることもあるそうだ。

12年にも渡る「推し活」は、母親と楽しめる共通の趣味になり、友達との仲を深めるきっかけとなってきた。人生の約半分を共にしてきた「推し活」は、自分の人生を語る上で避けては通れない、自分を形成してきたもののひとつとなっている。

多ジャンルに渡る“推し活”

ひろさんは村上さん以外にも応援しているジャンルとして、女性アイドルの「わーすた」、ゲーム実況者の「ナポリの男たち」が好きなことを教えてくれた。

▲ナポリの男たちコラボカフェに行った際の写真(提供写真)

「村上さんは推し活をすると言っても、独り舞台や、関ジャニ∞の冬のドームツアーや夏のツアー、ナポリの男たちもYouTubeを見てコラボカフェがやっていたら足を運ぶという感じなのですが、わーすたはCDのリリースイベントがあるので、普段から一番活発に“推し活”をしているのはわーすたかもしれません

ハマったきっかけを聞くと、たまたまやっていた無料ライブを見たことから興味を持ち、そこから特に気になった小玉梨々華さんのブログにコメントをしたことがきっかけだったという。

「コメントに対しての返信ではないんですけど、ブログ本文で自分に対してとは明記されていないものの、返答かな? と思うことを書いてくれたことがあって、それで“好きだ!”となりました」

そこからは、予定が合えば静岡から新幹線で東京に足を運ぶようになったそう。

「週1で都内に来ている時もありました。連日ライブだったときは、一回仕事のために静岡に戻って、仕事をしてからまた東京に来るということをやっていたこともあります。夜勤明けでそのまま東京に行ったりもしました」

▲遠征時はアクリルキーホルダーを持ち歩いている(提供写真)

そのアクティブさに驚いていると、ひろさんは「推し活は体力が大事かもしれません。イベントとか無い時は仕事から帰ってきたら夜中に目が覚めるまで寝ていることもあるので、『推し活』をしているときは本当にアドレナリンが出ているんだなと思います(笑)」と笑った。

推し活は体力勝負だといつか誰かが言っていた言葉を思い出す。推し活をしている人は本当にエネルギーに満ち溢れているし、何より、推しについて話している時、こんなに人はキラキラするのかと思うくらい、楽しそうに話してくれる。

推しが与えてくれるのは、日常生活の彩りだけではなく、人としての内面の輝きも引き出してくれるんだなと実感した。すてきな恋をしている人はとてもかわいいが、推し活をしている人は、内面から前向きさがにじみ出ていて、思わず微笑ましくなってしまう。

推し活と仕事の両立と揺るがないポリシー

大学卒業後から、看護師として働き続けているひろさんは、日勤と夜勤の二交代制で仕事をしている。特に活動が活発だというわーすたのライブ以外での「推し活」について聞くと、テレビ電話や“チェキチャ”という、1対1で推しは配信、ファンはコメントでコミュニケーションが取れるコンテンツなどがあるそう。

「自分の中のポリシーとして、勤務があったら絶対1回参加すると決めています。自分にとってのご褒美です。働いているからこそ、お金を最大限使えるし、上手くやりくりできているのも楽しいんですよね。働いて本当に疲れて『もう嫌だ』と思っていても、推しに会えると『このために働いているんだ!』と元気が出る」

推しがいるから頑張れる、推しのために頑張れる。仕事への活力をくれる存在である“推し”は本当に偉大だ。

そんな推しとのエピソードを尋ねると、「最初は緊張していたんですけど、段々現場にいくことで慣れてきて素の自分が出た時があって、その時に『最初は猫被ってたよね。そっちの方が好きだよ』と言ってくれたことがあって……。それはすごくうれしかったです」と推しとの大切なエピソードを話してくれた。

長きに渡り応援し、毎年決まった時期に会うことが恒例のようになっている推し、一方的に日常的に見るだけの推し、実際に会って話せる推し。推しが複数いるからこそ、少しモチベーションが下がったときも、別の推しが“好きの底上げ”をしてくれるという。

推し活を続ける中で、仕事との両立をどうしているのか問うと、ひろさんは「当たり前ではあるのですが、仕事をずる休みしない。仕事をしているから現場にも行けるし、推しは自分の心の支えにはなってくれるけど、生活を助けてくれるわけではないので、自分の生活と推し活を上手に両立することを決めています」と回答。両立することが仕事と推し活、その両方に良い影響を及ぼしていることが分かった。

自分だけの“推しの見つけ方”

インタビューを続けていくと、“推し”がいないことが少し寂しくなるくらい、「推し活」を楽しむ人は人生がキラキラと輝いて見える。

そこで「自分だけの推しはどうやって見つければ良いのか」と質問を投げかけてみた。

偏見を無くすことが大切かなと。私もわーすたに出会うまでは、女の子のアイドルを好きになるとあんまり考えられなかったのですが、誰を推すか、どう推すかに正解はない。お笑いが好きとか、コスメが好きとか、日常生活の色んなところに“好き”が隠れているし、推しを見つけるポテンシャルは誰にでもあると思います」

確かに、私自身“推し”は居ないが、「好きだな」と思う人たちはいる。けれど、“推し”と呼べるほど、その人たちのことを応援できていない。それがいつだって“推し”と言い切れない理由でもあった。そのことについて話すと、ひろさんはこんな言葉を掛けてくれた。

「本人たちも、ファンも、少しでも“好き”と言ってくれる人を見つけるのはうれしい。全然推しのことを知らない友達が、推しのことを好きと言ってくれたり、褒めてくれると自分のことのように嬉しいんです。『人が褒めてくれるくらいすてきな人を応援してる自分って超最高じゃない!?』と誇りに思える。だから、自分が“推し”と言えるほどじゃないと思っていても、周りは意外と大歓迎なんだってことは思っておいてください」

どこか自分の中にあった“推し”への後ろめたさが、ふっと無くなるような言葉だ。

最後にひろさんに、社会人になり、お金を自由に使えるようになった今が一番「推し活」をしていて楽しいかと問うと、「そうですね。でも、“今が一番楽しい”を更新し続けてます」と笑って答えてくれた。

それが、このインタビューだからこその取り繕った言葉でないことは、終始推しについて話してくれた姿から分かる。

なんとなく過ぎていく毎日に「退屈だなぁ」と思っている読者の方は、この機会にぜひ“推し活”を始めてみると、日常も自分自身も変わるかもしれない。

(取材・文/瑞姫)

※この記事は2022年10月15日に公開されたものです

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