「朧月(おぼろづき)」とは? 意味や季語としての使われ方を解説
「朧月」と聞いて、どんな月を思い浮かべますか? ぼんやりとしたイメージは描けても、正確に説明するのは難しいという人もいるかもしれません。そこで、この記事では「朧月」の意味や季語としての使われ方を解説します。
「朧月」と聞いて、何となく情景は思い浮かぶものの、意味をよく分からずに使っている方は多いのではないでしょうか。
今回は、「朧月」の具体的な意味や使い方、「朧月」を季語として使った句や歌を紹介します。
日本ならではの言い回しや使い方を知って、言葉の美しさに浸ってみてください。
「朧月」とはどんな月?
「朧月」という言葉を辞書で引くと下記の記載があります。
おぼろづき【朧月】
春の夜などの、ほのかにかすんだ月。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
ちなみに、「朧月夜」は「おぼろづきよ」「おぼろづくよ」と読みます。
「朧月」と聞くとお月見のイメージから秋の月を連想する人も多いかもしれませんが、「朧月」という表現は春の夜の月に使います。
また、朧月といえば満月が思い浮かぶ人も多いと思いますが、辞書的に形が定義されているわけではありません。満月でも三日月でも、かすんでいれば「朧月」です。
朧月の夜には空を見上げて、神秘的な雰囲気の月に癒やされてみるのも良いかもしれません。
季語としての「朧月」
俳句や短歌などで、季節感を出すために使われる季語。「朧月」も季語として使われることがあります。
「朧月」は春の季語
俳句や短歌では、「朧月」は春の季語とされています。
春は旧暦では1〜3月とされているのでこの時期に用いるのが一般的です。
「朧月」を季語として用いた俳句や短歌
ここでは実際に季語として「朧月」用いた句や歌の意味を解説します。幻想的な朧月の情景を思い浮かべながら詠んでみましょう。
「大はらや 蝶のでて舞ふ 朧月」by内藤丈草(ないとう じょうそう)
朧月の夜に大原(京都の地名)を歩いていると、蝶が優雅にひらひらと舞っていたという情景を詠んでいます。
句の中にある「でて舞ふ」はただ舞っているだけではなく、出てきて飛び出す様子を表しているので、1匹の蝶が朧月の美しさに誘われて飛んできたと解釈できるでしょう。
蝶は寒い夜に飛ぶことはないので、この句では暖かい春の夜が連想できます。
「猫の恋 やむとき閨の 朧月」by松尾芭蕉(松尾芭蕉)
猫が相手を恋しく呼ぶ騒々しい声が聞こえてきたものの、程なくして静寂が戻ってきたので、外をふと見ると朧月夜の景色が広がっていたという情景を詠んでいます。
猫の声に刺激されたのでしょうか。幻想的な朧月を見て、何となく人恋しくなってしまった気持ちを綴っているとも考えられます。
「照りもせず曇りもはてぬ 春の夜の朧月夜に しくものもなき」by大江千里(おおえせんり)
朧月は明るいわけでもなく、かといって曇って見えないわけでもありません。
どちらつかずで曖昧な存在だからこそ美しい。春の朧月に匹敵するきれいな情景はないと、朧月の儚さを絶賛しています。
▶次のページでは、「朧月」「朧」がつく他の言葉を紹介します。
「朧月」「朧」がつく言葉
ぼんやりとした月を表す「朧月」。この様子になぞらえた「朧月」「朧」がつく言葉や意味をまとめて解説していきます。
朧月夜(おぼろづきよ、おぼろづくよ)
朧月が出ている夜のこと。春の夜に浮かぶぼんやりとした月の情景が浮かんできます。
ちなみに、『源氏物語』には「朧月夜(おぼろづくよ)」という人物が登場します。右大臣の六女で高貴な身分をもつ女性です。源氏物語の「花宴」に登場し、自由奔放な魅力で光源氏を魅了しました。
朧雲(おぼろぐも)
高層雲の一種で、ベールのように空にかかった雲のことです。
このような雲は、雨の前兆ともいわれています。
朧染め(おぼろぞめ)
染めものの名前の1つです。着物の裾を薄く、上にいくほど濃くぼかしていく染め方です。
江戸時代の前期、朧月の美しさをヒントに京都で作られたのが始まりです。
今でも訪問着や振袖に使われています。
朧豆腐(おぼろどうふ)
豆腐を完全に固まる前に取り出したものがおぼろ豆腐です。
固りかけの状態で汁に浮かんでいる様子が朧月のように見えることからこの名前がつきました。
朧饅頭(おぼろまんじゅう)
おぼろまんじゅうは、蒸した後すぐに外側の薄皮をむいたまんじゅうのことです。
昔のお茶会は、夜にろうそくをともして行われるのがメジャーでした。ろうそくの明かりに照らされてぼんやりと見えるおまんじゅうの様子から、この名前が付いたと考えられています。
「朧月」は春の夜のかすんだ月のこと
何となく使っていた「朧月」という言葉。春の季語だと知らなかった人も多いのではないでしょうか。
朧月の夜は、今回紹介した俳句や短歌を思い浮かべながら空を見上げてみてください。先人たちが朧月にどんな思いを寄せていたのか、自分なりに解釈をまとめてみるのも楽しいかもしれませんね。
(律)
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※この記事は2021年08月27日に公開されたものです