知ってる? 「ミスリードを誘う」が間違っている理由
ビジネスシーンでは、カタカナの外来語が使われることが多いもの。「ミスリード」もその1つです。その意味や使い方を正しく理解できていますか? 今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「ミスリード」の本来の意味や使い方、言い換え表現を教えてもらいました。
ミスリードを誘う──「ミスリード」という言葉の本来の意味を正しく把握している人なら、この表現に違和感を持つかもしれません。
外来語である「ミスリード」。その語源は、英語の「mislead」です。しかし、英語には「misread」という単語も存在しており、この2つの意味は少し異なります。
今回は「ミスリード」の本来の意味や使い方を調べてみましょう。
「ミスリード」の語源や意味とは?
まずは「ミスリード」の語源と意味を見ていきましょう。
語源は英語「mislead」
「ミスリード」は、英語「mislead」が語源になっている外来語です。
「mislead」には、次のような意味があります。
mislead[動詞 他動詞]
1-a 〈人を〉誤解させる,迷わせる;欺く.
You should not be misled by a person’s appearance.(人の見かけにだまされてはだめだ.)
1-b 〔+目的語+into+(代)名詞〕〈人を〉迷わせて〔…〕させる.
Her gentle manner misled him into trusting her.(彼女の優しい態度に惑わされて彼は彼女を信頼してしまった.)
2 〈人を〉誤って導く[案内する].
(『新英和中辞典』研究社)
このように、語源である英語の「mislead」には「人を誤解させる」という意味があることが分かります。
「ミスリード」の意味は「誤解・誤読を誘う」
そして「ミスリード」には、以下の意味があります。
ミスリード【mislead】
(1)誤った方向に導くこと。誤解させること。
(2)新聞・雑誌などで、見出しが記事内容と異なること。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
以上のことから、「ミスリード」とは、「誤解や誤読を誘う。見出しやタイトルが内容と違う」という意味だと分かります。
番組などで内容とは違う宣伝やタイトルで誤解させたり、ミステリーや映画などで読者や観客に誤解させるような表現をわざと施したりすることを表す言葉です。
「ミスリードを誘う」は「誘う」の重複
「mislead」には「誘う」「招く」「させる」という意味が含まれています。
たまに目にする「ミスリードを誘う」という表現は、「“誤解・誤読を誘う”を誘う」という「誘う」の重複になってしまうため、矛盾が生じてしまいます。
そのため、この場合には「ミスリードする」という表現が正しいといえます。
「misread」の意味は「誤解・誤読する」
外来語として使われる「ミスリード」は「mislead」の方の意味で用いられますが、念のためもう1つの「misread」の意味も押さえておきましょう。
misread [動詞 他動詞]
1 〈…を〉読み違える.
2 〔+目的語+as 補語〕〈…を〉〈…と〉誤解する. misreading 名詞
(『新英和中辞典』研究社)
misleadとの違いは「誘う・招く・させる」という意味の有無
「誤解を誘う・誤読に導く」という意味の「mislead」に対して、「misread」には「誘う・導く」という意図的な要素がなく、単に「誤解・誤読する」という意味になります。
つまり、「mislead」には「誘う」「招く」「させる」という意味が含まれ、「misread」には含まれないということです。
ミスリードとはどんな時に使える言葉なのか?(例文付き)
では、実際どんな時に「ミスリード」が使えるのか、例文と一緒に紹介します。
「誤解・誤読・誤認」を誘う優れた表現について述べる場合
ミステリー小説などでは、すぐに犯人が分かってしまうと面白くありません。そのため、意図的に誤解させる工夫をこらすことがよくあります。
これは、小説に限らず、ドラマや映画などでもいえることです。
例文
・彼女の小説は、読者をミスリードする描写が随所にあるのが特徴です。
あおり気味なタイトルや手法について述べる場合
メディアや広告でのあおり気味な表現について、あまり良くないニュアンスでも使います。
例文
・犯人だと断定できないうちから決めつけるような報道をしていた番組は、ミスリードを認めるべきだ。
「ミスリード」の類語・言い換え表現
ここでは、「ミスリード」と同じような意味を持つ表現を紹介します。
「誤解させる」
「誤解」とは「意味を取り違えること」を意味する言葉で、「誤解させる」はその使役形です。
「誤解させる」だけでは、「ミスリード」のような「意図的」というニュアンスは含まれていません。
以下の例文のように、「わざと」という言葉を付け加えることで、意図的なニュアンスを含む言い回しになります。
例文
・彼はあの時、わざと誤解させるような言い方をした。
「齟齬」の意味や使い方、「誤解」や「相違」との違いをあわせてチェック。
「誤認を誘う」
「誤認」とは「違うものをそうだと誤って認めること」を意味しています。
これも同じく、「誤認」だけでは「意図的」という意味は含まれません。「誘う」という言葉を組み合わせることで、意図的な要素が加わります。
例文
・テレビ番組のタイトルは、なぜ誤認を誘うようなものが多いのだろうか。
「惑わせる」
「惑わせる」とは、「分別を失わせる。まごつかせる」という意味です。
意図的な場合、意図しない場合、両方のケースで使えます。
例文
・あなたにそんなつもりがなくても、その煮え切らない態度が、彼女を惑わせるのです。
より確実に意味が伝わる表現を選ぼう
今回は、カタカナの「ミスリード」が「mislead(誤解・誤読を誘う)」から来ていること、英語の「misread(誤解・誤読する)」とは少しニュアンスが変わることを紹介しました。
伝える相手や場面にもよりますが、「誤解させる」「誤読を誘う」と日本語で述べる方が伝わりやすいことも多いものです。
カタカナ語を使う場合には、「日本語と比べてどちらが伝わるか?」を考えて使いましょう。
(前田めぐる)
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※この記事は2021年02月17日に公開されたものです