知ってる? 自慢することを「手前味噌」と言う理由
たまに耳にする「手前味噌」という言葉、その意味を正しく理解できていますか? 本来は「自分で自分を褒める」という意味ですが、この「手前」を「手近」という意味だと勘違いして誤用してしまう人も。そこで今回は、ライティングコーチの前田めぐるさんに、「手前味噌」の意味や使い方、類語などについて解説してもらいました。
「手前味噌」とは、自分で自分を褒めることを意味しています。
意味を全く知らずに字面だけ見ると、「手前にある味噌がどうしてそんな意味に?」と思う人もいるかもしれませんね。
「手前」ってどういう意味? そもそもなぜ、「味噌」なのか? 褒めることと味噌と何の関係があるのか?
今回は「手前味噌」について調べてみましょう。
「手前味噌」の意味
「手前味噌」を辞書で引くと、次のように載っています。
てまえみそ【手前味噌】
(自分の作った味噌を自慢する意)
自分の事を誇ること。自慢。手味噌。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
「手前味噌」とは、「手味噌」とも言い、自分の作った味噌を自慢することから、自分で自分のことを褒めたり、誇ったりすることを意味します。
「手前味噌」の語源とは?
「手前味噌」でいう「手前」とは、「目の前、こちら側」という意味ではなく、「自分の手で行うこと」という意味です。
今でこそ味噌は店で売られていますが、かつてはそれぞれの家で作る物でした。
そして、自分で作った味噌(手前味噌)を並べて互いに自慢し合ったことから、自分で自分を褒めることを「手前味噌」と言うようになったのです。
「手前味噌」の誤用例
「手前味噌」とは誇らしげに自慢することだと分かりました。
ここでは、「手前味噌」の間違った使用例を紹介します。
「手前」は「手近」という意味ではない
「手前」という言葉から、「身近にある」「簡単なもの」などが想像されるせいか、よくやってしまう間違いです。
前段でも述べた通り、「手前味噌」の「手前」は距離を示しているのではなく、「自分」のこと。
そのため、「手前味噌で恐縮ですが、このケーキ、頂き物なんです。よろしければ、おやつにでも」というような表現は、誤用です。
自分で作ったものでもこだわりがあるものでもない、「手近にあった頂き物」という意味で「手前」を使っているからです。
「手前味噌で〜ですが」に自分を卑下する言葉は使わない
謙遜の表現が過ぎてしまい、「手前味噌で、ご覧に入れるのは恥ずかしいのですが」などと卑下してしまうことがあります。
しかし、「手前味噌」は卑下する表現としては使いません。
なぜなら、「手前味噌」は「誇らしげに自慢をする」という意味であり、卑下する言葉と並べるには不釣り合いだからです。
もし謙遜の気持ちも一緒に表したい場合には、以下の例文にあるように「恐縮ですが」とセットで使うと決めておくといいでしょう。
「手前味噌」はどんな時に使えるの?(例文付き)
さて、ここまで「手前味噌」の意味や語源、間違いやすい例を取り上げました。
ここでは、「手前味噌」という言葉が使える場面や状況を例文と共に考えましょう。
「手前味噌」を使った言い回しとして一番多いのは、「手前味噌で恐縮ですが」「手前味噌ながら」という表現でしょう。
ビジネスシーンでも使える表現で、「恐れ多くも、自慢になってしまいますが」という意味で、謙遜しつつも誇りを持っていることを伝えたり、良さをアピールしたりする時にぴったりです。
具体的に見ていきましょう。
取引先や目上の人に自慢する時
目上の人に自慢するのは失礼じゃないか、と思うかもしれませんが、それができるのが「手前味噌」という言葉の優れたところです。
「手前味噌で恐縮ですが」とクッション言葉のように使うことで、「恐れ多くも、自慢になってしまいますが」というニュアンスを伝えます。
あくまで謙遜しつつの自慢なので、取引先や目上の人と話す場合にも使うことができます。
例文
・手前味噌で恐縮ですが、うちのスタッフは若くて優秀な人材が多く、いつも助けられています。
大勢の人の前で自慢する時
大勢の人の前で自慢する時にも、「手前味噌」は使えます。
そのままシンプルに「手前味噌ですが」と使っても差し支えありません。目上の人が多い席では、さらに丁寧な言い方である「手前味噌で恐縮ですが」を使うといいでしょう。
例文
・手前味噌ですが、学生時代からその場をまとめることが好きで、自然と会議を仕切ることができていたように思います。
新商品や新サービスを紹介する時
手塩にかけて開発した商品やサービス、自慢したいのは当然ですね。
そんな時には「手前味噌ですが」を使って、アピールしましょう。
例文
・手前味噌ですが、夏に汗をかいても蒸れにくくなっているところなど、特に喜ばれると思います。
「手前味噌」の類語や言い換え表現は?
「手前味噌」と似た意味合いを持つ言葉を以下に掲げます。
「自画自賛」
手前味噌と同様に、自分で描いた絵に自分で賛辞を贈ることから、「自分で自分を褒めること」を意味します。「自画自讃」とも書きます。
「自分を褒める」ということから「我」を用いてしまいそうですが、「自我自賛」は誤表記なので気を付けましょう。
例文
・自画自賛するようですが、この企画書は今までで一番よく書けたと思います。
「我褒め」
「われぼめ」と読みます。
手前味噌と同じで、自分で自分を褒めること、自慢、自賛という意味です。
例文
・我褒めですが、こう見えても学生時代は演劇部の名脇役として活躍したものです。
「自惚れ」
「うぬぼれ」と読みます。
自分で自分のことを優れていると、得意になることを意味します。
例文
・自惚れだと言われるかもしれませんが、人事畑に15年いたので、人を見る目だけはあると思います。
「手前味噌ですが」でもっと自分を褒めてみよう
いかがでしたか?
「手前味噌」は、自分で自分を褒める言葉であると紹介しました。
自分をへりくだって相手を高める謙遜の姿勢は、日本の文化と言ってもいいほど定着しています。
しかし、時代も変化しています。自分のこと、自社のこと、自国のこと、そして愛すべき仲間や家族のことなど、もっとアピールしたり主張したりしても良いのではないでしょうか。
そんな場面で、謙遜の文化も大事にしつつ、魅力や強みをさりげなく伝えられる「手前味噌」という言葉をうまく使ってみてくださいね。
(前田めぐる)
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※この記事は2020年12月24日に公開されたものです