適正在庫とは?2種類の計算方法やリードタイム・維持方法を解説

在庫管理

適正在庫とは、具体的にどのような状態なのでしょうか。適正在庫の計算方法やリードタイムの種類が複数あることもあり、混乱するかもしれません。この記事では、適正在庫の定義とサイクル在庫・安全在庫との違いを明確にした後、2種類の計算方法と3つのリードタイム、適正在庫を維持する方法について解説します。

適正在庫とは

適正在庫とは、欠品せず、かつ過剰在庫にならない適正な在庫数のことを指します。いつもお客様が求める状態のときに購入できる状態を保ちつつ、適度に在庫を循環させるには、適正在庫をキープすることが重要です。

1、適正在庫を保つ目的

適正在庫を保つ目的は、主に販売機会の損失防止と企業の資金繰り改善の2つです。欠品や過剰在庫にならない適正在庫の状態を保つことは、企業の業績にプラスの影響をもたらします。

例えば、欠品中に注文が入ると販売機会の損失となり、企業にとっては大きな痛手です。欠品が多いとお客様も悪印象を持ってしまい、客離れを引き起こしかねません。

逆に過剰在庫の状態だと、保管効率や在庫回転率が悪化して、企業のキャッシュフロー(資金繰り)に悪影響を及ぼします。特に飲食店など鮮度管理も必要な場合は、過剰在庫は在庫ロスの拡大にもつながり、経営を圧迫してしまいます。

このような事態を避けるために、適正在庫を保つことが重要です。

2、適正在庫とサイクル在庫・安全在庫の違い

サイクル在庫とは、在庫の発注から次の発注までに確実に消費される在庫量の「半分」を指す言葉です。例えば、10日おきに発注をかけている場合、発注から5日経過した時点で消費される在庫の数に相当します。

一方、安全在庫とは、在庫を切らさないように予備的に持つ在庫のことで、在庫の下限値です。適正在庫は過剰在庫と欠品の両方を防ぐことを目的としますが、安全在庫は欠品を防ぐことのみを目的とする点が違います。安全在庫は、以下の計算式で求められます。

安全在庫 = 安全係数(一般的には1.65) × 使用量の標準偏差 × ルート(発注リードタイム+発注間隔)

安全係数とは、どれだけ欠品を許容できるかの値で、一般的には1.65(5%の欠品を許容)が用いられます。

適正在庫の計算方法・決定方法

適正在庫の計算方法は、実務的観点からボトムアップ式に適正在庫数を算出する方法と、経営的観点からトップダウン式に適正在庫を決定する方法があります。両方の方法について順番に解説します。

1、実務的観点から見た適正在庫の計算方法

実務的観点では、お客様あるいは後工程を待たせないだけの在庫量をキープすること考え、以下の計算式で算出します。

適正在庫数 = 一定期間の需要数 + 安全在庫数

「一定期間の需要数」は、例えば過去データから算出された1ヶ月間の平均需要数や、サイクル在庫を適用するなどで決めます。過去データがない場合は、販売目標数を採用するといいでしょう。

例えば、以下のケースで適正在庫数を計算してみましょう。

  • 1ヶ月の平均使用量は3000個
  • 安全在庫数は100個

計算式に当てはめると、1ヶ月の適正在庫数は「3000 + 100 = 3100」となります。

ボトムアップ方式で適正在庫数を計算すると、欠品はカバーできますが、積み上げ式で在庫が過剰気味となる点はデメリットです。

2、経営的観点から見た適正在庫の決定方法

経営的視点からトップダウン式に適正在庫を決めるには、適正在庫の管理に「在庫回転率」と「在庫回転日数」を利用します。

在庫回転率 = 売上原価 ÷ 平均在庫金額
在庫回転日数 = 日数 ÷ 在庫回転率

売上原価 = 期首在庫金額 + 仕入れ在庫金額 - 期末在庫金額
平均在庫金額 =(期首在庫金額 + 期末在庫金額)÷ 2

在庫回転率は一定期間内に何回在庫が入れ替わったかを示す数値です。年間の売上原価が100万円、1年間の平均在庫金額は30万円の場合、年間の在庫回転率は約3で、年に3回在庫が入れ替わったことになります。売上原価と平均在庫金額を月間の数値に変えれば、月間の在庫回転率や在庫回転日数も計算可能です。

在庫回転率は、高ければ高いほど適正在庫を保て、在庫をより速くお金に変えていることを示します。

在庫回転日数は、何日で在庫が回転したかを示す数値です。年間在庫回転率が3の場合、在庫回転日数は「365日 ÷ 3 = 約122日」となります。月間在庫回転率が2の場合、在庫回転日数は「30日 ÷ 2 = 15日」です。

在庫回転日数が少ないほど在庫をお金に変えるまでの日数が短くなり、その分売上高アップとなります。

適正在庫と3種類のリードタイム

適正在庫を考える際知っておきたいのが「リードタイム」です。リードタイムとは、商品の発注から納品に至るまでの生産や輸送などにかかる時間のことを指します。

商品の発注から納品までには「発注」「製造」「出荷」3段階のリードタイムがあります。これらのリードタイムをすべて足した時間(日数)が、総リードタイムです。適正在庫を保つためには、各リードタイムを把握し、ときにはリードタイムを短縮できないか検討することも必要です。

各リードタイムについて、もう少し詳しく解説します。

1、発注リードタイム

製造業の場合は、原材料を発注してから、工場に納品されるまでにかかる時間です。小売業の場合は、商品を発注してから販売店に納品されるまでにかかる時間となります。

2、製造リードタイム(製造業のみ)

製造リードタイムは、原材料を使用して実際に製品を生産するためにかかる時間(日数)のことです。製造業以外の業種は、製造リードタイムはありません。

3、出荷リードタイム

商品を出荷してからお客様に届くまでにかかる時間(日数)です。適正在庫をキープしていれば、出荷リードタイムが短縮できます。一方、ECサイトなどで「無在庫販売」を行う場合は、お客様からの注文を受けてから発注をかけて届いた商品をお客様に配送するため、出荷リードタイムは長くなります。

適正在庫を維持する4つの方法

適正在庫を維持するために知っておきたい4つの方法を紹介します。自社に向いている方法はどれか、検討してみてください。

1、定期発注と定量発注の使い分け

発注方式には、定期発注と定量発注の2種類があります。これらの発注方法を、商品の性質によって使い分けることで、適正在庫を維持しやすくなります。

  • 定期発注:1ヶ月に1回など定期的に発注
  • 定量発注:発注のタイミングとして決めた在庫数量を現状の在庫数が下回ったら発注

定期発注は、需要を予測して発注量を毎回決めるため手間がかかりますが、需要の変動をきめ細かく確認し、発注したい場合に適した発注方法です。定量発注は、発注時期が都度変わりますが、需要予測をしなくていい分手間はかかりません。定期的に在庫が減っていく商品には、定量発注が適しています。

2、製造リードタイムの短縮

製造業の場合は、製造リードタイムを短縮できないか検討しましょう。製造中の製品も在庫として管理しなければならず、製造リードタイムが長いと在庫数も増えてしまいます。

発注や出荷は他社も関係するため、リードタイムを短縮するには交渉が必要です。製造リードタイムは自社のみで努力できる部分なので、製造リードタイムの短縮から検討しましょう。

3、需要の見積もり

適正在庫を維持するには、需要を見積もることも重要です。企業間取引の場合はクライアントに直接聞くこともできます。直接聞けない場合は、自社の過去データから見積もるか、統計データや市場の動向をチェックして見積もります。

4、在庫管理システムを利用した迅速な在庫数の把握

在庫管理システムも、適正在庫を維持するのに役立ちます。ハンディターミナルや自動バーコード読み取り装置等を利用してリアルタイム・自動で在庫数を管理できるため、迅速かつ正確に在庫数が把握でき、発注数が検討しやすくなるためです。

適正在庫を維持するのに便利な在庫管理システム

適正在庫とは、欠品や過剰在庫の状態を回避し、企業の利益を最大化させることを目的とした在庫の状態です。

適正在庫を維持するためには、在庫管理システムの導入がおすすめです。在庫管理システムなら、現在の在庫数をリアルタイムに、かつ正確に管理でき、過去のデータからも適正在庫数の計算もでき、発注数量を見積もりやすくなります。

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