サイバー攻撃や内部不正によるインシデント発生時、社内だけで原因を特定し、証拠となるデータを保全するのは容易ではありません。こうした場合は、法的に有効な証拠を確保し、調査に対応できるフォレンジック調査の専門会社への早期相談が重要です。
本記事では、外部調査会社に依頼すべき理由と選び方のポイントに加え、全国対応の信頼できる5社をご紹介します。
すでに被害が発生している、または社内不正の疑いがある場合の相談先を探している方は、ぜひ参考にしてください。

警察庁の報告によると、2024年における中小企業のランサムウェア被害報告件数は前年比で37%増加しました。また、被害を受けた企業の半数が調査・復旧に1,000万円以上の費用を要しており、被害の深刻化と高額化が大きな課題となっています。
なぜフォレンジック調査は大手の専門会社に依頼すべきなのか?
「退職者のPCに不審な操作履歴がある」「不正アクセスの通知を受けた」「ファイルが突然暗号化されて開けなくなった」といった状況では、社内だけでの原因特定や証拠となるデータの確保が難しいケースが多く見られ、対応を誤ると証拠能力の喪失や調査遅延につながるおそれもあります。
まずは、外部の大手専門会社へ依頼するべき主な理由を確認しておきましょう。
- 専門知識と技術が不足しているため
- 調査の客観性と信頼性を確保するため
- 法的証拠としての有効性を担保するため
- 社内リソースを温存しつつ迅速なインシデント対応を実現するため
専門知識と技術が不足しているため
フォレンジック調査は、不正アクセスや情報漏えいの原因を明らかにし、証拠データを収集・分析する高度な手法です。
ITやネットワーク、法的対応の知識が求められ、社内対応ではデータの不備や手順ミスにより、法的に無効とされるリスクがあります。
その点、外部の大手専門会社に依頼すれば、専用ツールと技術により精度の高い調査が可能です。
調査の客観性と信頼性を確保するため
重大なインシデントでは、社内だけで調査を行うと、調査結果の客観性が疑問視されるケースもあります。
特に、関係者による自己保身や隠ぺいを懸念される場面では、第三者による中立的な調査が求められます。外部の専門会社に依頼することで、調査結果に対する社内外の信頼性を担保しやすくなります。
法的証拠としての有効性を担保するため
フォレンジック調査によって得られた結果は、社内処分や訴訟対応など、法的手続きで証拠として活用されることも少なくありません。
このとき、調査手順や報告書の形式が不適切だと、証拠能力を否定されるリスクがあります。外部の大手専門会社であれば、法的要件を満たした報告書作成に対応しており、証拠となるデータの有効性を確保できます。
社内リソースを温存しつつ迅速なインシデント対応を実現するため
フォレンジック調査には相応の時間と専門工数が必要です。限られた社内リソースで対応を進めると、調査の遅延や対応品質の低下を招く可能性もあります。
大手専門会社に依頼することで、社内担当者の負担を軽減しながら、スピード感のある対応が可能になります。

自社対応だけでは、技術面・法的対応・リソースの面で限界があるのが現実です。被害の拡大を防ぎ、原因調査や証拠保全を正確に行うには、フォレンジック調査の大手専門会社に依頼することが効果的な選択肢と言えるでしょう。
フォレンジック調査会社を選ぶ際の7つのポイント
フォレンジック調査を依頼する際には、調査の正確さや対応の早さに加えて、法的なリスクや緊急対応に備えた体制が整っているかどうかが重要です。
信頼できる調査会社を選定するためには、次のような観点から検討すると判断しやすくなります。
- 技術力・専門性
- 実績・信頼性
- 法的証拠の有効性
- セキュリティ体制
- スピード対応
- コミュニケーション・サポート体制
- 費用の明確さ
技術力・専門性
フォレンジック調査には、高度な解析技術と専用ツールが必要です。OSやファイル構造の理解、削除データの復元、暗号化ファイルへの対応、ログ解析など、幅広いスキルが求められます。技術力の高い調査会社ほど、より正確な原因特定や証拠となるデータの確保が可能です。
また、AI技術を活用した自動解析ツールの導入状況も重要なポイントと言えるでしょう。最新のAI技術により音声のディープフェイク検出精度は向上しており、こうした先端技術を導入している会社は調査効率と精度の両面で優位性があります。
実績・信頼性
官公庁や警察、大手企業などからの豊富な依頼実績がある調査会社は、調査精度や対応力において信頼性が高く、安心して任せることができます。公式HPなどで、過去の対応事例や対応分野が明示されているかも確認しておきたいポイントです。

例えば、デジタルデータフォレンジック者のHPには、「累計相談件数3.9万件以上、警察・捜査機関との協力実績395件超」といった具体的な数値が公開されており、実績の透明性が高く信頼できると判断できます。
法的証拠としての有効性
調査報告書が裁判や訴訟で証拠として通用するかどうかは、調査会社を選ぶうえで非常に重要です。法的な知見を持つスタッフが関与しているか、報告書の形式や証拠能力が明確に説明されているかを確認しましょう。

2025年5月に国会で成立した「能動的サイバー防御関連法」により、フォレンジック調査の法的位置づけがより明確になりました。法的要件に精通した調査会社を選ぶことが重要です。
セキュリティ体制
フォレンジック調査の対象となるデータには、企業の機密情報や個人情報など、極めて重要な情報が含まれることが一般的です。そのため、情報管理体制の整備状況を確認することは、調査会社を選ぶ際の重要な基準となります。
具体的には、プライバシーマークやISO27001(ISMS)などの認証を取得している企業は、一定水準の情報セキュリティ対策を講じていると評価できます。また、「情報セキュリティサービス基準適合サービスリスト」に掲載されている企業は、国が示す基準に適合していることが確認されているため、信頼性の面でも安心できるでしょう。
スピード対応
サイバー攻撃や内部不正への対応では、初動のスピードが被害の拡大を防ぐ重要な要素となります。24時間365日の受付体制が整っているか、即日対応が可能か、夜間や休日にも対応できるかなど、緊急時の対応力も選定基準に含めることが望ましいです。
デジタル証拠は時間の経過とともに上書きや削除のリスクが高まるため、4時間以内の初動対応体制を整えている会社を選ぶことが重要です。
コミュニケーション・サポート体制
専門的な調査内容を、非専門の担当者にもわかりやすく説明できる対応力は、安心して依頼するうえでの大切な要素です。
相談や見積もりへの対応が迅速かつ丁寧であるか、問い合わせに対するレスポンスが的確かどうかも確認しておきたいポイントです。無料相談や見積もりが可能かという点も、あわせて確認しましょう。
費用の明確さ
フォレンジック調査は内容によって工数や期間が大きく異なり、それに応じて費用も変動します。調査範囲・作業内容・報告書作成の有無など、料金の内訳が明確に示されているかを確認しましょう。
また、作業範囲の変更やキャンセル時の費用発生条件についても、事前に把握しておくことが安心につながります。

標準的な調査費用の相場は30万円〜400万円程度ですが、緊急対応の場合は20〜50%の割増料金が発生することが一般的です。
おすすめの大手フォレンジック調査会社一覧
ここまで解説したポイントを踏まえ、全国対応が可能な大手調査会社を5社紹介します。まずは、下記の一覧表をご確認ください。
会社名 | 特徴 | 受付時間 |
---|---|---|
デジタルデータソリューション株式会社 ⇒公式HP |
累計実績3.9万件以上。 警察・捜査機関と連携し、スピード対応に強み。 |
24時間365日 |
株式会社ブロードバンドセキュリティ ⇒公式HP |
OTセキュリティ分野に強み。 24時間体制でセキュリティ監視を実施。 |
24時間365日 |
株式会社FRONTEO ⇒公式HP |
20年以上、2200件超のリーガル相談実績。 AI技術「KIBIT」で効率化を実現。 |
平日9:00〜18:00 |
株式会社ラック ⇒公式HP |
「サイバー119」など緊急対応に強み。 国内有数のセキュリティ企業。 |
24時間365日 |
株式会社くまなんピーシーネット ⇒公式HP |
PC-3000技術採用。 司法機関や民間企業向けに法廷証拠対応の調査を実施。 |
平日9:00〜19:00 |
デジタルデータソリューション株式会社
住所 | 〒106‑6115 東京都港区六本木6‑10‑1 六本木ヒルズ森タワー15階 |
---|---|
電話番号 | 0800‑333‑7200 |
公式HP | https://digitaldata-forensics.com/ |
受付時間 | 24時間365日 |
対応地域 | 全国 |
データ復旧サービスで14年連続国内売上No.1の実績を誇るデジタルデータソリューション株式会社の強みは、その技術的基盤にあります。物理的に破損したHDDや複雑なサーバー構成からのデータ抽出で培った高度な技術力を、フォレンジック調査に応用。フォレンジック分野では累計3.9万件以上の相談実績、警察・捜査機関からの協力依頼も累計395件を超えており、官公庁や上場企業からの信頼も厚いのが特徴です 。
HDD・サーバー・スマートフォンなど多様なデバイスの調査に対応しており、インシデントの種類を問わず柔軟な対応が可能です。ISO認証やプライバシーマークも取得しており、世界基準の情報セキュリティ体制を備えている点も大きな強みと言えるでしょう。
2025年にはD-SOC(Digital SOC)サービスを新たに開始し、六本木ヒルズに専用センターを開設。リコージャパンとの資本業務提携やAPRIO TECHNOLOGIES、CyCraft Japanとのパートナーシップにより、予防から復旧まで一貫したサービスを提供しています。
株式会社ブロードバンドセキュリティ
住所 | 〒160‑0023 東京都新宿区西新宿8-5-1 野村不動産西新宿共同ビル4F |
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電話番号 | 03-5338-7430 |
公式HP | https://www.bbsec.co.jp/ |
受付時間 | 24時間365日 |
対応地域 | 全国・海外 |
株式会社ブロードバンドセキュリティは、東京証券取引所に上場している信頼性の高いセキュリティ企業です。
マルウェア感染や不正アクセス発生時の緊急対応からフォレンジック調査、再発防止までワンストップで支援。特に、OT(Operational Technology)セキュリティ分野で独自の強みを発揮しており、2025年3月には大日本印刷(DNP)との協業拡大が発表されました。
この提携により、工場の生産ラインや制御システムといった、一般的なIT環境とは異なる「特殊な環境をサイバー攻撃から守るための専門的な監視・運用サービス」が期待されています 。製造業や重要インフラ事業者など、事業継続にOT環境の安定稼働が不可欠な企業にとって、同社の専門性は非常に価値が高い選択肢となるでしょう。
株式会社FRONTEO
住所 | 〒108‑0075 東京都港区港南2‑12‑23 |
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電話番号 | 03-5463-7577 |
公式HP | https://legal.fronteo.com/forensics/ |
受付時間 | 平日9:00~18:00 |
対応地域 | 全国 |
株式会社FRONTEOは、AI技術を活用したフォレンジック調査のパイオニアです。自社開発のAIエンジン「KIBIT」や専用解析ソフトを活用し、20年以上で2,200件超の不正・不祥事調査実績を誇ります。
自社開発のAIエンジン「KIBIT」を駆使し、不正調査だけでなく、予防的なコンプライアンス体制の構築を支援。金融機関向けの営業記録監査システムなど、インシデント発生後の対応(事後対応)に留まらず、不正の兆候を事前に検知する(事前対策)ソリューションを提供している点が最大の特徴です 。
株式会社ラック
住所 | 〒102‑0093 東京都千代田区平河町2‑16‑1 |
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電話番号 | 03‑5979‑5400 |
公式HP | https://www.lac.co.jp/ |
受付時間 | 24時間365日 |
対応地域 | 全国 |
株式会社ラックは、1986年から続く日本初の情報セキュリティサービス企業として、「サイバー119」をはじめとする緊急対応サービスを24時間365日体制で提供しています。フォレンジックやウイルス解析、現地対応から事業継続支援まで一貫対応し、2,000件超の実績を持ちます。
また、2025年1月、KDDIによる完全子会社化が完了しました。これは、通信インフラとサイバーセキュリティの融合を象徴する市場の大きな動きです。
日本最大級のセキュリティ監視センター「JSOC」や緊急対応サービス「サイバー119」で知られる同社の高度な脅威インテリジェンスと、KDDIの持つ広範なネットワーク基盤およびAI技術を組み合わせることで、より統合されたセキュリティサービスの提供を目指しています。
株式会社くまなんピーシーネット
住所 | 〒860‑0834 熊本県熊本市南区江越2‑1‑8 |
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電話番号 | 096-373-2213 |
公式HP | https://www.kumanan-pcnet.co.jp/ |
受付時間 | 平日9:00~19:00 |
対応地域 | 全国 |
株式会社くまなんピーシーネットは、ACE Lab社のPC-3000技術を活用した高度なデータ復旧技術をフォレンジック調査に応用しているユニークな企業です。証拠の収集・保全から解析・報告までを一貫して対応し、司法機関や民間企業向けに法廷証拠対応の調査を実施しています。
同社の最大の特徴は、公式HPにて詳細な料金体系を公開している点にあります。例えば、スマートフォンの調査では「保全準備費」「基本技術料」「各種調査費」といった項目ごとに料金が設定されており、費用の内訳が非常に明確です。
この価格の透明性は、予算が限られる中小企業や、初めてフォレンジック調査を依頼する企業にとって大きな安心材料となるでしょう。
フォレンジック調査の費用相場と料金体系
フォレンジック調査の費用は、調査対象デバイスの種類、データ量、緊急度、必要な作業内容によって大きく変動します。
一般的な費用相場は30万円~400万円程度ですが、大規模なインシデントでは1,000万円を超える場合もあります。
作業内容別の費用相場
作業内容 | 費用相場 | 備考 |
---|---|---|
初期対応・証拠保全 | 30万円~100万円 | 緊急対応は20~50%割増の可能性も |
データ解析・調査 | 50万円~300万円 | データ量により変動 |
報告書作成 | 20万円~100万円 | 法廷提出用は高額 |
現地対応(1日) | 20万円~50万円 | 交通費・宿泊費別途 |
専門家証言・法廷対応 | 30万円~/回 | 裁判所への出廷や意見書作成など |

上記の費用はあくまで一般的な目安です。多くの調査会社では、有事の際の対応を優先的かつ割安にするためのリテイナー契約(年間契約)も提供しています 。
料金を左右する主な要因
- 緊急度:24時間以内の対応が必要な場合、通常料金の20~50%の緊急対応費が加算されます。
- データ量:解析対象となるデータ量が多いほど、作業時間が増加し費用も高くなります。1TB以上の大容量データでは、100万円以上の追加費用が発生することもあります。
- 調査の複雑さ:暗号化されたデータの解析、削除済みファイルの復元、ネットワーク経由の不正アクセス調査などは、高度な技術が必要で費用も高額になります。
- 法的対応の必要性:裁判での証拠提出を前提とした調査は、より厳密な手順と詳細な報告書が必要で、通常の調査より30~50%高くなります。

費用を抑えるためには、事前に調査範囲を明確に設定し、複数社から見積もりを取得することが重要です。
フォレンジック調査の流れと期間
フォレンジック調査は、証拠の完全性を保持しながら法的に有効な結果を得るため、厳格な手順に従って実施されます。調査期間は案件の複雑さにより異なりますが、一般的には2週間~3ヶ月程度が目安となります。
調査の基本的な流れ
- 初期相談・ヒアリング(1~2日)
- 証拠保全・データ取得(1~3日)
- 詳細解析・調査(1~8週間)
- 報告書作成(1~2週間)
- 結果報告・アフターフォロー
1. 初期相談・ヒアリング
インシデントの概要、調査対象デバイス、調査目的、法的要件などを詳細にヒアリングします。この段階で調査方針と概算費用、期間が決定されます。緊急性が高い場合は、この段階から証拠保全作業が並行して開始されます。
2. 証拠保全・データ取得
調査対象デバイスからデータを安全に取得し、証拠としての完全性を保持します。フォレンジックイメージング技術により、元データを一切変更することなく完全なコピーを作成します。この作業は法的証拠能力の確保において最も重要な工程です。
3. 詳細解析・調査
取得したデータを専用ツールで詳細に解析します。削除されたファイルの復元、アクセスログの分析、タイムライン解析、関連性の調査などを実施します。AI技術を活用した自動解析により、従来では発見困難だった証拠の特定も可能になっています。
4. 報告書作成
調査結果を法的要件を満たした形式で報告書にまとめます。技術的な詳細だけでなく、経営層にも理解しやすい要約や推奨事項も含まれます。法廷提出を想定した報告書では、より厳密な証拠チェーンの記録が必要になります。
5. 結果報告・アフターフォロー
クライアントへの結果報告と質疑応答を実施します。必要に応じて、再発防止策の提案や継続的なセキュリティ監視サービスの導入支援も行います。
調査期間を短縮するポイント
- 迅速な初動対応:インシデント発生から24時間以内の相談
- 調査範囲の明確化:不要な調査を避けて効率化
- 事前準備:システム構成図や関連資料の準備
- 社内協力体制:必要な情報提供や承認プロセスの迅速化

調査期間中も証拠の改ざんを防ぐため、対象システムの適切な保全が重要です。専門会社の指導に従い、証拠能力を損なわないよう注意深く対応しましょう。
まとめ
サイバー攻撃や内部不正によるインシデントが急増する中、フォレンジック調査の専門会社への早期相談が企業の被害最小化と信頼回復の鍵となります。
本記事でご紹介した5社は、それぞれ異なる強みを持つ信頼できる調査会社です。技術力、実績、対応体制、費用などを総合的に比較し、自社の状況に最適なパートナーを選択することが重要です。

インシデント発生時は時間との勝負です。平時から信頼できる調査会社を把握し、緊急時の連絡体制を整備しておくことで、迅速で効果的な対応が可能になります。