オープンカーはモデル数が減ってきていて絶滅寸前? 今後、日本メーカーから新型車が登場する可能性は? 屋根のあるクルマとないクルマで具体的には何が違う? 今回はオープンカーの気になるアレコレについてモータージャーナリストの岡本幸一郎さんに語っていただきます。
オープンカー今昔物語
かつては「スポーツカー=オープンカー」といえる時代もあったほどで、特に1950~60年代の欧米では、MGらイギリス製のライトウェイトオープンが人気を博していた。
日本では1960年代前半に「ダットサンフェアレディ」や「トヨタスポーツ800」などが登場。当時、四輪自動車に本格参入したばかりだったホンダは「S」を投入した。オープンカー人気は日本でも高まりつつあったのだ。
そんなオープンカーだが、1970年代になるとモデル数が急減していく。往年のフレームと違ってオープンカーの開発や製造に手間のかかるモノコックボディの普及により、メーカーにとっても手にあまる存在になってしまったこと、安全性への懸念、オイルショックによるスポーツカー人気の低下などが主な理由だ。
1980年代にも「RX-7」(マツダ)や「セリカ」(トヨタ)、「シティ」(ホンダ)、「ソアラ」(トヨタ)など、一部のモデルでオープンカーは見られたものの、どちらかというと「特殊なクルマ」というイメージがあった。
そんな中で、大きな転機となったのが、1989年の「ユーノス・ロードスター」(マツダ)の登場だ。ロードスターが国内外で大ヒットするや状況は一変し、世界中の自動車メーカーが後を追ったのはご存じのことだろう。
オープンカーは全くなくなっていたわけではなく、フェラーリやランボルギーニ、マセラティ、ロールスロイス、ベントレー、ポルシェなどのスーパーカーやスポーツカーを専門に手がけるハイブランドやメルセデス・ベンツの「SL」のような、高価で特別なモデルは存在していた。ただ、かつてもてはやされた「コンパクトライトウエイトオープン」というカテゴリーは、ほぼ絶滅状態にあった。そこに大きな可能性があることを証明したのが、ユーノス・ロードスターというクルマだった。
オープンカーの現状は?
日本では多くのメーカーがオープンカーを手がけており、スバルを除く全メーカーがオープンカーを市販したことがある。オープンカーを限定で販売するケースも多かった。
しばらくはそんな状況だったのだが、一周回って今、オープンカーは再び減ってきている。2025年5月現在、日本の自動車メーカーがカタログモデルとして販売しているのは、マツダ「ロードスター」、ダイハツ工業「コペン」、レクサス「LC」の3台だ。
日本だけではなく、海外でもオープンカーの一部はレッドリスト入りの危機を迎えている。例えばメルセデス・ベンツは、少し前まで「Cクラス」「Eクラス」「Sクラス」の全てに「クーペ」と「カブリオレ」(オープンカー)をラインアップしていたが、今ではCクラスとEクラスを統合した「CLE」という新たなモデルに集約している。「SL」は今も存在するものの、Sクラスにカブリオレの設定はない。
かつて「TTロードスター」が人気を博したアウディには、オープンモデルのラインアップがなくなってしまった。
BMWを見ると、「2シリーズ」のオープンは消滅したが、「4シリーズ」と「8シリーズ」にはカブリオレが残っている。2シーターの「Z4」については、次期モデルに関する情報が入ってこない。
フェアレディZにオープンカー?
最盛期に比べるとだいぶ減ってしまったオープンカーだが、それは一時期だけ過剰に存在したものが、だんだんと適性化していったというのが筆者の認識だ。ドイツのプレミアムブランドは比較的、オープンカーをよく残しているほうだと思う。一定のニーズがあることは明らかだから、おそらく今後、かつてのように絶滅状態になることはないだろう。
将来的に登場が楽しみなオープンカーとして、日本では「GR86」や「フェアレディZ」(日産自動車)に、というウワサがある。2023年の「ジャパンモビリティショー」で披露された「ビジョン・コペン」(ダイハツ)もあるし、スズキがライトウェイトオープンを考えている、との風聞を小耳にはさんだこともある。
登場から10年を迎えた現行型ロードスター(ND)は、そろそろモデルチェンジしてもおかしくないタイミングだが、むしろ今になって販売台数が増えるほどの人気ぶりで、まだ当面は現役を続行する見込みだ。
オープンカーと普通のクルマ、何が違う?
オープンカーの魅力は、開放的なドライブを楽しめるところだ。屋根に遮られることなく、開放感満点かつ爽快で非日常のオープンエアドライブが味わえる。小さな子どもを乗せてあげれば大喜びすること請け合いだ。
ただし、オープンカーといっても、大半の人にとっては、ルーフを閉じている時間のほうが圧倒的に長い。
閉じたときには反対に、できるだけ屋根があるクルマと同じように使えることが求められる。特に日本のような環境では、それが重視される。対候性、静粛性、視界の確保など、自動車メーカーもそれに応えるべく工夫している。
安全性においても、横転時に乗員を守るため瞬時にせり出すロールバーのような、オープンカーならではの装備が搭載されている。
走行性能については、一般的なモノコックボディであれば、オープンカーのほうが剛性は低下する。それを補強する必要があるので、オープンカーは重くなりがち。絶対的な走行性能を求めるなら屋根付きのほうが有利なのだが、オープンで走りたい人のために、それらの影響ができるだけ小さくなるよう、メーカー側も工夫している。
それゆえオープンカーは、どうしても価格が割高になってしまう。むしろ、オープンカーは贅沢なものという考えから、優雅に走れるよう、エンジンは余力のある性能の高いもののみが組み合わされていたり、足まわりについても乗り心地の快適性を重視した仕様に作り分けられていたりするケースが多い。
また、トップやトランクフードの開閉や、4シーターの場合には後席に乗り込む際のシートアレンジなどが電動かつワンタッチでできるものが増えている。トップについては、走行中でもある程度の車速までは開閉できるものも多い。
さらには、風の巻き込みへの対策をはじめ、シートヒーターやベンチレーションだけでなく、冬場に首元から温風を出して寒さをやわらげるネックウォーマーを設定するなど、オープンカーならではの不快な要素を極力なくすような装備も充実してきている。
オープンカーにはまだ乗ったことがないという人も少なくないと思うが、その世界がいかにすばらしいものであるかは実際に乗ってみるとよりよくわかる。ぜひ一度は試乗してみることをおすすめしたい。