こんにちは。行政書士の木村早苗です。
この2月、日本証券協会が高齢顧客に向けた運用サービス「家族サポート証券口座 制度要綱」を発表したことをご存じでしょうか。
少しずつ変化しつつある証券業界
これまで、株式や投資信託の商品は、利用者が認知症になると自動的に取引停止になることが普通でした。しかし、この制度ではその心配がなく、指定した家族が引き継いで資産運用を続けていけるのです。
後見人制度や既存の代理人制度とは異なる高齢者の資産運用対策ということで、このニュースとネット証券のサービスをご紹介します。
認知症になっても投資が続けられる新サービス
2月に日本証券業協会が発表した「家族サポート証券口座」は、判断能力が落ちた高齢顧客が株式や投資信託などの取引を続けられるサービスです。事前に定めた配偶者や子、孫などの代理人に、同じく本人が定めておいた「管理・運用方針」に沿って商品を売買してもらいます。
前述したように、これまでの証券会社では、顧客が認知症になった段階で取引停止になっていました。成年後見制度や一部企業が行う代理人サービスでも、代理人は金融商品の売却しか許されていません。しかし、同協会では資産運用の拡大をめざす政府の要望に加え、判断能力が低下した後でも、社会的に資産形成のニーズや必要性があると判断。2023年から専門家や証券会社による専門家会議で、こうしたサービスについて検討を重ねてきたのです。
「家族サポート証券口座」を始める大まかな流れとしては、まず、本人が判断能力のあるうちに選んだ家族代理人と、公正証書によって代理取引の契約を結びます。そして、証券会社には自身の保有する株や投資信託の運用・管理方針を決めた上で、その内容をもって利用を申し込みます。この契約では、本人の認知判断が低下するまでは売買ができ、認知症などと判断された段階で家族が書類を会社に提出すると代理取引へと変更されます。
証券会社は代理人の行う取引内容が本人の提出した方針に沿っているかを確認し、売買を実行していきます。ただし、新規の入金はできないので、運用はこれまで入金された金額の範囲となります。出金した資金も本人名義の銀行口座にしか送れません。また、信用取引や金融派生商品のようなリスクの高い商品はそもそも扱えません。
と若干の制限はあるものの、資産運用をされている方は将来的に自らの貯金を切り崩す生活を見越して始めておられるはず。認知症になった途端、自動的に取引が停止されてきた今までを思えば大きな改善と言えます。長年続けることで利益が出るようになった商品の運用を継続でき、利益を引き出せることは、介護や入院などの費用が必要になる家族にとっても一つの安心材料となるに違いありません。
ちなみにこのサービスが提供できるのは、協会の所属企業が要綱に基づいて作成した場合のみ。まだ各社とも大きな動きは見られないようですが、協会員は日本証券業協会のWebサイトにも掲載されています。今後が気になる方は確認してみるとよいでしょう。
今からやっておきたいネット証券や商品の見直し
株取引や投資信託をインターネット上で行う証券会社も今では普通になりました。
店舗や人件費が不要な分、利用手数料も抑えられますし、空き時間で気軽にチェックできるので利用されている方も多いでしょう。その一方で、形になる記録が残らないネット上での取引は、相続財産を把握するときには、なかなか厄介な代物ではあります。
まず、何も聞いていなければ存在の有無すらわかりませんし、スマホやパソコン上で探そうとしてもまずはハードのパスワード、そして証券会社のWebサイトのパスワード、そして人によってはスマホを使った二段階認証……などと、辿り着くまでにいくつものハードルを越えなければなりません。
そんな中でも、比較的早い2021年から利用者の認知症対策を見据えた信託サービス「たくす株」を提供しているのがマネックス証券です。認知症発症時の財産管理や相続時の資産承継を、グループ企業のマネックスSP信託が支援するという仕組みになっています。
本人が申し込んでおくと、認知機能が低下した時点で、家族は指定された分の株を専用口座に移すことができ、代理人として売却や現金化ができます。相続のときも戸籍謄本などの提示をすれば、指定された家族が専用口座にある資産を受け取れるようになっています。
もし認知症になったとしても、本人以外が扱える株や投資商品などの仕組みは少しずつ広がってはいますが、重要なのはやはり事前の準備です。銘柄や商品の違いもちろん、社会情勢にも影響を受けるのが株式や投資信託のため、将来的に利益を得るか負債を負うかは誰にもわかりません。
例えば、複数の株や投資商品を家族に分配したとしても全員が利益を得る確証はないのです。妻が利益を得る一方で子が負債を負うような結果は、ご本人も家族も望んでいないですよね。そこでおすすめなのが、今のうちにハイリスクな株からローリスクな債券など安定した商品に移したり、商品や証券口座を絞ったり、今後出てくるであろう「家族サポート証券口座」などに切り替えたりしながら、整理することです。整理した段階で、ネット証券を含めどの証券口座にどのような資産や商品があるのかを家族で共有しておくといいでしょう。
この数十年の銀行預金の利率の低さもあり、株式や投資信託で運用をされてきた方も多いはず。いざという時のためにも、投資や株などについても見直してみてはいかがでしょうか。