オープンカーに乗ろうと思っても国産車には選択肢が少ない。もちろんマツダの「ロードスター」は定番だが、プレミアムな世界観で乗りたいとなると、おそらくレクサスのフラッグシップオープンモデル「LC500コンバーチブル」一択ということになる。
「LC500コンバーチブル」に乗ると、日本車離れしたそのスタイルと官能的なエンジン音には感激したのだが、どこかちょっと冷めた自分がいることも感じてしまった筆者だった。
ルーフ開閉の美しさにもこだわった?
「LC500」の“クーペ”に遅れること3年。レクサスファンが待ちに待った「コンバーチブル」が登場したのは2020年6月のことだった。
レクサスの“顔”であるスピンドルグリルから後方に向けてつながる流麗なウエストラインや盛り上がるヒップラインはそのままに、コンパクトなソフトトップを取り付けたそのスタイルは、屋根を開けても閉めても見事な佇まい。「日本のメーカーでも、こんなクルマが創れるんだ」と素直に感動したものだ。
「LS」などと同じ「GA-Lプラットフォーム」を採用したLC500コンバーチブルのボディは、全長4,770mm、全幅1,920mm、全高1,350mm、ホイールベース2,870mm、車両重量2,050kgと比較的大きい。そこに2+2のコンパクトなキャビンが収まるレイアウトだ。
吸音材を組み込んだ4層構造の電動油圧式ソフトトップは、センターアームレストに取り付けられたフタ付きスペースの中に収まるスイッチで開け閉めする。開閉に要する時間はオープン時約15秒、クローズ時約16秒。50km/h以下であれば走行中でも動作可能だ。
ルーフ後端がちょこっと上がってすぐに蓋の部分が空き、ルーフを格納した後にそれが前方に戻りつつ閉まるという一連の動きには緩急があって、動作にまで美しさを追求したというレクサスのこだわりが詰まっている。作動音も静かだ。
「LC500コンバーチブル」の屋根開閉を動画で確認!
ボンネットの下に絶滅危惧種が!
輝く「ソニッククロム」のボディに「ダークローズ」のルーフとインテリアという組み合わせが鮮烈な試乗車。長いフロントボンネット内に収まるのは、5.0LのV型8気筒「2UR-GSE」型エンジンだ。最高出力は351kW(477PS)/7,100rpm、最大トルクは540Nm/4,800rpmとなっている。
筒内直接+ポート噴射(D4-S)と電動可変バルブタイミング機構を備えており、燃費はWLTPモードで8.0km/L。10速(!)の電子制御オートマチック(Direct Shift-10AT)を介して後輪を駆動するシステムだが、何より、“絶滅危惧種”とも言われる大排気量の自然吸気マルチシリンダーエンジンを頑張って生存させていることには素直に感謝したい。ちなみに、性能面はゼロヒャク加速約4.6秒、最高速度270km/h(米国仕様)とされている。
オープン化に伴って、フロア下には各部を斜めにつなげたブレースや、後端に取り付けたヤマハ発動機製の「パフォーマンスダンパー」などを採用したことで、ボディの変形や振動への対策を入念に行ったそうだ。その他の細かな部分についても、弛まぬ進化を追求するという「Always On」の考えのもと、トヨタテクニカルセンター下山で走り込みを行なって年々改良を施しているという。
V8サウンドを聴くためのオープントップ?
まずはルーフをクローズ状態にして首都高へ。メーターバイザーの左上にレイアウトされたドライブモードダイヤルを回せば「コンフォート」「ノーマル」「スポーツS」「スポーツS+」から走行モードを選べるが、まずはコンフォートにして流れに乗ると、車内はまるでクーペのような静粛さを保ちつつ、V8エンジンは1,000rpmちょっとの低い回転数をキープして淡々と走り続ける。大きな目地段差も「タンッ」という感じで通過してくれるのは、先に述べたブレースやダンパーがしっかり仕事をしている証拠で、車体剛性の高さを伝えてくる。
一般道に降りて早速ルーフをオープン。陽光を浴びるローズカラーのインテリアが、周囲にスペシャルなクルマであることを主張し始める。近くで見ていただければ、シート肩口のキルティングやベルト取り付け部、パーフォレーション加工のグラデーションなど、細部の作り込みの丁寧さに気づいていただけるはずだ。
ちょっとしたワインディングで例のモードダイヤルを「スポーツS」にすると、5.0LのV8はアイドリングから太めのエンジン音(排気音?)を奏で始める。前が空いたところでアクセルを踏んづけてみると、タコメーターの針が一気に上昇。4,000rpmを超えてからレッドゾーンまではあっという間で、この時の音はターボエンジンとは異なった、澄み切った乾いた音色に切り替わる。前からはエンジンの吸気と各パーツの回転音、後ろからはダイナミックな排気音がシートに座ったドライバー目掛けてダイレクトに伝わってくるのだ。これだけはクーペでは味わえない、コンバーチブルが持つ最大の特徴と言ってもいい。
後で聞いた話だが、キャビン内にはサウンドジェネレーターが備わっていて、ここからも雑音を排してチューニングされた快音が届けられるとのこと。コーナーでのハンドリングは正確だし、大きなパドルシフトを装備しているので、シフトダウン時のブリッピング音を聞くのも楽しいエンターテインメントのひとつだ。
LC500コンバーチブルが似合う場面とは?
とまあ、本格スポーツカーもかくや、という走りを披露するコンバーチブルなのだが、筆者が思うこのクルマに最もふさわしいシチュエーションは一般道。ルーフを開けてサイドウインドーを立て(リアには小さなポリカーボネート製ウインドディフレクターが備わる)、「コンフォート」モードでのんびりと平日の一般道を流している時だ。その場所がリゾート地であればなお良し。なんだか人生の成功者になったような気分が味わえて、誠に気分がいいのだ。つまり、このクルマのステアリングを握っていると、熱くなる事なく、何にもしないでゆったり走るのが一番、と思ってしまうのだ。
レクサスが本気で、そして真面目に創り上げた“遊びグルマ”とも言っていいLC500コンバーチブル。日本で唯一無二の存在であり、真似できるメーカーも今後、出てこないはずだ。価格は1,550万円で、トルセンLSD、ATオイルクーラー、F245/40R21、R275/35R21タイヤと鍛造アルミ、カラーヘッドアップディズプレイのオプションを装着した試乗車は1,583万4,400円だった。世界に誇れるオープントップモデルだ。