Hakkaisan八海醸造グループは、業務資本提携を結ぶアメリカ・ニューヨークの酒蔵ブルックリンクラで醸造した「SAKE(清酒)」と、新潟・魚沼で醸造した「ウイスキー」の新商品発表会を3月27日に開催した。
米どころ・新潟を代表する日本酒「八海山」には、筆者も若い頃からお世話になってきた。ただ、そのイメージが強すぎて、ブルックリン? ウイスキー? と、頭にいくつかはてなが浮かぶ……ということで、その疑問を解消すべく会見に足を運んだ。
八海醸造の新たな挑戦
同社といえば、日本酒・八海山が有名だが実は清酒だけでなく蒸留酒や梅酒、クラフトビールなども展開している。今回、登場する「SAKE(清酒)」は、「SAKE(清酒)を世界飲料に」のビジョンのもと、2021年より提携しているブルックリンクラと造りあげたもの。
ブルックリンクラは、2人のアメリカ人が創業したニューヨーク初の酒蔵で、Hakkaisan八海醸造グループが培ってきた技術や知見を生かしながら、現地アメリカの米と水を使って醸しているという。
また、今回披露されたのは日本酒だけではない。米を主原料とするユニークな「ライスグレーンウイスキー」も初お目見えとなり、ジャパニーズウイスキー市場に参入することも発表された。
同社では、米、酒かすを主原料とした本格焼酎などの蒸留酒も手掛けており、その知識と技術を生かして2016年よりライスグレーンウイスキーづくりを魚沼で開始。それがやっと日の目を浴びることになった。
八海醸造 代表取締役社長 南雲二郎氏は、「われわれは日本酒のマーケットを広げるために、『日本酒を世界飲料に』というテーマを掲げました。そうすることで、同じ目的を持った、ブルックリンクラのブライアンとブランドンとの出会いがあったわけです。(提携という)取り組みによって、アメリカのブルックリンで製造した酒の発表を今日迎えることができました」と話す。
続けて、「米のウイスキー『魚沼』は100年以上、真面目に一生懸命日本酒造りに取り組んできた日本酒メーカーだからこそできたウイスキーです。今、流行しているウイスキー造りの発想とは違った造りを目指して――。そしてそういうメーカーだからこそできたジャパニーズウイスキーであることを認識してほしい」と、言葉に力を込めた。
NY・ブルックリンで醸される酒とは
続いて登壇した八海醸造 取締役副社長 南雲真仁氏は、世界市場における日本酒の現状について次のように話す。
「八海山は、1995年からアメリカに輸出を開始。30年の歳月がたった今、世界市場において日本酒の普及は、われわれが想像していたものには程遠い。アメリカの市場における日本酒の消費量は全体のわずか0.2%です」
では、どうしたらワインやビール、ウイスキーのように世界中で造られ、愛される酒になるのだろうか。南雲(真)氏は、「ただ日本で酒を造って輸出するのではなく、現地の者が、現地の原料を用いて、酒を醸し、育てていくことが大変重要」と説明。
その言葉通り、ブルックリンクラではアメリカで栽培した米、ニューヨークを流れる水を用いて、現地の技術者が酒造りを行う。
当日は、ブルックリンクラ(Brooklyn Kura)の共同創設者兼社長 ブライアン・ポーレン氏も登壇し、本取り組みへの想いを伝えた。
「ここでは資本提携のみならず、人材や専門知識面での協力に加えて、お互いのミッションも共有しております。私どもの持っているパートナーシップの肝は、何よりも人間を重視しているというところにあります。私どもが手を携えて協力していられるのは、飲料としての酒を信じているからこそ、そしてお酒という飲み物が世界中に喜びをもたらしてくれると信じているからこそです」
加えて、アメリカの消費者に受け入れてもらうポイントについて尋ねると、「より一層のパートナーシップが必要です。ただ単に日本から輸入する、というだけじゃなくて、ローカルに生産を行い、ローカルなパートナーシップのもとで、いろいろな教育を進めていくこと――。そのためには啓蒙を行う施設も必要ですし、継続的に消費者に対して情報発信をしていくこと、そうしたローカルな生産を含めた取り組みが、アメリカのみなさまに受け入れてもらうためにはもっと必要だと思っています」と説明した。
ブルックリンクラ 共同創設者兼杜氏 ブランドン・ドーン氏は、「創業を決めたとき、私どもが感じたのは何よりも最高かつ可能な限り本物の酒を造っていかなければいけない強い責任感でした」と、創業当時の思いを語る。
そう話す彼らは、原料にも強いこだわりを持っている。同蔵で使用するメインの酒米は、山田錦とカルローズ米。意外なことにアーカンソー産の山田錦は、日本の兵庫県と同じ緯度で栽培されている。
水は、軟水だというキャツキル山脈からの水を使用することで、軽い口当たりの酒に仕上がるそう。ちなみに、酵母は日本の酒酵母と自社発酵の酵母を使用しており、米麹は日本の姫路および秋田今野から調達を行っている。
では、これらがどんな味わいを生み出しているのだろう? 料理と一緒に楽しんできた。
料理とのペアリングを楽しむ日本酒
4月14日より日本新発売となるのは、「キャッツキル」「グランドプレーリー」「オクシデンタル」の3種類(各4,950 円)。
蔵の仕込み水の名を冠した「キャッツキル」は、アロマのような優雅な香りと、バランスのよい酸味、なめらかなテイストが特徴的。柑橘が添えられたサラダにそっと寄り添うような繊細な味わいが印象的な一本だ。
ドライで軽やかな口当たりの「グランドプレーリー」は、ケイジャン・スパイスをきかせたグリルチキンとともに。キレと奥行きを感じさせる味わいが、ジューシーなキチンと相性抜群。
淡いピンク色の装いがかわいらしい「オクシデンタル」は、SAKEに短い時間ドライホップを施したというチャレンジングなお酒。ホップを加えたことで香りにトロピカルな華やかさがプラスされており、祝いの席など、気分を上げたいときに飲みたい一本となっている。
洗練された3種の酒は、「海外で造る日本酒なんて……」と思っているあなたにこそ飲んでもらいたい。それぞれに特徴があり、飲み比べを楽しむのもまた乙。ぜひ日本酒業界の新しい風を味わってみて。
限定2500本のライスウイスキー
本会見では、八海醸造初のウイスキー製品となる「Hakkaisan シングルグレーン 魚沼8年 ライスウイスキー 2025LIMITED」(1万3,200円)も紹介された。
4月1日に数量限定で発売される本商品について、八海山 マーケティング本部 商品開発部部長 勝又沙智子氏は、「商品名すごく長いです。この長い商品名の中に、当社のウイスキーの特徴が詰まっています」と、ほほ笑む。
もともと、米を主原料とした自社製造原酒だけを使ったウイスキーは世界でもあまり例のない稀少な製品とのこと。本商品の場合、7割以上の米を使用しているほか、麦芽以外の穀物も一切使用していない。このことからも「自信を持ってライスウイスキーと言えます」と、語るのは八海醸造 深沢原蒸溜所所長の上村太一氏だ。
同商品は、仕込み水には清らかな味わいを実現するべく雷電様の清水を使用し、清酒酵母を使い、同社ならではの個性的な味わいづくりに取り組んだ。また、目標とするクオリティを求めて熟成8年、ようやく納得する味わいに仕上がったという。
上村氏は「現在、未来に向けて貯蔵している原酒の中には清酒酵母ではなく、ウイスキー酵母を使ったものや、シェリー樽やバーボン樽に貯蔵しているものなど、さまざまあります。そのため、今後発売するウイスキーは、今年のものと同じとは限りませんので、味わいは一期一会。今年限りの製品もぜひお楽しみください」と、笑顔で語った。
米のやさしい甘さを感じるウイスキー
今回、こちらも特別に試飲させてもらった。
はじめに、チョコレートやバニラをほうふつとさせる甘い優美な香りと柑橘のようなさわやかな香りが上質な世界観を表現。米由来のほのかな甘みとドライフルーツ、ナツメグのようなスパイシーさなど、重層感のある味わいに仕立てられている。
ちなみに、水を数滴加えると、花が開いたかのようにライスウイスキーの魅惑的な香りが押し寄せてくるので、ちょっとした小技も取り入れてその魅力を存分に味わってほしい。
なお、本商品の発売は4月1日、一般販売はオンラインショップにて抽選販売を予定している。第1回の予約受付は、3月28日~4月9日。
八海醸造グループが提案する革新的なお酒たちを、この機会に楽しんでみてはいかがだろう。新たな酒の世界がのぞけるかもしれない。