スバルからようやく、ストロングハイブリッドシステムを搭載するクルマ(いわゆるハイブリッド車)が登場した。ハイブリッド車としては最後発組の部類に入る「クロストレック S:HEV」の実力は? このクルマに乗って豪雪で有名な青森県・酸ヶ湯を目指した。
スバリストに朗報! ハイブリッド化で燃費が向上
クロストレック S:HEVに試乗したのは2025年1月23日のこと。前週までは大雪が降り積もってニュースでも話題になっていた八甲田山付近だが、試乗日の3日ほど前から晴天が続いて気温が上昇し、除雪作業も行われたことから、青森市内から酸ヶ湯に向かう国道103号の路面にはほとんど雪がなかった。残念ながらスバル自慢のAWDシステムの活躍の場は失われてしまったが、実は今回のストロングハイブリッドシステムであるS:HEVの訴求ポイントはハイパワー化と燃費性能の改良。上り坂ではアクセルペダルをしっかりと踏み込むことができたので、かえって好都合だった。
試乗したのはストロングハイブリッドモデルの上級グレードとなる「プレミアム S:HEV EX」だ。
「マグネタイトグレー・メタリック」のボディは、一見すると既存のマイルドハイブリッドモデルとの違いがよくわからない。外観上の識別点は、フェンダーとリアハッチにある「e-BOXER」のエンブレムだ。S:HEVはフォントを変えて、ちょっと高級なアルミ削り出し風にしてある。それと、ハイブリッド車は渦巻きのような形状のアルミホイールを装着している。
「クロストレック」のグレード展開はマイルドハイブリッド車(MHEV)の「Touring」(FWD301.4万円/AWD323.4万円)、同「Limited」(FWD323.4万円/AWD344.85万円)、ストロングハイブリッド車(HV)の「Premium S:HEV」(AWDのみ、383.35万円)、同「Premium S:HEV EX」(AWDのみ、405.35万円)の4種類になった。試乗したのは写真の「Premium S:HEV EX」だ
「S:HEV」を採用したからといってこれみよがしのアピールをしないのは、アンダーステートメント性を好むスバルらしいところかもしれない。
フロントに搭載する注目のストロングハイブリッドシステムは、アトキンソンサイクル化して専用設計した「FB25」型自然吸気2.5L DOHC4気筒直噴ボクサーエンジン(最高出力160PS/5,600rpm、最大トルク209Nm/4,000~4,400rpm)に発電用と駆動用(119.6PS/270Nm)の2基のモーターを組み合わせたもの。トヨタ自動車の「トヨタハイブリッドシステムⅡ」(THSⅡ)を活用したいわゆるシリーズ・パラレル方式だ。バッテリー容量は1.1kWh。ちなみに、マイルドハイブリッド(MHEV)の「e-BOXER」は145PS/188Nmの2.0Lボクサーエンジンと13.6PS/65Nmのモーターの組み合わせだったから、パワーアップは一目瞭然だ。
車体サイズに変更はないものの、重量は50kgほど増加して1,660kgに。これまでのスバル各モデルの弱点だった燃費(WLTCモード)は、MHEVが15.8km/L、ストロングハイブリッド車(HV)が18.9km/Lでかなり向上している。
2基のモーターと電子制御カップリングなどは縦置きミッションとともにパッケージ化されていて、ボクサーエンジンとモーターから出たパワーはプロペラシャフトを通じて後輪にも伝わる機械式四輪駆動システムとなっている。後輪駆動にモーターを使うトヨタなど他社とは異なり、そこには機械式の方が性能が高いとするスバルのこだわりが詰まっている。左右対称で一直線にレイアウトされたスバル独自のシンメトリカルAWDシステムは、きっちりと踏襲されているのだ。
室内スペース的には、荷室床下にバッテリーを搭載したことでフロア面が20mm上がり、容量が311Lから279Lに減少。その一方で、同じ場所にあったパワーコントロールユニットをエンジン上部に移設し、その空間をいかして燃料タンクの容量を63Lまで拡大して、航続距離を大幅に伸ばしている。
ハイパワー化で走りはどう変わった?
試乗車のプレミアム S:HEV EXは、グレー基調のレザーシートやシートヒーター、サンルーフ、高度運転支援システム「アイサイトX」などの各種装備が奢られ、400万円オーバーのクルマらしい仕上がりだ。12.3インチのフル液晶メーターの左側はパワーメーターになっていて、「CHARGE」「ECO」「POWER」の走行状態がよくわかる。
青森市内の一般道を走り出すと、強力なモーターのアシストがすぐに実感できた。アクセルペダルにちょっと足を乗せておくだけで、簡単に流れに乗ることができる。昔の大排気量エンジン搭載車で味わうことができたアノ感じによく似た感覚だ。パワーメーターを見ていると頻繁に回生を行なっていて、低負荷時にはクラッチで開放できるAWDの制御とともに燃費にしっかりと貢献しているようだ。
市内を抜けて一気に上りのワインディングに突入しても、両側には3mを超える雪の壁があるだけで路面に雪がないので、センターモニター上部にある「SNOW/DIRT」「NORMAL」「DEEPSNOW/MUD」の3つから選べる「Xモード」はNORMALのままでいける。
ステアリングの「SI」モードをパワー重視の「S」モードに入れて、シフトレバーを「M」側に倒してパドルでシフトを行うと、ちょっとしたスポーツカーのように軽快かつ余裕で山道を登ってくれる。これまでのクロストレックでは味わえなかった走りだ。エンジンが始動しても、それはノイズとは異なる軽快な水平対向エンジンのサウンドと呼べるもの(過去のドドドッというのとは異なるが)で、ちょっと遠くから聞こえてくる感じがなかなかいい。
路面はウェットだしスタッドレスタイヤ(ヨコハマiG70)を履いているので無理はできなかったけれど、新型クロストレックの走りの良さの一端を垣間見ることはできた。
そんな走りを楽しみつつ、あっという間に「酸ヶ湯温泉旅館」に到着した時のメーター燃費は10.8km/Lを表示していた。今までのスバル車なら7~8km/Lを示しそうな走り方をしたにも関わらずだ。これなら、平地をのんびり走ればカタログ値に近い燃費が出そうだし、63Lの燃料タンクを満タンにしておけば1,000km先にも無給油でいけそうだ。「あとは燃費だけ」というスバル車試乗記の常套句は、もう使えなくなった。