クルマの電動化と知能化、SDV開発、米国市場の動向……自動車業界を取り巻く環境が混迷の度合いを増す中、自動車メーカー各社にとっては「人材確保」の重要性がますます高まっている。日産自動車との経営統合が進むかどうかでも注目のホンダでは今後、どんな人事施策を進めるのか。メディア向け説明会を取材した。
今後のホンダを担う人材とは?
ホンダは現在、国内最大規模(日本国内の自動車OEMにおいて。2025年1月時点ホンダ調べ)となる年間約2,300人の採用を行っている。2025年度はキャリア採用1,500人、定期採用約1,000人を予定。中途採用の比率が高いのが特徴だ。
もともと中途採用が多かったというホンダだが、近年はキャリア採用の割合が6割を超える状況にある。キャリア採用のうち約60%が「注力領域人材」である点にも注目だ。
ここでいう「注力領域人材」とは、ソフトウェアの設計・開発・運用を行うエンジニアのこと。クルマの電動化と知能化が加速し、「SDV」(ソフトウェア・デファインド・ビークル)への注目が高まる自動車業界の例にもれず、ホンダにおいてもソフトウェアエンジニアの需要が高まっているのだ。
開発拠点を拡大! エンジニアが働きやすい環境を
注力領域での採用強化に向けて、ホンダはいくつかの施策を展開している。そのひとつが働く場所の拡充だ。
ホンダの安田啓一さん(コーポレート管理本部 人事統括部長)によると、過去の事例として同社では、ソフトウェアエンジニア向けの勤務地が栃木と東京にしかないことにより採用につながらないケースがあったという。そこでホンダでは、2023年10月に開設した大阪の「We Work LINKS UMEDA」を皮切りに、名古屋、福岡、大宮へとソフトウェア開発拠点を拡充。さらに、2025年4月には大阪のグラングリーン、2026年には東京で新オフィスをオープンさせる予定となっている。
海外人材の獲得にも力を入れており、定期採用とキャリア採用で年間60人規模の採用を行っている。2024年度はインドやアジア諸国を中心に10カ国以上で採用活動を展開。定期採用ではインド工科大学やベトナム国家大学など、各国のさまざまな大学から高い意識を持った人材を採用することに成功したという。今後は日本語を要件としない採用を拡大し、多様な人材の活躍によるイノベーションのさらなる促進を図っていく考えだ。
注力領域の強化に向けリスキリングを推進
しかし、ホンダの自動車事業が新たな領域にシフトしていくことを鑑みれば、定期採用や中途採用だけで人材の全てを賄うのは困難に思える。そこでホンダは、人勢育成の施策として、全従業員に対して集中的なリテラシー向上プログラムを展開し、リスキリングを実施している。
2023年にはソフトウェア領域のビジネスアーキテクトやデータサイエンスなど5つのテーマに関する16時間のeラーニングプログラムを新たに開発・展開し、3カ月間で国内従業員3万人が受講。2024年はこれに続いて、電動化領域においてホンダの一員として備えるべき視点を約4時間のeラーニングにまとめ、2カ月で国内従業員3万人が受講を完了したという。今後は国内従業員にとどまらず、海外従業員についても、約8万人を対象に受講を進めていく計画とのことだ。
2030年に向け、新領域で新たな価値を創出する人材を育成すべく、領域トップレベルのエンジニアの人材育成を中心に、今後5年間で約150億円の人材投資を行っていくとしたホンダ。これらの施策から今後のホンダを支える人材が誕生するのか、注目したい。