電気自動車(BEV)については一回の充電で走れる距離(一充電走行距離)と充電環境についてネガティブな印象を抱いている人が多い。実際のところ、最新のBEVでロングドライブをすると何が課題で、どんなところが快適なのか。ボルボ「EX30」で京都~東京間を走ってみた。
BEVは逆風?
今回のEX30を製造しているスウェーデンのボルボ・カーズは2024年9月、従来から掲げていた「2030年までに全ての車種をBEVに」という目標を「同年までに世界販売台数の90~100%をBEVあるいはPHEV(プラグインハイブリッド車)にする」へと変更した。目標設定としては、トーンダウンした感が否めない。
ご存知のように、BEVの需要は世界的に伸び悩んでいる。ボルボのトーンダウンも市場環境の変化が理由だ。
EX30ってどんなクルマ?
ボルボが日本で販売しているEX30は現状、「ウルトラシングルモーター・エクステンデッドレンジ」というグレードの1種類のみ。200kW(272PS)/343Nmを発生する永久磁石同期モーターをリアに1基搭載して後輪を駆動するRR方式のBEVだ。搭載するリチウムイオンバッテリー容量は69kWhで、一充電走行距離が560km(WLTCモード)。5秒とちょっとで時速100kmに達する俊足の持ち主だ。
ステアリングを託されたのは、光の当たり方によって白や水色に見える「クラウドブルー」に塗られた試乗車。余計な空力付加物がないプロポーション抜群のエクステリアに、クールな「ブリーズ」カラーのピクセルニット・ノルディコ・コンビネーションシート、PCVの窓枠やローラーシャッターを粉砕したリサイクル素材から作った粒々模様の「パーティクル・デコラティブパネル」、12.3インチのタッチスクリーン式センターディプレイのみのインテリアを組み合わせる未来感あふれるクルマだ。全身をシンプルなスカンジナビアンデザインで統一した美しい内外装が、このクルマを他と差別化する最大のアピールポイントであることがわかる。
東寺をスタート! 紫式部ゆかりの石山寺にも寄ってみた
試乗は午前8時前に京都の東寺からスタート。モニターにはバッテリー残量98%、航続距離502kmと表示されている。
BEVらしさを味わうにはワンペダルモードで走るのが一番なので、今回もそれを選択して京都南ICに向かう。名神高速に乗るといきなり故障車渋滞につかまったけれども、ステアリング右側にあるシフトレバーを「D」から一段下に下げ、ステアリングポスト左の車線維持ボタンを押して「ACC」を選んでやれば、ストレスフリーで追従運転を開始してくれる。
目指したのは25km先の滋賀県大津市にある石山寺。あの紫式部が、琵琶湖に浮かぶ月を見て源氏物語の着想を得たという寺だ。NHKの大河ドラマ『光る君へ』では、主人公のまひろ(紫式部)と左大臣・藤原道長にとっての運命の場所として描かれた。
朝が早かったので、瀬田川沿いにある門前町の土産物店は開店前。BEVらしく静かなアプローチで山門前まで侵入し、たまたまそこにいた関係者に一声かけて仁王像バックの写真を撮影することができた。日本古来の伝統美と、最新の北欧デザインのコントラストはいかがだろうか。
京都~東京間の走行に経路充電は何回必要?
石山寺を出発して次に目指したのは、行程のほぼ中間地点となる約200km先の新東名・浜松SA(サービスエリア)。スマホアプリの「高速充電ナビ」で確認すると、ここ(上り)には90kW6基、150kW2基の急速充電器(CHAdeMO)が備え付けられていて、リアルタイムで確認できる使用状況はガラガラだった。
新名神高速から伊勢湾岸道路のランドマークであるナガシマスパーランドや名港大橋を順調に通過していくEX30。ACCを制限速度に合わせておくだけで、まったく平穏なドライブだ。
筆者のiPhoneにはAmazon Musicで選んだユーミン、大貫妙子、吉田美奈子、山下達郎など1970~80年代のニューミュージック(今はシティポップスと呼ばれている)がたくさん入っているので、Bluetoothでつないで旅のお供にする。普段からクルマの中で聞いている曲たちだけれど、高速走行中でも車内が静かなのと、ダッシュボード上に取り付けられたharman/kardon製のサウンドバーによって、いつもよりいい音に聞こえてくるのがちょっと悔しい。
京都から233km走った浜松SA到着時点では、バッテリー残量がちょうど50%で残り航続距離が223kmになっていた。電費は14.9kWh/100kmだ。
充電スペースは敷地内に入ってすぐの場所にあるので、お昼時で混雑する一般駐車場で、どこに停めようかと空いた場所を探す必要がないのがありがたい。ここには90kWにつないだ日産自動車「サクラ」が1台いただけだったので、迷わず150kWの充電器に接続。充電をスタートすると「グオオーン」という低音が響き、強力に電気を送り込んでいる様子が伝わってきた。
30分間の充電でバッテリー残量は85%、航続距離は375kmまで回復した。センターディスプレイには、目的地「ボルボ スタジオ東京」までの残り距離234km、走行時間2時間55分との表示が。ただ、到着時点でのバッテリー残量(予測)は8%と赤い表示が出ていたので、ちょっと心配になる。そこで、116km先の駿河湾沼津SA(上り、90kW4基、150kW2基)に入って今度は90kWにつなぎ、残量を55%から86%、航続距離を375kmまで回復させて安心して帰ることにした。
この区間は120km/hペースだったので、電費は15.8kWh/100kmと少し悪化。充電終了後のモニターにはゴールまであと118km、到着予定時刻は15時49分、到着時のバッテリー残量は51%と表示されていた。
さて、30分間の充電時間中に何をしようかということになったので、隣で充電中のEVユーザーさんに使用状況を聞いてみることにした。
浜松SAでお会いしたサクラのオーナーさんは発売後すぐの2年前に購入し、走行距離はすでに2万kmを超えていた。BEVの使い勝手については満足しているという。ただしもう1台、楽しみのためにMT(マニュアル)の日産「シルビア」を所有しているそうだ。
沼津SAでは日産「アリア」が充電中だった。オーナーさんは1年前、同じBEVの「リーフ」から乗り換えたそうだ。馴染みのディーラーで、たまたま欲しかったアリアのキャンセルが出たので手に入れることができたと嬉しそうに教えてくれた。普段は日産ディーラーで充電しているというが、この日は自宅の名古屋から東京・立川を目指して移動中だったので、人気SAの沼津で充電することにしたのだという。
BEVのオーナーさんは2人とも話題がたくさんあって、聞くと気持ちよく話をしてくれたのがとてもありがたかった。
用賀から先の首都高でいつもの渋滞を味わいつつも、「ボルボスタジオ東京」には指定された返却時刻の1時間前となる15時54分に無事到着できた。バッテリー残量は61%になっていた。
総走行距離467kmという今回のコースは充電環境に恵まれたルートだったので、2回(1回で大丈夫だったけれど)の充電はスムーズに行うことができた。劇的とは言えないまでも、少しずつ急速充電器の数が増えてきているのも確認できた。ただ、ルートや環境が変われば違った印象になる可能性も捨てきれない。また、BEVは政治的な要素に左右される振り幅の大きい乗り物でもある。そのあたりは考え出せばキリがない。EX30が完成度の高いBEVであることは間違いないのだが……。