グローバル企業は、はじめからグローバル企業であったわけではありません。国内の事務所からスタートして、拡大成長を続け、支社の設立や M&A によって海外展開を成し遂げている場合がほとんどです。

たとえ同じビジネスであっても、元の会社が違えばそのプロセスは異なります。国が違えばなおさらです。KPI に用いる数字の意味すら差異がある組織体を束ねていくために、今、多くのグローバル企業が「標準化」という課題に直面しています。扱うデータを統一することで、より的確な経営判断をもたらすことが標準化の目的ですが、それには各国の業務システムとプロセスを合わせるという大仕事が待ち受けています。

グローバル展開の拡大とともに、各拠点の業務標準化を推進しているのが参天製薬株式会社です。2014 年から国際チームを結成して、システムの標準化・効率化に取り組んできました。その大きな一歩となるのが、基幹システムの刷新です。

同社は、SAP S/4HANA を Microsoft Azure 上で稼働させる「 SAP on Azure 」を採用し、グローバルテンプレートを構築しています。全世界の動向を即座に可視化することによって、迅速な経営判断と、事業の実行確度の向上、そして業務の全体最適化の実現が進められているのです。

各国で異なる ERP システムをクラウドで統合する

参天製薬は、眼科に特化した医薬品をはじめとする製品・サービスの研究、開発、製造、販売を行い、事業をグローバルに展開しています。国内シェア No.1 を誇る医療用眼科薬は、ヨーロッパ・アジアを中心に 60 を超える国・地域で販売されています。

そんな同社は長期ビジョンにおいて、2020 年までに「世界で存在感のあるスペシャリティ・カンパニー」となることを目指し、グローバル展開を加速してきました。また、従来の点眼薬に加え、注射剤や医療機器など、製品ラインナップを拡大しています。

  • 参天製薬は眼科に特化した医薬品の開発と製造販売をグローバルで行う

多様な製品・サービスの提供を確実に支え、成長していくためには、強固なインフラが必要です。しかし、従来の財務・製品供給・購買といった各システムには個別最適になっており、全体としては必ずしも強固に業務を支援できているわけではないと、参天製薬 情報システム本部 グローバルエンタープライズ&ヘルスケアシステムグループ グループマネージャー兼グローバルアプリケーションリード 堤 遠 氏は言います。

参天製薬株式会社 情報システム本部 グローバルエンタープライズ&ヘルスケアシステムグループ グループマネージャー兼グローバルアプリケーションリード 堤 遠 氏

参天製薬株式会社 情報システム本部 グローバルエンタープライズ&ヘルスケアシステムグループ グループマネージャー兼グローバルアプリケーションリード 堤 遠 氏

「私が 6 年前に入社したときは、各リージョンが別々のビジネスアプリケーションを使っており、同じ業務のはずなのに、3 〜 4 つのシステムが稼働しているという状況でした。それぞれがライセンス契約をして、メンテナンスを行っているのです。そこで、これからはグループ全体でみるべき業務はグローバルで標準化し、業務やコストの最適化と効率化を図っていこうと、特別チームが発足しました。すべての業務領域において、どんなアプリケーションがあるのか、将来的にどう統合していくのか、今後の新規国への参入や事業成長に対応できるのか、といった議論をしながら、IT システムとビジネスプロセスの統合を進めています」(堤 氏)。

標準化プロジェクトにおいては、ビジネス部門にシステムの在り方を見直してもらうことが重要だったと堤 氏は続けます。

「患者さんの Quality of Life(生活の質)を上げることが参天製薬としてのミッションですが、費用対効果の悪いシステムの使い方をしていては、本来患者さんに向けた活動に割くべき時間やリソースが無駄に使われることになりかねません。個別の部門だけでなく、全社最適とシステム全体のことも考えてもらえるように、対話を続けてきました」(堤氏)。

参天製薬が日本に SAP を導入したのは、約20 年前のことでした。既存のビジネスプロセスに合わせて無数のアドオンが導入され、「参天製薬仕様」となったシステムがオンプレミスで稼働していたのです。機器を自社で運用するとなると、5 年間隔でハードウェアの入れ替えが発生したり、保守するための人材を確保したりと、本来の業務とはかけ離れたところに労力を割かれてしまいます。今回、SAP をクラウド環境で構築することについては、社内では異論なく決まったと堤 氏は振り返ります。

「メンテナンスの労力を極力減らすことはもちろんですが、セキュリティ的にもクラウドが安心できると判断できるようになったことが、導入の決め手となりました。製薬業界は GxP という安全性・信頼性を確保するためのレギュレーションを遵守しなければなりません。IT システムもその対象なのですが、実際にクラウドでの構築事例が出始めていることをMicrosoftさん含めたパートナベンダと確認した上で、今回クラウド化を選択しました。」(堤 氏)。

信頼性が高く、GDPR にも対応している Microsoft Azure を構築基盤に採用

参天製薬はアジアで初となる SAP S/4HANA Cloud, single tenant edition の導入を決定しました。これは、ERP スイート製品である SAP S/4HANA の最新版を、ユーザー固有のシングルテナント環境で利用できるモデルです。採用に至った経緯について、参天製薬 情報システム本部 後藤 章一 氏はこう語ります。

参天製薬株式会社 情報システム本部 後藤 章一 氏

参天製薬株式会社 情報システム本部 後藤 章一 氏

「そもそも今回のプロジェクトでは、一つのマスタで運営すること、シングルテナント・ワンインスタンスにすることが前提でした。一カ所にデータを集めることで、中国のサプライチェーンで在庫はどうなっているのか、スイスでの資金はどうなっているのか、あらゆる取り引きの情報を統合し、経営判断を迅速にすることが目的だったのです。そのような情報統合を通してきちんとガバナンスを効かせていくことも、グローバル展開を拡大するうえで、絶対必要なことでした。そのために、いったん一カ所に集約しようと判断したのです」(後藤 氏)。

SAP S/4HANA Cloud, single tenant edition のクラウド基盤には、Microsoft Azure が選ばれました。ミッションクリティカルな基幹系システムにおいて、性能・可用性・セキュリティの要件を満たすことのできるソリューション「 SAP on Azure 」が採用されたわけです。Microsoft Azure の選定について、後藤 氏は「エンタープライズ製品としての安心感」があったと話します。

「当社では数年前より Office 365 や SharePoint 、Power BI を導入しており、今回のクラウド選定においても、Microsoft 製品が第一の候補として挙がりました。会社としての信頼性が高く、既存アプリケーションとの連携も期待できたからです」(後藤 氏)。

また、堤 氏はグローバル展開をするうえでも、Microsoft Azure の優位性が高かったと続けます。

「ヨーロッパでは GDPR に基づき、人事情報などのプライベートな情報は堅固に扱わねばなりません。この点、Azure は GDPR に適合しており、また、Microsoft もヨーロッパ各国で信頼を得ているために、トラブルが起きるような事態は少ないだろうと判断しました」(堤 氏)。

クラウドの強みを活かし柔軟に構築を進める

参天製薬における ERP を刷新するプロジェクトは、2017 年後半から具体的に動き始めました。グランドデザインの設計から費用対効果の検証、ベンダーの選定などを経て、現在は業務部門と協議しながら、Azure 上でアーキテクチャの設計、グローバルテンプレートの構築が進められています。実装テストを来年に行い、その後は海外に順次展開していきます。海外における機能やセキュリティなどの適応状況を確認したうえで、最後に市場規模が最も大きい日本へ導入されます。

今まさに構築中という段階ですが、後藤 氏はプラットフォームとしてのAzureを次のように評価します。

「なによりも『ソフトウェアの世界でハードウェアをいじれる』ことが大きいですね。リードタイムが少なく、変更がきわめて容易ということです。もともと当社では Azure を、予算・計画管理基盤である SAP BPC の基盤として利用していたり、営業成績を Power BI でレポーティングするためのデータレポジトリとして使っていたのですが、こちらとの繋ぎ込みも画面上の設定だけで済ませることができます。もしオンプレミスで運用していたら、専用線をどう引くのか、セキュリティ対策はどのように講じるかといったことに多くの時間を割かれていたでしょう。インフラのチームにも協力してもらっていますが、基本的にはアプリケーションの人間でリードしながら進められる点が魅力です」(後藤 氏)。

Microsoft のバックボーンを用いて遅滞のない ERP 運用を

2020 年から始まる SAP S/4HANA Cloud, single tenant edition の実装に向けて、堤 氏は Microsoft に次のような期待を寄せます。

「基幹系のシステムを扱うわけですから、速度が遅かったり、回線が頻繁に切れてしまっては業務に大きな影響が出てしまいます。特に今回はシングルインスタンスなので、各国・各地域から許容できるスピードでアクセスできるようにしなければなりません。Microsoft のバックボーンを使うことで、トラブルのない運用ができることを期待しています。そのためには帯域保証型で専用線を引く Azure ExpressRoute のサービスは必要だと思っています」(堤 氏)。

また、2019 年 10 月 1 日より始まった Windows Virtual Desktop についても期待していると後藤 氏は言います。

「Windows Virtual Desktop を使えば、サーバー環境だけでなく、端末環境も含めて Azureのワンストップ利用が可能になります。たとえば営業がパソコンを持ち歩かなくとも、モバイルやタブレットから、Azure 上に再現された Windows 環境にアクセスすることができるわけです。これは業務の在り方を大きく変えていくでしょう」(後藤 氏)。

Azure の性能、可用性、セキュリティ、そして高い信頼性にもとづき、今、参天製薬の基幹業務システムが刷新されようとしています。Microsoft の最先端テクノロジーを用いて全世界の情報を集約・可視化することにより、同社のグローバル展開はさらに確固たるものとなっていくでしょう。

  • 参天製薬株式会社  堤 遠 氏と後藤 章一 氏

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