Googleが18日にiOS用の「Hangouts」アプリのバージョン1.3.0をリリースした。Hangoutsはパソコンで十分という程度しか使っていないため、これまでiOSデバイスには入れていなかったのだが、今回初めてiPhoneとiPad miniに入れた。というのも、春頃から噂になっていた電話サービス「Google Voice」の統合が実現し、Hangoutsアプリから電話をかけたり、着信に応じられるようになったのだ。

日本でGoogle VoiceはGmailの「電話をかける」サービスだが、フルサービスを利用できる米国では"クラウド時代の電話"と呼べるようなサービスである。

ユーザーには、米国内の電話番号が1つ発行される。次にWeb版で、その番号にかかってきた通話を転送する電話機を指定する。固定電話、携帯電話のどちらもOKで、最大6台まで登録可能。電話がかかってきたら、登録していた電話が一斉に鳴るという仕組みだ。どのような電話機でもGoogle Voiceの電話機として使えるから、Google Voice番号をメインの番号にしておけば、引っ越したり、電話会社を変えても、常に同じ番号を使い続けられる。サービスは、通話、伝言メッセージ、ショートメッセージサービス(SMS)など。通話履歴はGmailに似たユーザーインタフェースのWeb版で管理でき、英語の伝言メッセージは自動的にテキスト化されて検索対象になる。

Google Voiceの米国内の通話は無料、国際電話も格安だ。ただし純粋なインターネット電話ではなく、電話ネットワーク同士をリレーするようなサービスなので、Google Voiceのアプリやプラグインを使った通話は、多くのケースでローカル通話と同じ扱いになる。またパソコン版で通話を受けることもできない。電話との親和性はGoogle Voiceの特長だが、そこにデメリットも存在した。

それが今年の春にGoogle VoiceがHangtoutsに取り込まれ始めてから一気に改善し始めた。HangtoutsではパソコンでGoogle Voice番号への通話を受けられ、発信は国内完全無料である。インターネット電話のメリットがGoogle Voiceに加わった形だ。そして今回のiOSアプリへのGoogle Voiceの統合である。Hangoutsアプリからの通話はパソコン版と同じように電話サービスの通話時間を消費することなく、無料で国内に電話をかけられる。となると、iPad miniのスマートフォン化を実現できても不思議ではない。常々考えていた「iPad mini1枚で外出」を実現できるか確かめたくて、今回初めてiOS版のHangoutsを導入したようなものだ。

Google Voice番号に電話がかかってくると、パソコン(左)、iPad(右)、登録してある自宅の固定電話や携帯電話が一斉に鳴る

結果は残念なことに、iPad miniで利用するHangouts版のGoogle Voiceは通知機能に対応しておらず、Hangoutsを使用している時にしか着信に応じられない (iPhoneでは大丈夫)。これだと、あとで着信履歴を見てまとめてかけ直すことになる。電話に出たくない時はいいけど、電話として実用的とは言いがたい。

GoogleのVic Gundotra氏がGoogle+で「Google Voiceの統合はまだ始まったばかり」と言っているから、いずれiPadやiPod touchでも電話と同じように受信と着信を行えるようになるかもしれない。同氏はまた、Android用のHangoutsアプリでもまもなくGoogle Voiceを利用できるようにすると予告しており、遅れて出てくるAndroid版も気になる。

Android KitKatではデフォルトのSMSアプリを選択できるように

HangoutsにはGoogle Voiceだけではなく、携帯電話のSMS機能も組み込まれると噂されている。Androidの次期版バージョン4.4 (KitKat)では「デフォルトSMSアプリ」という仕組みが導入される。現状では公開されていないAPIを利用したAndroid用SMSアプリが多く、そうしたアプリはAPIの変更で利用できなくなる可能性がある。そこでユーザーの混乱を避けるために、SMSアプリ構築に必要なAPIを開発者に公開し、携帯キャリアのSMSを利用するためのデフォルトSMSアプリをユーザーが選択するようにする。

これはSMSアプリを手がける開発者にとって大きなチャンスだが、GoogleもSMS機能を取り込んだHangoutsをデフォルトSMSアプリの候補の1つとして投入するのではないだろうか。おそらく、それが本当の狙いだろう。SMSはGoogleにとって魅力的なコミュニケーション手段であり、現在のAndroidの標準SMSアプリであるオープンでシンプルなメッセージを押しのけて、Googleのサービスにデフォルトの座を与えるには、それなりの大義名分を立てなければならない

今年に入ってGoogleは、コミュニケーションサービスのGoogle+とHangoutsへの集約を進めている。正直、これまでGoogleのコミュニケーションサービスは散らばり過ぎていて使いにくかった。例えば、ひと頃はメッセージングに使えるアプリがGoogle Talk、Google+ Messenger、Google Voice、そしてメッセージと4つもあった。常に何か使えるけど、誰がどのアプリを使っているのか悩まされるから結局使いにくい。Hangoutsひとつになれば、分かりやすいし、それでSMSや電話も管理できれば、とても便利だと思う。実際、すでに仕事用のデスクトップパソコンではHangouts+Google Voiceが活躍している。

気がかりなのは、GoogleがGooge Voice番号を維持し続ける気があるのかということ。通信キャリアとの衝突が避けられない仕組みなので、普及には相当な犠牲が伴う。だから、Googe Voice番号のゆっくりとした普及ペースにしびれを切らしたGoogleが、Hangoutsに音声チャット機能だけを残して終了させる可能性もありそうだ。

でも、"生涯使える電話番号"というのは、自己ドメインのメールアドレスに通じる考え方であり、長い目で見たらWeb企業が音声コミュニケーションに関わっていくためのポイントになると思う。実際に便利なのだ。だからこそ、Googleには普及を推し進めて欲しいし、Hangoutsとの融合からGoogle Voice番号を提供する国・地域の拡大が始まると期待したい。