サンプリング・オシロスコープ

サンプリング・オシロスコープ(写真6-2)は、図6-6のように入力回路に帯域制限要因となるアッテネータやプリアンプを設けずに、入力された信号を直接にサンプラでサンプリングすることで、リアルタイム・オシロスコープでは実現できないような高周波数帯域を実現したオシロスコープです。

写真6-2 サンプリング・オシロスコープ(テクトロニクスDSA8300型)

図6-6 サンプリング・オシロスコープとリアルタイム・オシロスコープの入力部構造の違い

被測定信号が繰り返しであることを前提に、トリガがかかる都度、図6-7のように入力信号の瞬間的なレベルを1回サンプリングして保持し、A/D変換した後、次のトリガに対する準備を行います。次のトリガ点では、サンプリング点の位置を変えてサンプリングを行い、最終的に入力信号と相似形の波形を再生します。各サンプル・ポイントをサンプルした時刻はばらばらで異なるものの、等価的に元の信号上の時間が再現されます。そこでこのようなサンプリング方式を等価時間サンプリングと呼びます。この方式で現在では70GHzを超える帯域が実現されています。

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図6-7 等価時間サンプリング方式(wmv形式 137KB 14秒)

入力にプリアンプを持たない、さらに低速で高分解能のA/Dコンバータを使用できることもあり、最大入力電圧が限定されるものの、ダイナミック・レンジが広く、低ノイズという特長があります。例えば筆者らの最近の例では16ビット300kサンプル/秒のA/Dコンバータを使用しています(理論上96dB)。なおリアルタイム・オシロスコープでは8ビットが一般的です(理論上48dB)。

さらに高速のパルサをサンプラに組み合わせたTDR(Time Domain Reflectometry)では、10数psから20数psの立上り時間を持った高速パルスを被測定伝送路に入力し、インピーダンスの不連続点で生じた信号の反射をサンプラで捉えることでインピーダンス測定が可能です(図6-8、9)。この場合、多重反射を取り除くためのソフトウェアも用意されています。

図6-8 TDRの原理。入射波に対してインピーダンスの不連続点で反射した信号をサンプラで捉えることでインピーダンス測定が可能

図6-9 実際のTDR画面。互いに逆極性のパルスを同時発信する差動TDRの例(テクトロニクスDSA8300型)

また、通過信号と反射信号をFFTで周波数領域化し、比較することで、挿入損失や反射損失、Sパラメータの測定も可能になります(図6-10)。この手法は後述の周波数領域でのFDNA(Frequency Domain Network Analysis)に対してTDNA(Time Domain Network Analysis)と呼ばれています。

図6-10 差動Sパラメータ特性測定例:S21損失(左)とS11反射(右)。どちらもテクトロニクスIConnectソフトウェアによる

正弦波、つまり周波数領域でこれらのパラメータを直接測定するネットワーク・アナライザも使用されます。ネットワーク・アナライザでは逆に周波数領域で測定したSパラメータから、時間軸のTDRへの変換も行われています。

入力部分はモジュール化され、用途に応じて電気信号サンプリング・モジュール、O/Eコンバータ内蔵サンプリング・モジュール、TDRモジュールなどを交換・組み合わせられます。

サンプリング・オシロスコープの使用に際しては、信号の取り扱いに細心の注意を要します。特性の低下を防ぐために、過大入力を吸収するような保護回路すら設けていないからです。そのため、過大入力はもちろんのこと、サンプラを構成しているダイオードの微細な接合部にとっては、静電気すら大きなエネルギーとして印加され、容易に損傷を与えてしまいます。