コロナ禍を経て、オフィスの在り方を見直し、オフィスを刷新する会社が増えている。そこで本連載では、先進的な働き方・オフィス構築を行っている企業に潜入し、思わず「うらやましい」と声を漏らしてしまうその内容を紹介している。「これからのオフィスどうしようか……」と考えている読者の手助けにもなれば幸いだ。→過去の「隣のオフィスは青く見える」の回はこちらを参照
今回は、ニュースアプリ「SmartNews」を運営するスマートニュース本社オフィス(東京都渋谷区)を取材した。同社では、社員が十分に能力を発揮するために、出社する社員が快適に仕事ができるよう良質なオフィスづくりに取り組んでいる。
「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」ことを常に追求しているスマートニュース。同社のその思いが、執務エリアや会議室など、オフィスの至る所に散りばめられていた。多様なワークスタイルを尊重するオフィスデザインも特徴的だった。それでは早速、オフィスの内部を紹介していこう。
偉人の名前を冠した会議室、社員が本棚を考案
東京メトロ千代田線 明治神宮駅で降り、明治神宮前交差点から渋谷方面に5分ほど歩くと、「いちご神宮前ビル」が見えてくる。このビルの地下1階と2~4階にスマートニュースは本社オフィスを構えている。東京オフィスに加えて、大阪とニューヨーク、パロアルト、シンガポールの5カ所に拠点を置いている。
エレベーターで2階に上がると、スマートニュースの企業ロゴと同社の公式キャラクター「地球くん」、そして月とよく間違われるという「エキストラの方」が出迎えてくれた。地球くんもそうだが、エキストラの方という同社のネーミングセンスに思わず笑ってしまった。
地球くんとエキストラの方の周りを囲むように、左右に本棚が広がっている。ここに並んでいる本はすべて社員の有志を中心に選んだものだといい、「人を描く、世界をかたどる」といった独自のテーマごとに分けられている。
奥へ進むと、フランスで活躍した思想家「ジャン=ジャック・ルソー」やイギリス人女優「オードリー・ヘプバーン」、江戸時代後期の浮世絵師「葛飾北斎」といったさまざまな偉人の名前を冠した会議室が並んでいた。2024年10月にこれらの会議室が新たに増設され、現時点で全部で33部屋ある。
会議室があるエリアを真上から見るとS字を描いたデザインになっており、他のエリアへスムーズに移動ができる湾曲したデザインが特徴だ。また、会議室エリアの一体感を演出するために、床と壁の仕様を統一しつつ、会議室内は快適な環境を維持できる防音性を高める天井を設置しているとのこと。
各会議室には、社員自ら選書した偉人に関する書籍が並んでいる。会議室を増設する際に「本棚プロジェクト」として、社員から偉人の候補を出してもらい、選ばれた社員が選書し、CEOや有志社員が偉人に関する説明文の作成を担当したという。
多いところで100冊以上並べている会議室もあった。会議室の内装デザインもさまざまで、その日の気分や好きな偉人に合わせて会議室を選ぶことができそうだ。筆者は最近、地動説を題材にしたアニメに激ハマりしているので、ポーランド出身の天文学者「ニコラウス・コペルニクス」の名を冠した会議室で打ち合わせをしてみたい……。
「偉人の名前を冠した会議室」というアイデアは、もともと代表取締役会長の鈴木健氏が考案したものだという。「本は概念を習得するための効率的な道具とみなせるが、本当の目的は本と本をめぐる『みちくさ』のような体験ではないか」と考え、コンピュータの父にして数学者であるアラン・チューリングの本棚を設けた部屋を作ったことが出発点となっているとのこと。
2階のエントランスおよび会議室エリアを含めて、現時点で約3200冊の本が置いているというから驚きだ。
ふらっと「良質な情報」に触れられる仕掛け
3階は主に執務エリアが広がっている。固定席派の社員もフリーアドレス派の社員のそれぞれが快適に仕事ができるよう、どちらを選んでもいいハイブリッド型のオフィス空間が広がっていた。ミーティングエリアと集中エリアを分けており、それぞれの社員の目的にあった場所が用意されている、
奥へ進むと、ハンモックに腰掛けたり、床にゴロンとしたりしながら作業ができる「フリースタイルゾーン」があった。靴を脱いで地べたに座って仕事をしたり議論をしたりするという独特の空気は、フラットな会社の環境醸成に役立っているという。
体を動かすには十分な広さで、朝にストレッチや体操を行う社員や、ゴムボールを蹴ってリフレッシュする社員もいるとのこと。お昼休憩の時に、ランチを素早く済ませてから、寝そべって昼寝をする社員もいるらしい。昼寝ができる場所があることもうらやましいが、同僚の前でがっつり寝られるそのメンタルもうらやましい……。
またフリースタイルゾーンは、壁にプロジェクターを投影することができるので、数人から全社規模までのミーティングにも使われることも多い。このエリアの壁はホワイトボードになっており、ディスカッションする場としても機能している。
この壁だけでなく、オフィスの多くの柱がホワイトボードになっていた。いたるところにホワイトボードがあるのは、「集合知としてのオフィス」という考え方に基づいているからだという。
3階のオフィスを歩いていると「NEWSSTAND」と書かれたエリアもあった。新聞や雑誌が並んでおり、それらを眺めたり手に取ったりする社員を見かけた。
普段から「良質な情報」に触れられるようにするのが目的で、元編集者である社員が新聞や雑誌のセレクションを担当しているという。ニュースアプリの「SmartNews」をリアルに置いたような場所がコンセプト。NEWSSTANDの前には大きなテーブルがあり、雑誌を読んだり、お菓子やお茶を口にしたりしながら会話に花を咲かせる社員の姿があった。
本格的な食事を無料・日替わりで提供「SmartKitchen」
今回の取材で筆者が最も「うらやましい……」と感じたのは、おいしい料理を無料で提供する社員食堂の存在だ。オフィスの中に本格的なキッチン「SmartKitchen」があった。味と素材に徹底的にこだわったヘルシーなメニューを日替わりで提供し、「世界一の社食」を目指しているという。
扱う食材にもとことんこだわり、オーガニックの食材などを使用。特別に筆者にもランチをふるまってもらえた。意図的に正午前に取材を申し込んでよかった。
この日のメニューは「鶏肉のヤンニョムチキン風」をメインとしたランチプレートだった。カロリーやタンパク質量、塩分量なども事細か掲示されていて、とても親切だと感じた。これが毎日無料で食べられるなら、筆者はテレワークを選択しないだろう。
SmartKitchenの隣には「地球珈琲」があり、ここも無料でコーヒーを提供している。何杯飲んでも無料だ。豆の良い香りが漂っていた。実際にバリスタが来て1杯ずつ丁寧に入れてくれる。コーヒー豆も厳選したものを使っていて、本格的なコーヒーがいただける。筆者はコーヒーの味にまったく詳しくはないが、今まで飲んだ中で一番おいしかった。
素敵なオフィスとおいしい料理で、心も胃袋も満たされた筆者。「またいつでもランチ食べに来てくださいね」という広報担当者の優しい言葉を信じて、また今度、明治神宮駅で途中下車して寄り道してみようと思う。