2022年11月22日、九州大学(九大)らの研究グループは、カーボンナノチューブに化学修飾による欠陥導入を行うことで、選択的に長波長化させた欠陥発光を示す欠陥配置を形成すること、そして高輝度化させることに成功したと発表した。また、この研究成果には分子設計指針として一般性があり、新たな欠陥構造制御技術を開拓することに成功したとも報じている。

では、今回開発された修飾カーボンナノチューブとはどのようなものだろうか。これによりどんな未来が期待されるのだろうか。今回は、そんな話題について紹介したいと思う。

修飾カーボンナノチューブが切り開く欠陥制御技術

九大大学院工学研究院および九大カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I2CNER)の白木智丈准教授、藤ヶ谷剛彦教授、加藤幸一郎准教授、九大工学府博士課程3年の余博達氏、修士課程の仲禎一氏、青木榛花氏(研究当時)、理化学研究所光量子工学研究センターの加藤雄一郎チームリーダー、山下大喜訪問研究員、藤井瞬基礎科学特別研究員(研究当時)らの研究グループは、カーボンナノチューブに化学修飾による欠陥導入を行うことで、選択的に欠陥発光を長波長化させること、そして高輝度化させることに成功した。

  • 九大などの研究グループは、長波長化した欠陥発光を示すカーボンナノチューブの欠陥配置を選択的に形成することに成功した

    九大などの研究グループは、長波長化した欠陥発光を示すカーボンナノチューブの欠陥配置を選択的に形成することに成功した(出典:九州大学)

炭素原子のみで構成されるカーボンナノチューブの特性として、近赤外領域の発光を示すことがある。しかし、カーボンナノチューブの発光効率は1%未満と低く、発光波長もチューブの構造で決定されてしまうという課題がある。

だが近年の研究では、カーボンナノチューブの壁面を構成する炭素原子と分子を新たに結合させる化学修飾を行い部分的な欠陥を形成することで、発光効率が変化した新たな欠陥発光を生み出せることがわかっている。具体的には、sp2型炭素の連続構造で構成されていたカーボンナノチューブ壁面の一部に、混成の異なるsp3炭素を欠陥として導入することで、カーボンナノチューブの電子構造を変換することができ、発光性の新たな電子準位が形成される。すると、通常発光される波長とは異なる欠陥発光が起こるのだ。

しかし、従来の技術では異なる修飾反応を用いた際でも類似した発光特性が観測されていたとのこと。新たな近赤外発光素子としてカーボンナノチューブのさらなる機能創出・性能向上を実現するためには、欠陥構造を変化させることで選択的に異なる発光波長を作り出すなど、新たな修飾技術を開拓することが求められているという。

九大などの研究グループは、修飾分子の分子設計をもとに修飾カーボンナノチューブを機能化させる研究を行っている。今回の研究では、その基礎知見を応用し、修飾分子にカーボンナノチューブと積極的に相互作用する共役構造をもつ部位を置換基として導入。これにより、従来は波長1140nmほどの欠陥発光が見られたカーボンナノチューブで、長波長化(1260nm)した発光が選択的に創出されたという。また、約2.8倍の高輝度化やクリックケミストリーを利用した欠陥部位への他の分子の後修飾にも成功したのだ。

  • 今回の研究で開発した修飾カーボンナノチューブの化学構造例(左)と発光波長のグラフ(右)

    今回の研究で開発した修飾カーボンナノチューブの化学構造例(左)と発光波長のグラフ(右)(出典:九州大学)

今回のこの研究成果は、戦略的に欠陥発光を制御でき分子設計指針として一般性があることが示され、新たな欠陥構造制御技術を開拓したと言える。

ちなみにこの研究成果は、ACS Nanoに2022年11月17日に掲載されている。

いかがだろうか。この研究成果は、生体透過性の高い光の領域である生体第二窓(1000〜1350nm)・第三窓(1550〜1870nm)と呼ばれる波長領域を選択的に利用できることで、生体深部かつ高解像度のバイオイメージング、医療診断のための光プローブ材料の開発につなげるが期待できるという。他にも、1250nm以上の帯域の光を用いることで光通信技術への応用も可能なため、量子通信技術開発のための新素材としても期待できるのだ。本当にすごい研究成果だ。