コンサルにアドバイスを求める時は末期

業績不振に直面した経営者の迷走はなぜか同じです。まずは、「リストラ」と「コストカット」。人員整理まではいかなくても、ボーナスや手当てをカットして人件費の総額を抑え、接待交際費はもちろん、来客用のお茶も廃止し、取引先に見積りを再提出させ、下請けにイジメ寸前の条件を飲ませます。

しかし、これらは延命策にすぎません。業績不振の大半は売上低下によるもので、そもそもの「実入り」を増やさなければ根本的な解決にならないからです。

続いて「精神論」、愛社精神や根性、気合いが出てきます。しかし、「リストラ」によって下げられたモチベーションを精神論で引き上げるのは困難です。そして、社内に険悪な空気が流れる頃、コンサルタントに「アドバイス」を求めます。こうなると「末期」です。

コンサルタントにアドバイスを求めることは一見正しい行動のようですが、実は大変リスキーな行為です。なぜなら、アドバイスの有効性をチェックするのは業績不振に直面する経営者だからです。それは、オチこぼれた生徒が予備校講師の指導法を採点するのと同じです。

さて、今回は経営コンサルタントのアドバイスに迷走する社長を紹介しましょう。

経営改善策はスマートフォン専用スタッフの配置

K社長は郊外の幹線道路沿いに、携帯電話、レンタルビデオ、テレビゲーム、トレカ、中古コミック、フィギュアを取り扱う店舗を経営しています。しかし、その業績は芳しくなく、経営コンサルタントにアドバイスを求めました。

コンサルタントはこまめにメモを取りながら店内を回り、その後ろをK社長が付いて回ります。コンサルタントが剥がれたかけたポスターを見つけて足を止めると、K社長は慌ててそれを押さえ、スタッフを大声で呼びつけ、「ちゃんと貼れ!」と叱責します。また、進行方向にゴミくずを発見すると、コンサルタントが気づく前に拾いポケットに押し込めます。ありのままを見せなければ、的確なアドバイスは得られないのですが、K社長は背伸びをしたい年頃のようです。

一通りチェックした後、店長など主要な社員が会議室に集められ、コンサルタントがアドバイスを始めます。要点はこうです。

  • 店内清掃の徹底
  • 掲示物の確認
  • 接客の強化

携帯電話販売コーナーでは、スマートフォンのような専門性の高い商品に専門スタッフを常時配属しておくことが売上増加に繋がると指導します。K社長は一言一句に「なるほど」と頷きますが、それを聞いていた社員は深いため息を吐きます。

気合いがあればトイレだって我慢できる!?

コンサルタントは視察前にネットショップもチェックしており、続けてこちらの指導に移ります。その内容は、ネットショップ専用の社員を配置し、メルマガでこまめに顧客をフォローし、ブログやツイッターを活用して新規客を集めなければならないというもの。

翌日の朝礼でK社長はコンサルタントの指導の厳守を言い渡しました。しかし、社員の誰もがそれは無理だと知っています。K社長はコンサルタントのアドバイスを「人員増加なし」で実現しようとしているのですから。

店内の清掃や掲示物に不備があったのは、リストラによって極限までスタッフの人数が削られているからです。また、携帯電話販売コーナーは一坪ちょっとの小さなブースで、基本的にスタッフ1人で終日運営しており、来客が続くとトイレすら我慢しなければならない状態です。さらにはコストカットによって清掃をアウトソーシングする予算は与えられない状態で、そこに人手を増やさず「スマートフォン専用スタッフ」を置けというのは論理的にも物理的にも不可能です。

K社長は朝礼をこう締めくくりました。

「仕事のモチベーションを高く持て」

各種手当てが減らされたうえでの仕事量の増加を、気合いで補えというのは無理な相談です。

社長のサプリメントは役立たず

経費増加を嫌うのは経営者の習性ですが、人員増加をK社長が頑なに拒む理由はそもそも自らの経営手腕を信じているからです。自分が下した「リストラ」という経営判断を翻すことはありません。コンサルタントに依頼した理由を端的に述べれば「社員に責任転嫁」するためです。

現場の不備を指摘することで経営不振の理由を現場に押し付けようと、コンサルタントを呼んだのです。そして、コンサルタント業も商売で、その客(発注主)はK社長です。明らかに経営能力が不足しているとわかっていても、客の機嫌を損ねるコンサルタントはおらず、客である社長にとって都合の良い情報や責任転嫁しやすい方法をアドバイスするのです。このアドバイスは迷走社長を力づける「アドバイス0.2」です。

コンサルタントのアドバイス自体にも疑問が残ります。スマートフォン専用スタッフの増員による売上増加は、人件費以上の利益が出なければ赤字は拡大します。インターネットも言わずもがなです。

ホームページとスタッフの人数や売上の間に相関関係はなく、「メルマガでこまめな顧客フォロー」とアドバイスしていますが、知りたいのは「顧客フォロー」の具体的な方法です。しかもこのアドバイスにより、K社長は「フォローをしていなかった社員が悪い」と曲解し、スタッフの問題とすり替えます。そして、K社長に社員を増やす気がないことを悟ったコンサルタントはこうアドバイスします。

「社員一人ひとりがカバーすれば補える……かもしれない」

「たら・れば」のアドバイスに勇気づけられた迷走はさらに加速します。そして「転職先のある社員」、すなわち優秀な社員の離脱が始まるというわけです。

エンタープライズ1.0への箴言


「耳障りの良いコンサルのアドバイスは社長の福利厚生」

宮脇 睦 (みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi