エジソンは「発明は99%の汗(努力)」と「1%のひらめき」で生まれると言ったそうですが、サイエンスは「大多数の凡人」と「一部の変人」によって進歩します。それがサイエンスの良いところでして、たいていの人は科学者になる素質を持っているのでございます。ただ、やはーり、一部の変人は必要なんですなー。そんな変人中の変人が、イギリス人の大科学者キャベンディッシュでございます。え? 知らん? ぜひ知ってくださいませー。

科学の大発見では「そんなバカな」なことが実証されることがよくありますな。空気に「成分」があったとか、太陽に近い高いところの方が「寒い」とか、光の速度は「どこから見ても一定」とか、常識に照らすとおかしなことが、本当だったってなもんです。

そんな発見をするには、常識にとらわれないで、ものごとを追求する強さが必要なわけですが、これはほぼ訓練次第でございます。あとは、着想力と運があれば、だれでも科学者になれますし、大発見をする可能性もございます。ま、過去の科学の中身を理解する努力と能力は必要ではありますが。

ただ、なかには、どう考えても変人だろうという科学者もおります。人はそれを天才というわけですが、変人ぶりばかりがひたすらきわだつ人もおります。18世紀のイギリス人科学者のヘンリー・キャベンディッシュ(Henry Cavendish)はその極北に輝く大変人なのでございます(笑)。

まず、科学者としてのキャベンディッシュについて、なにやった人なのかあげておきましょう。

  1. 「水素の発見」…これだけでノーベル賞級でございます。
  2. 地球大気で3番目に多い「アルゴン」も発見しています…これも同様。
  3. 「水の合成」にも成功しています。
  4. 「地球の重力の測定」までやっています。

もう、ここまででため息です。あんた何者というくらいの天才ぶりです。

さらに、未発表だった業績もあります。後に研究ノートなどで確認されたのですが

  1. 「ヒ素の発見」。
  2. 「クーロンの法則」の発見。これは電気バージョンの万有引力の法則みたいなものですな。
  3. 「オームの法則」の発見。電流と電圧と抵抗の関係でございます。
  4. 「シャルルの法則」の発見。理想気体のふくらみ方が、圧力一定なら、温度によるって法則

これに「ボイルの法則」=圧力によるふくらみ方を追加すると、科学の式では3番目くらいに有名でTシャツのデザインにもなる、「PV=nRT」になるのですな。

これらは、彼が発見したのに発表しなかったので「キャベンディッシュの法則」といわれていませんが、記録から彼が発見していたことはあきらかでございます。教科書を3回書き換えるような業績でございます。

ノーベル賞は20世紀になって誕生したので、彼は当然ながら受賞していないのですが、もしあれば5つか6つはとっていただろうという、とてつもない科学者です。実際、世界トップクラスの名門校のケンブリッジ大学の物理学講座は「キャベンディッシュ研究所」という名前がつけられています。彼の親戚が寄付したこともあるのですが、もちろん彼を記念してつけられたのでございます。この研究所からは30人近くのノーベル賞学者がでています。ちなみに、キャベンディッシュはケンブリッジ大学「中退」です。卒業生でないのにこの栄誉。まあ、タモリさんも1年あまりで、早稲田大学中退ですが、早稲田大学「出身者」として顕彰されているようなもんですな(違)。あ、これは当時はそんなに珍しいことではなかったようですよ。タモリさんじゃなくて、キャベンディッシュの中退ですけれども。

さて、タモリさんは、学業ではなくタレントとして生きていったからよいとして、大学を途中でやめてどうしてキャベンディッシュが学者として業績が残せたか? という問題がございます。

ひとことでいえば「大金持ちだったから」にほかなりません。彼の家は、イギリスの「名誉革命」を起こした超名門、デボンシャー公爵の家なのですね。そしてものすごい資産家です。イギリスの貴族には往々にある話です。あ、そこで興味なくしたアナタ、ちょっとまってくださいませー。

父親も趣味的研究者であり(でも一流の研究者だった)、自宅(というか別荘に)自前で研究室をかまえられたのです。彼は父親の引きで、一種の学会である王立協会で、論文の発表を行います。それも「完成度が完璧」な論文しか出さなかったそうです。寡作な人気作家みたいなものですね(だから違)。

さて、ここからが彼の変人ぶりです。彼は極度の人見知りだったらしいのですな。どれくらいイヤだったかというと、お金持ちですから、使用人もいるわけですが、使用人とは顔をあわせなかった、というのです。食事のリクエストはテーブルに紙に書いておいておき、使用人がセットアップして去ってから食べたのだそうですね。父親と一緒に研究をしていたのだから、まったくの人間嫌いではなかったようですが、超シャイというのが正しいのでしょう。また、彼は徹底していて、うっかり使用人が姿をみせるのが続くと、その人を解雇してしまうくらいだったそうです。

さらに、その料理も基本的に羊の肉しか食べなかったそうです。イギリスの羊男とよばれるくらいですな。生活は質素で、莫大な資産のごく一部を研究と生活に使い、あとはほとんど手つかずだったそうです。ただ、慈善の寄付などはよくしていて、面倒だからと寄付リストの一番高い人と同額にしていたという話も残っております(それをカモられて、ニセのリストを見せられることもあったらしい)。栄誉はのぞまず、贅沢ものぞまず、ただ人に隠れるように好きな科学と最低限の努めは果たしてくらしていたんですなー。

研究会でも、人とほとんど話さなかったそうですな。すごく機嫌がいいと、興味をもったことにたいしてそばにいる人にボソっと話すこともあったようですが、そうすると周囲はキャベンディッシュの言葉を聞き漏らすまいとなったそうなのですね。

イギリスでは、超一流大学の物理の代名詞になっているようなキャベンディッシュ。ニュートンに比肩する科学の巨人ととらえられています。が、日本ではおどろくほど知られていません。なんとなくかっこいい名前ですし、ここまでキャラが立っていたら、ドラマとかになったらおもしろいのになーと思いながら、この話はとりあえずおしまいなのでございます。ごきげんよう。さようなら。

ヘンリー・キャベンディッシュ(Henry Cavendish) (出典:Michigan Technological University Webサイト)

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。