文房具選びには、人それぞれの基準がある。機能性重視の人もいれば、デザイン性重視の人もいるだろう。ちなみに筆者は典型的な後者のタイプで、少々の使い勝手の悪さなら目をつぶることができる。だが、そんなタイプでも譲れないのが消しゴムの消し味だ。これだけはいくら欧米製の優れたデザインであっても、日本製の抜群の消し味には勝てない。欧米製の消しゴムはその用途に疑問を抱きたくなるほど、とにかく消えないのだ。この違いはどこにあるのだろう。今回は日本を代表するロングセラー文房具のひとつ「MONO消しゴム」に焦点をあて、この長年の疑問を解消してみたい。

MONOのはじまりは景品

MONO消しゴムは、昭和42(1967)年にトンボ鉛筆が発売した高級鉛筆「MONO100」(1本100円)に景品として添えられたことに始まる。これが大きな反響を呼び、2年後の昭和44(1969)年に商品として発売された。

滑らかに書けて折れにくい。トンボ鉛筆が誇る高級鉛筆。MONO消しゴムはこのMONO100が発売される際に、1ダース箱に1個景品として付いたのが始まり。「MONO 100」/1ダース1764円

昭和40年代初頭は、塩化ビニルやポリエステル、ポリエチレンといった汎用プラスチックが生まれた時代。このころを境に、タイヤやビニールホースなど天然ゴムで作られたものが汎用プラスチック製に替わっていった。それは消しゴムも同様で、それまでは天然ゴムに硫黄や研磨剤、植物油などを配合して製造されていたが、この時代に日本で塩化ビニルから消しゴムを作る技術が発明された。MONOは塩化ビニル製のプラスチック消しゴムとして初めて市場に出回った商品だった。

現在、MONO消しゴムをはじめとする国産消しゴムの大部分は、塩化ビニル製のプラスチック消しゴムだ。これは塩化ビニルと可塑剤(簡単にいうと油)に熱を加えて固めていき、ほどよい軟らかさの段階で止めて仕上げる。MONO消しゴムの成分と製造方法は、表面にセラミックパウダーをまぶしてベタつき感を解消するなど、消費者の細かなニーズに対応して小さな改良は加えられてきたが、基本的には景品として登場した当時とほぼ変わらないという。

定番のMONO消しゴム。小さな改良をいくつも重ねながら、現在もロングセラーを続ける。消しゴム本体を包んでいるスリーブに注目してほしい。スリーブの角が丸くカットされているのが分かるだろうか。これは消しているときに消しゴムが角に当たり、亀裂の原因になってしまうという指摘から加えられた改良点。こういった細かな配慮に脱帽してしまう。消しゴム「MONO PE」/63円より

消しゴムが消せるわけ

ところで、消しゴムはなぜ鉛筆の字を消せるのだろうか。鉛筆の字を消しているのは、白い部分に当たる塩化ビニルの部分ではなく、実は塩化ビニルに染み込んだ可塑剤のほうなのだ。可塑剤は鉛筆の芯と結びつく力が強いため、掃除機がゴミを吸い取るように、消しゴムの表面が紙の上の芯の粉を吸着している。では、白い部分の役割はというと、芯の粉が付着した面を巻き込みながら消しカスとして剥離し、常に新しい面が出るようにしてくれているのだ。

実は、この塩化ビニル製のプラスチック消しゴムは日本発の技術。欧米では今も昔ながらの天然ゴムを主な素材とする消しゴムが作られ、使われている。冒頭の話に戻るが、日本製の消しゴムと比べて欧米製のそれが驚くほど消えないのは、素材そのものも製造方法も根本的に違うというのがその理由なのだ。これほど性能に差があるのだから、日本製消しゴムはもしかして世界征服をしているのではないかと思ってしまうのだが、意外にも輸出は中国や韓国といったアジア圏止まりで、欧米まではなかなか販路が広がらないのだそう。なんだか少し残念な気がする。

進化し続けるホルダー消しゴム

MONOシリーズのなかで日本ブランドらしい、緻密な仕事が光るのがホルダー消しゴムだ。最初に登場したのが、平成19(2007)年発売の「MONO one」。

ショートタイプのホルダー式消しゴム。しっかり握れるエラストマーグリップ、ストラップ通しの穴や転がり防止のフックなど、小さなボディにはさまざまな仕掛けがついている。ホルダー消しゴム「MONO one」/各157円

長さが約7cm、太さが約1.2cmのショートサイズなのだが、このサイズ感がポイントだ。そもそもMONO oneが開発されたきっかけは、学習塾で見た子どもたちの勉強スタイルにあったという。字を消すとき、彼らはいちいち鉛筆と消しゴムを持ち代えず、鉛筆を握ったまま消しゴムを持って消していた。そこで、鉛筆を握ったままでも持ちやすいフォルムを追求、その結果ショートサイズのホルダー消しゴムに行きついたのだ。確かに四角い消しゴムよりも、MONO oneは長さも太さも調度いいので小回りが利き、消しやすい。

さらに、もう一歩進化したホルダー消しゴムが「MONO zero」だ。消しゴムの太さは、手帳の小さな文字やイラストの髪の毛一本でも消せる極細2.3mm径を実現した。

すっきりとしたフォルムが魅力のzero。先端の形が直径2.3mmの丸型と、2.5×5mmの角型の2種類から選べる。「MONO zero」/各367円

一般的に、ホルダー消しゴムは先端部分に消しゴムを止めるストッパー機構があるため、グリップ周辺が太くなりがちだった。それでは手元が見にくくなり細かい作業ができないという声が多かったことから、MONO zeroはストッパーの機構をおしりに移動。先端部分をすっきりとさせることに成功した。鉛筆で細かい作業をする際には心強い、プロ志向の1本だ。  ほかにも、MONOシリーズには鉛筆やボールペン、修正テープなど多彩なアイテムがそろう。どのアイテムにも熱い開発ストーリーが隠されていて、使う人のことを徹底的に考えた細かな配慮とこだわりが詰まっている。

その他のアイテム

左上:色鉛筆やインクの文字も消せる砂消しゴム。天然ゴムに砂のような粉を混ぜてあり、紙表面の繊維ごとこすり取ることで 、インクの文字も消すことができる。「MONO砂ラバー消しゴム」/105円、右上:塩化ビニルを使わない合成ゴム消しゴム。「MONO NP」/63円より、下:その名のとおり、かるい力で消せるタイプと消しカスがバラバラになりにくいタイプ。子ども目線で使い勝手を考えたシリーズ。「MONO もっとかる〜く消せる消しゴム」/105円、「MONO もっとあつまる消しゴム」/105円

修正テープ

ほっそりとしたボディでスマートに使える新作修正テープ。おしりの部分に専用のテープリムーバーが付いていて、引き過ぎてしまった部分にリムーバーの角を当てゆっくりこすると、紙をいためることなくテープをはがすことができる。テープ幅は5mm、4.2mm、2.5mmの3種類。使い切りタイプ。「MONO ps」/252円

本体の長さ73mmというコンパクトサイズの修正テープ。小さくても手ぶれしないようにヘッド部分が改良されていて、紙にピタッと密着する。ピンク、ブルー、オレンジ、グリーンの全4色展開。使い切りタイプ。「MONO CC5C」/210円

握りやすさを徹底的に追求した高性能モデル。ラバーグリップのペン型でしっかり握ってテープを引くことができる。ワンタッチで詰め替えできるカートリッジも機能的。テープ幅は5mm、4.2mm、2.5mm幅の全3種類。「MONO PXN」/630円

ヘッド部分が上のふたつとは違って横向きになっているのがミソ。手の向きを変えることなく「ヨコ引き」でき、手にフィットする大きめボディなので安定感がある。テープの幅は6mm、5mm、4.2mmの3種類。テープ容量は16m、使い切りタイプ。「MONO YTC」/525円