欧州ではプラグインハイブリッドカー(PHEV)が今後、伸びそうだ。CO2排出規制が強まるからだ。PHEVはコンセントから差し込みプラグを通して直接充電できるハイブリッドカー。ガソリンエンジンよりも電気モーターを主体に走るクルマというべきかもしれない。重量1350kgクラスのクルマが排出するCO2が現在平均130g/kmだが、これを2020年までに95g/kmにしようとする目標である(図1)。

図1 CO2排出を2020年までに現在の130g/kmから95g/kmに削減 (出典:Infineon Technologies)

ドイツのInfineon Technologiesは、欧州の規制に対応することで、カーエレクトロニクス用半導体でトップの座を射止めようとしている。現在トップはルネサス エレクトロニクスで、その市場シェアは14%、Infineonは9%だという(Strategy Analytics社調べ)。Infineonの強みは、パワー半導体(シェア12%で1位:IHS調べ)、チップカード向け半導体(シェア24.1%で1位:IHS調べ)など。自動車用半導体製品が同社売り上げの40%を占めており、パワー半導体はもちろんだが、チップカードビジネスの中でもセキュリティが強いため、これも自動車用に将来活かせる。クルマをもっとセキュアにしたいという要求が強いためだ。

日本市場においても、Infineonは自動車用半導体国内トップ4社(ルネサス、東芝、富士通、サンケン)に続き5位で、3.7%のシェアを持つ。外資系半導体企業ではトップである。日本法人には120名が働いており、品質管理や国内向けの製品定義(プロダクトディフィニション)も行っている。国内に品質をチェックするための検査装置を充実させ、国内で故障解析をできる体制を作っている(図2)。

図2 温度を変えられるICテスタ。Infineon日本法人オフィス内に持つ

同社のクルマへの考え方の中にはCO2削減が強く含まれている。「クリーンなクルマは半導体で達成されるものであり、昨年はCO2を23g/km削減した」とInfineonのElectric Drive Train部門Senior Directorを務めるMark Munzer氏(図3)は言う。これはハイブリッドカーだけではなく、トランスミッション系のマイコンを通しても達成したもの。ICや半導体の消費電力を落とすだけではなく、システム的にもCO2を発生する消費電力を減らそうと狙っている。例えば高速走行している時にはシートの移動コントローラをオフにするなど、小さな省エネ技術もCO2削減に寄与している。

図3 InfineonのElectric Drive Train部門Senior Directorを務めるMark Munzer氏

将来に向けたCO2削減のロードマップを見ると、より多くの半導体を必要とするPHEVやEV(電気自動車)、あるいは燃料電池車など、より多くの半導体を使うクルマが増えていく。PHEVも燃料電池も半導体をこれまで以上に使うからだ。2020年までCO2 95g/km以下という目標は、半導体で達成する訳だが、欧州では「ECE R101」と呼ぶ燃料消費削減ファクタがPHEV向けに数式化されている。これによると、削減ファクタは、次式で表される。

削減ファクタ=(25km+電気走行距離)/25km (ただし、25kmはEUが定めたもの)

Mark Munzer氏は、Sクラスのメルセデスを比較対象として、PHEVと比較してみた(図4)。S500はV8気筒エンジンで435馬力/320kWに対して、同クラスのPHEVはV6エンジンで333馬力/254kWエンジンに80kWのモーターを搭載する。電気走行距離を30kmとすると、上の式の分子に30kmを足して、削減ファクタは2.2となる。S500は210g/kmであり、このままでもPHEVは95g/kmとなる。ここにエンジンも加味して69g/kmと算出している。PHEVの仕様では、100km走行の燃費は3リットル、S500は同12.9リットルとなる。この場合のPHEVは9kWhのバッテリを搭載するとしている。日産のリーフが24kWhだからバッテリ容量はさほど大きくない。

図4 燃料削減の新しいモデル (出典:Infineon Technologies)

ECE R101がPHEVに有利な規制であることに加え、さらに燃費の測定をより現実的にしようという新規格も動き出している(図5)。現在使われ始めたNEDE(New European Driving Cycle)に代わり、WLTC(World harmonized Light vehicle Test Procedures)の検討が始まった。2017年のはじめには規格がWLTCに代わろうという。この規格もPHEV化を推進することになるとする。

図5 クルマの走行距離や運転回数などの評価がNEDCからWLTCへ移行 (出典:Infineon Technologies)

さらに、機能安全(ASIL-A/B/C/D)要求は、Infineonにとってセンサからマイコン、コントローラ、パワー半導体、電源IC などさまざまな自動車用半導体をカバーしているため、成長を加速するという。安全性が最高レベルのDにも十分対応可能だとする。例えばカーブで曲がりながら急ブレーキをかけるといった無茶な運転をする場合でさえ安全性に注意が払われている。不要なトルクが車輪に発生させないようにするため、アクティブにインバータのスイッチを3個オープン、別の3個をショートさせ、永久磁石モーターのトルクに負担をかけないようにする。このための検出用ICやロジックを組む。

PHEVの開発に向けて、PHEVシステムのソリューションから半導体技術まで全体の流れを把握すると、システムコストの最適化がわかるようになるという。規模の経済や標準化、機能の半導体集積化とパワーモジュールがe-mobilityを実現するカギとなるとMunzer氏は見る。機能安全は、PHEVやEV、燃料電池車などすべてのクルマのカギとなる。