今回の選書

気づく仕事(博報堂研究開発局) 集英社

気づく仕事(博報堂研究開発局) 集英社

選書サマリー

博報堂は、総合広告会社であり、様々な業務を手がけている。すべての業務に通底するのは「生活者の欲望を探りあてる」という営みだ。

人は、自分の欲望に気づいていないものだ。その「欲望を発見」することが私たちの仕事だ。

発見を可能にするのが「気づき」という行為だ。私たちは「必要に応じて」、本当は「必要に迫られて」、この「気づき」を繰り返し積み重ねてきた。

つまり、博報堂の仕事の基本は、「気づく」ことにあると言える。それは、ほとんど基本動作になっているものであり、もはやある種の「体質のようなものにさえなっている。

「気づき」はどうやって生まれるのか。ある研究機関が博報堂の打ち合わせを研究した結果、次のような特徴があった。

それは「ほぼ、7割が雑談でできている」ことと「打ち合わせの終わり近くで一気にアイデアの芽吹きがある」ということだ。

もちろん、私たちはそれを「雑談」だとは思っていない。だが、どうやら、私たちのやり方は、他とは違っているのかもしれない。そのことを、第三者から指摘されて、認識するようになった。

「気づき」とは何か。そして、どうすれば「気づく」ことができるのか。

普通、人は固定観念を持ちながら、いろいろなものごとを見ている。それは、常識や単なる思い込み、個々の性格・クセや文化・習慣に起因するものなど、あげればきりがない。

いずれにしろ、私たちは、これまでの経験や価値観に基づいて、ものごとに対して「一通りのとらえ方」をしている。いわば、多種多様な「メガネ」を通して、無意識に世界や対象を見ているのだ。

この固定観念という「メガネ」を自覚して、一度はずし、ものごとの本質を探り当てる。それができるから、新しい発想が得られる。その力こそが「気づき」なのだ。

「気づき」は、ちょっとした「違和感」の発見から始まる。違和感とは「なんか、ひっかかるなあ」とか、「あれ、思ってたのと違うなあ」といった「認識のズレ」のことだ。

この「なんか」がとても大切だ。「なんかって何だろう?」と考え、その違和感の正体を探り当てていく。これは「自分の認識のピントを補正していく」作業だ。

最初はボヤけていたピントが、その「なんか」にしっかり合った時、人は新しい認識を獲得できる。つまり、これまでとは見え方が違う「新しいメガネ」に「かけかえ」たわけだ。

気づきが、違和感、すなわち「認識のズレ」から始まるなら、その発見と解明は、一人よりも多人数で行うほうが生産的だ。なぜなら、何人かが集まれば、それぞれの認識は異なるからだ。

同じものに対しても、人によって違うとらえ方をする。だから、ズレを発見しやすいのだ。

たとえば「三人寄れば文殊の知恵」が、2人ではダメなのか。2人の間の関係は「ひとつ」しかない。つまり、2人での議論からは、認識のズレは「ひとつ」しか生まれないのだ。

こうなると「どちらが正しいか」という「二項対立」に陥りやすい。しかし、3人なら、ズレは「3つ」生じる。これなら「誰かの認識だけが正しい」ということにはなりにくい。

つまり「三人寄れ」ば、優劣を競い合わず「気づき合う関係」が生まれるのだ。これが共同で「気づき」を得ることを可能にする。この関係は、4人なら6つ、5人だと10と増えていく。

多人数になるほど、多様なズレが生まれやすくなる。もちろん、人数さえ増やせば気づけるわけではない。ただ、共同で気づきあう場、「打ち合わせ」こそ、気づきを生み出す上で重要な場なのだ。

選書コメント

博報堂のメンバーによる、ユニークな発想法の本です。広告代理店といえば、発想の達人集団です。そんな達人たちが、どうやって、日々、斬新なアイデアや着想を得ているのかを学びます。

本書を読んで、プロは違うと思いました。集団の英知を活用して、気づきや着想を得られる仕組みが、日常的な「打ち合わせ」として、職場に定着しているのです。

発想法というと、普通はフレームワークを学んだり、環境を整えたりなど、一人の頭を駆使するものが大半です。それに対し、本書は、複数の人間の脳を動員し、共同脳として発想する手法を教えます。

もちろん、漫然と打ち合わせをしているだけでは、せっかくの気づきも逃してしまいます。正しい方法でのアプローチが必要です。それを解説してくれる解説書が本書です。

なお、本書は構成も工夫されています。前半は、背景やメカニズム、考え方の解説、中盤は、事例として、疑似打ち合わせを紹介し、それを中継する形で、解説してくれます。

もちろん、自分の打ち合わせは、事例の通りにはいかないと思いますが、本書の内容を理解する上で、この事例は便利です。

後半は、道具箱と称し、実際に使用する言葉や、姿勢を紹介します。また、気付きを得るモデルを一枚の図解、マンダラとして表現してくれています。手元に置いておくと便利です。

このように、本書は、考え方、事例、具体的な手法の紹介という風に、ビジネス書が必要とする要素をすべて整えています。すぐに、明日の仕事に活かせる、理想的な本だと思います。

企画や商品開発など発想に従事する人はもちろん、発想力を鍛えたいという人、職場で連日行われる打ち合わせを、もう少し実りのあるものにしたいと考える人にお勧めします。

選者紹介

藤井孝一

経営コンサルタント。週末起業フォーラム代表。株式会社アンテレクト代表取締役

1966年千葉県生まれ。株式会社アンテレクト代表取締役。経営者や起業家という枠にとどまらず、ビジネスパーソン全般の知識武装のお手伝いを行うべく、著作やメールマガジン、講演会、DVDなど数々の媒体を活用した情報発信を続けている。著書にベストセラーとなった『週末起業』(筑摩書房)はじめ、『かき氷の魔法』(幻冬舎)、『情報起業』(フォレスト出版)など。

情報提供: ビジネスパーソンの情報サイト「ビジネス選書&サマリー