千葉大学、東京大学(東大)、東京都立大学(都立大)、かずさDNA研究所(かずさDNA研)の4者は10月23日、都市の高温ストレス(ヒートアイランド)によって、「カタバミ」の葉の色が赤く進化し高温耐性を獲得していることを発見したと共同で発表した。
同成果は、千葉大大学院 園芸学研究院の深野祐也准教授、東大大学院 農学生命科学研究科の矢守航准教授、同・内田圭助教、都立大大学院 理学研究科の立木佑弥助教、かずさDNA研 植物ゲノム・遺伝学研究室の白澤健太室長、同・佐藤光彦研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、米国科学振興協会が刊行する「Science」系のオープンアクセスジャーナル「Science Advances」に掲載された。
アスファルトやコンクリートなどの不透水性の地表面は、熱を吸収・発生させる効率が高く、都市部の高温化現象「ヒートアイランド」を引き起こす主要因の1つだ。都市の高温ストレスを最も受けているのが路傍に生える雑草たちで、それらは真夏には地面が50℃を超えるような高温にも耐えて生きている。このような都市の高温ストレスは、都市雑草の高温耐性を進化させている可能性がある。実際、世界中で都市の生物で急速な進化が起きていることが報告されている。しかし、都市の高温が植物を「どう進化させるのか」についてはまだ不明だという。
そこで研究チームは今回、カタバミという世界中の都市にも農地にも生えている植物に注目。カタバミは、通常の緑葉の個体だけでなく真っ赤な葉を持つ個体もおり、種内で葉色の変異がある。そして赤葉は紅葉などとは異なり最初から赤いという。つまり、カタバミの葉色の違いの多くは遺伝的変異といえるとする。
都市部の赤いカタバミの多さから、研究チームは都市の高温に対する適応進化の可能性を考察。そこで、この仮説を生態学・植物生理学・遺伝学アプローチで多角的に検証することにしたという。
東京都市圏の26地点で野外調査が行われた結果、芝生や農地などの緑地に比べ、都市部では赤葉が多いという明確な傾向が確認されたとする。緑葉と赤葉の変化は急激で、公園の芝生と住宅を比べるとたった数十mの距離でも葉の色が大きく変わっていたとした。
次に、都市-赤葉、緑地-緑葉というパターンが、高温ストレスという選択圧によって生じたのかが調べられた。赤葉の進化が高温ストレスによるものであれば、高温環境では赤葉の方が有利になる(光合成、成長、種子生産が良くなる)はずだ。逆に、通常の栽培環境(25℃)では、緑葉の方が有利になるはずだという。
そこで、都市を模したレンガ圃場、温室、人工気象装置での栽培実験や葉の光合成活性の測定など、さまざまな手法でその予測の検証が行われた。すると、どの実験でも予測を支持する結果が得られたという。つまり、高温下(35℃)では緑葉よりも赤葉の方が、高い光合成活性を示し成長が良かったとした。それに対し、通常の気温では赤葉よりも緑葉の方が、高い光合成活性を示し成長が良かったとする。これは、都市の高温ストレスによって、都市で赤葉を進化したことを強く示唆するとした。
さらに、都市の赤葉の進化プロセスが、集団遺伝学的手法によって推定された。東京都市圏の都市と緑地のカタバミ136個体を対象に、ゲノムワイドな一塩基多型を分析することで、集団の進化の歴史が推定された。すると、赤葉は一度だけ進化して東京中に広まったわけではなく、さまざまな場所で緑葉から赤葉への進化が何度も起こったことが示唆されたとした。
最後に、この進化の普遍性が検証された。もし都市の高温ストレスがカタバミを赤く進化させるなら、世界中の都市でも同じようなパターンが観察されるはずである。世界的な市民観察プラットフォームであり、観察データがオープンに利用できる「iNaturalist」のデータベースを使って検証が行われた。世界中からアップロードされた9561枚のカタバミ画像が分析されたところ、予測通り都市部のカタバミは赤葉の割合が高いことが判明した。
以上の結果から、都市の高温ストレスによってカタバミの葉の色が赤く進化し高温耐性を獲得していることが示されているとした。
今回の研究のように、都市の高温環境で起きる急速な進化を解明することで、今後、温暖化が進んだ世界の生物の動態を予測し、うまく対処することにつなげられる可能性があるという。また、高温適応に関わる遺伝子が解明されることで、将来の高温下で行われる農産物の開発に役立つことも期待されるとした。
現在、かずさDNA研を中心に、市民参加型のオープンサイエンス「みんなでカタバミプロジェクト」で赤葉の進化の遺伝的背景の調査が進行中だ。研究チームは今後、都市の雑草で起きている高温適応を、さまざまな専門を持つ研究者と市民のチカラで解明したいと考えているとした。