米国航空宇宙局(NASA)とボーイングは2022年6月24日、有人月探査を目指して開発中のロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」の、打ち上げリハーサルを完了したと発表した。

これにより、初の試験飛行に向け一歩前進。打ち上げは今年8月以降に予定されている。

  • ウェット・ドレス・リハーサルのため、射点に立つSLS

    ウェット・ドレス・リハーサルのため、射点に立つSLS (C) NASA/Ben Smegelsky

SLSのウェット・ドレス・リハーサル

SLSは、NASAとボーイングが開発している新型の巨大ロケットである。全長は約111.3m、直径は8.4mで、22階建てのビルに相当する大きさをもち、地球低軌道に約100t、月へ向けては約30tもの打ち上げ能力を誇る。

この打ち上げ能力を生かして、アポロ計画以来、約半世紀ぶりとなる有人月探査計画「アルテミス」の実現や、月周回有人拠点「ゲートウェイ(Getaway)」の建設、そして2030年代に予定されている有人火星探査の実現を目指している。

開発は2011年から始まり、当初は2018年ごろに無人での試験飛行を行う予定だったが、予算や技術的な問題、災害による開発拠点の損傷、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響などでスケジュールは遅れ続けている。だが、ようやく機体が完成し、「ウェット・ドレス・リハーサル」に臨むことになった。

このリハーサルは、地上から飛び立たないこと以外は実際と同じ手順で行う打ち上げ準備試験のことで、ロケットや宇宙船、打ち上げ施設はすべて実際の打ち上げと同じ状態に置かれ、作動される。まさに打ち上げに向けた最後の関門となる。

NASAとボーイングは当初、今年4月にリハーサルに臨んだが、トラブルにより中止。修理のため、いったんロケット組立棟に戻されることになり、仕切り直しての再挑戦となった。

  • 射点に立つSLS

    射点に立つSLS (C) NASA/Ben Smegelsky

そして6月20日にリハーサルがスタート。ロケットのタンクに実際に推進剤を充填し、打ち上げのカウントダウン作業、自動カウントダウン装置への切り替え、そしてタンクからの推進剤の排出など、実際の打ち上げで経験する一連の動作が試験、確認された。

リハーサルはおおむね順調に進んだものの、エンジン点火に向けて圧力を上げる際、液体水素の漏れが発覚。当初はエンジン点火の9.3秒前までカウントを行う計画だったが、安全装置が働き、29秒前で自動でストップした。

ただ、それ以外には大きな問題はなく、運用チームはおおむねすべての作業を実施。さらに、これまでのリハーサルではできなかった、カウントダウン終了後の通常の手順として、ロケットのセーフティ化、つまり安全化と、次に打ち上げるための再設定のための一連の作業も実施できた。

また、当初はターミナル・カウントダウンと呼ばれる、打ち上げの最終段階のリハーサルを複数回行うことを計画していたものの、これまでの作業やシミュレーションでの経験を踏まえ、1回のみで済ませることにしたという。また、エンジン始動前のカウントダウンの残り数秒間で起こりうるいくつかのコマンドについても、すでに他の試験で検証済みと判断され、省略された。

その後、NASAとボーイングは得られたデータを分析。そして6月24日、リハーサルは完了したと宣言された。

記者会見に登壇したNASAのTom Whitmeyer氏は、「リハーサルを経て、私たちはロケットと地上システムがどのように連動して動くかについて知識を増やし、運用チームは打ち上げ手順を熟知しました。リハーサルを終え、学んだことはすべて、打ち上げに向けた能力向上に役立つでしょう」と話す。

「チームはいま、次のステップへ進み、いよいよ打ち上げの準備を行うことになります」。

また、ケネディ宇宙センターでアルテミス打ち上げ責任者を務めるCharlie Blackwell-Thompson氏は、「私たちアルテミス打ち上げチームは、この巨大なロケットに推進剤を充填するという複雑な作業に適応するために迅速に作業してきました。そして、それぞれのマイルストーン、それぞれのテストをこなし、打ち上げにまた一歩近づいたのです」と語った。

  • SLSと、同機が目指す月

    SLSと、SLSで打ち上げられる宇宙線オリオンが目指す月 (C) NASA/Ben Smegelsky

アルテミスIの打ち上げは8月末以降

SLSはこのあと組立棟に戻され、各種整備のほか、リハーサル中に起きた液体水素の漏れに対処するため、部品の交換が行われる予定となっている。そして打ち上げに向けた準備を整えたのち、8月下旬にも射点に送られることになっている。

打ち上げ日については、部品交換後に設定、発表するとしている。

アルテミスIでは、無人の「オリオン(オライオン)」宇宙船や超小型衛星を載せて月へ向けて打ち上げる。オリオンは月の周回軌道に入り、約3週間ほど滞在したのち地球へ帰還する。

ミッションが無事成功すれば、2024年以降には「アルテミスII」を実施。オリオンに宇宙飛行士が乗り、SLSで月へ向かって飛行したのち、月の裏側を回って地球へ帰還する。

そして2025年以降、「アルテミスIII」ミッションにより、4人の宇宙飛行士が乗ったオリオンをSLSで打ち上げ。アポロ計画以来となる有人月着陸、そして探査が行われることになる。

  • 飛翔するSLSの想像図

    飛翔するSLSの想像図 (C) NASA

参考文献

NASA Completes Wet Dress Rehearsal, Moves Forward Toward Launch | NASA
Space Launch System | NASA