アンシス・ジャパンは10月4日、都内で年次イベントである「ANSYS INNOVATION FORUM 2019」を開催。併せて、本社ANSYSのCTOであるプリス・バナジー氏が同社の戦略である「シミュレーションの活用拡大」に向けて取り組んでいる8つの長期的テクノロジーの戦略についての説明を行った。

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    2018年にANSYSのCTOに就任したプリス・バナジー氏

現在、多くのものづくり産業において、さまざまな角度からデジタル化が進んでいる。自動車ではCASEに代表されるような動きが起きているほか、設備産業ではIIoTの活用と、その先にあるデジタル・ツインの実現に向けたセンサとネットワークの活用、製造業における3Dプリンタを用いたアディティブマニュファクチャリングの活用などが挙げられるが、そうしたトレンドを支援するためにANSYSでは、今後5年間で求められると考えられる技術を8つに分けて、研究開発を進めているという。

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    ANSYSが掲げている8つの5年先の未来に必要となるテクノロジー (資料提供:ANSYS)

その1つ目の取り組みは、シミュレーションをAI(人工知能)に実行させようというもの。従来の有限要素法や数理モデルをベースとした手法ではなく、機械学習を活用して、そうしたデータを教師データ活用することで、AIが自律的に最適なシミュレーション結果を導き出すことを可能にしようというものになるという。

2つ目の取り組みはマルチフィジックスのシミュレーションのさらなる活用。すでに同社はANSYS 2019 R3にて、Arasのレジリエントプラットフォームを搭載した「ANSYS Minerva」をリリースしているが、これを活用することで、ユーザーはすべてのシミュレーションデータとプロセスデータを一括して確認したり管理することができるようになる。同氏は「パラメータを活用して、設計を行うことが容易になり、最適な設計を導き出すことが可能となる」としており、オープンプラットフォームという特性を活かすことで、「将来的には、他社のものも含め、すべてのソフトが使えるようになることも考えている」とする。

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    ANSYS Minervaが提供する機能の概要 (資料提供:ANSYS)

3つ目の取り組みがハイパースケールシミュレーション。GPUの活用から、共有メモリ型システム(SMP)、メッセージパッシングインタフェース(MPI)など、さまざまな粒度に対してさまざまな取り組みが考えられるが、こうしたクラウド上で展開される大規模並列演算処理を活用することで、「これまで1000時間かかっていたシミュレーションを1時間で終わらせることも可能になる」としており、今後もさらなる演算処理の高速化に向け、量子コンピュータの活用なども検討を進めているとする。

4つ目は予測/ロバスト設計という考え方。シミュレーション技術が発達していなかった時代、巨大な建造物を築くにあたっては、安全性を確保するために必要以上に高品質な素材を必要以上に建材としてしようするといったことも多かった。しかし、シミュレーションが活用できる現代、最適なものを最低限必要な形で計算できるようになったが、それでも用いたパラメータどおりの材料が常に使われるとは限らない。そうした素材の特性にバラつきがあった場合、シミュレーション上では出せない不具合を発生させる可能性がでてくる。同社の考えるロバストな考え方は、こうしたことが起こりうる、という前提をもとにシミュレーションを活用し、設計を行うことを可能にしようというものだという。

5つ目はデジタルツインの活用。デジタルとリアルの融合という取り組みは世界的に広がりを見せているが、同社ではシミュレーションの分野で活用することを目指しており、それにより例えばエンジニアがARメガネをかけて、現実世界を見ながら、そこにARとして付与すべきものを表示させ、デジタルとリアルをシームレスに繋ぎ合わせて作業を行う、といったことを可能にすることを考えていると言う。

6つ目はデジタル・トランスフォーメーション(DX)のサポート。何かモノを設計する際には、いまや多数のシミュレーションを実行する必要があるが、今後はそのデータがその後、どこで活用されるのか、といったデジタルトラッキングなどが求められるようになってくる。そうしたDXとシミュレーションを組み合わせた、シミュレーション主導によるエンジニアリング成果の提供などを目指すとしている。

7つ目が従来とは異なる分野での計算手法の考案。これまでも流体、電磁界、光学などさまざまな分野でのシミュレーションの実現に向け、自社で開発を進めてきたほか、不足しているところは積極的な企業買収で補完を行ってきた同社だが、それでもまだ不足している領域が多々あるという。「CTOの仕事はシミュレーションをさまざまな分野で活用して、人々の生活を支援するためにはどうすれば良いかを考え、行動すること」(同)であり、そのためには、これまで同社が踏み込んでこなかった化学や生物学、生体組織などといったヘルスケア領域に関するシミュレーション技術の確立であったり、新素材や3D ICといった新たなテクノロジー領域への対応などを行っていく必要があるとする。

そして8つ目が、どのようにすればシミュレーションが破壊的な技術となれるのか、ということを考えているとする。「現時点でシリコンバレーに多々あるスタートアップの中で、ANSYSの存在を脅かそうという企業はなく、この実現にはまだまだ遠い道のりを越えていかなければいけない。しかし、我々はさまざまなテクノロジーの可能性を考えており、これまで述べた7つの取り組みなどを融合していくなどで、それが実現できると思っている」とする。

また、こうした技術要求が高い分野の1つに自動車産業があるという。「特に完全自動運転の実現には、非常に多くの距離を走って、走行データを取得する必要性があると言われている。また、ユーザーニーズの細分化により、1車種あたりでもカラーバリエーションやオプションなどが多岐にわたり、それらすべてを実機試験で妥当性の確認を行うには膨大な時間とコストが必要となる。そうしたニーズにシミュレーションで解決できるようにするのが、我々の役目。BMWとさまざまな面でパートナーシップを組んで、自動車の開発を行っているが、日本の顧客とも、特に自動運転分野でさまざまな連携ができればと思っている」と、すでに同社のパートナーとなっている日本のOEMメーカーとも、自動運転技術のさらなる発展に向けて、より一層のパートナーシップを模索していきたいとしていた。

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  • 自動車分野におけるANSYSのシミュレーションツールの対応状況。さまざまな方面からさまざまな開発ニーズに対応することができているとする (資料提供:ANSYS)

「ANSYSとしては、顧客とのパートナーシップ、幅広いソリューションの提供、そしてあらゆる分野をカバーするソルバといった3つの角度の取り組みを強固に進めていくことで、顧客に新たな価値を提供することを目指している。我々は常にオープンスタンスを標榜しており、必要とされれば、パートナーとしてその課題の解決に向けた準備を進めている。今回の8つのテクノロジーに対する長期的な視点は、最終的に顧客がエンドユーザーに提供する最終製品を実現するためのソリューションに向けた考え方。こうした技術を活用してもらうことで、顧客は自分たちが掲げた要件に沿った製品を高いレベルで実現し、それがユーザーの体験の変化を生み出す(モノのサービス化)ことにつながると信じている」と同氏は、CTOの立場として、最終的に顧客が自分たちの価値を高めるために必要となるものを常に考え、開発していくという姿勢を強調。そのために必要な選ばれるパートナーとなるべく自社の価値向上に向けた技術開発を推進していくとしていた。

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    ANSYSの提供する価値は1つだけではなく、3つの方向性を組み合わせたものとなるという (資料提供:ANSYS)