米中貿易戦争の影響により、中国は国内におけるIC生産計画の拡大を余儀なくされているが、中国はその計画通りにICの生産を実現することは不可能との見解をIC Insightsが発表した。

中国では、米国との関税と貿易の緊張を受けて、米国企業やその他の国の企業から供給される重要なIC部品への依存を減らすために、中国全土の政府関係者と会社の代表が国内でのIC生産を早急に拡大させる決意を新たにしたと報じられている。

特にメモリIC市場では、最近複数のメディアが、中国のメモリ製造は破竹の勢いで始まろうとしており、近いうちに、生産量と技術レベル両面で、Samsung、SK Hynix、Micronの3大ベンダに匹敵するようになると伝えているが、そのような報道の情報を鵜呑みにするのではなく、自身で現実をきちんと調査する必要があるとIC Insightsは指摘している。

この数年、中国では、2つの地元資本によるDRAM量産工場の建設が計画されていたが、その片方であるJHICCは米国政府の米国製製造装置輸出規制により生産凍結に追い込まれてしまった。しかし、もう一方のDRAMサプライヤであるChangxin Memory Technologies(CXMT、以前はInnotron Memoryと呼ばれていたが社名を変更した)には今のところ規制が及んでおらず、2019年末までにその最初のDRAM製品のサンプル出荷が行われると伝えられている。

この動きに対しIC Insightsは、「この会社では数千人の従業員が働いており、年間約15億ドルの設備投資予算を持っている。これとは対照的に、MicronとSK Hynixはそれぞれ3万人以上の従業員を擁し、Samsungのメモリ部門は4万人以上と推定されている。さらに、2018年のSamsung、SK Hynix、Micronの設備投資総額は462億ドルだった。従業員数、設備投資額ともにあまりに差がありすぎる。これが現実の姿である」と指摘している。

2018年の中国IC市場は1,551億ドル規模で、そのうち半導体メモリ(DRAMとNANDを中心とするフラッシュメモリ)は全体の41%を占めた。「一部の報道では、中国のウェハファブの生産量は急速に増加しており、その技術力は、とりわけメモリ分野では場合によっては3〜5年以内に世界の大手サプライヤに追いつくといわんばかりであるとしているが、こうした報道には同意できない」とIC Insightsは主張している。

また、中国がメモリ製造のためのインフラ整備に多大な投資を続け、潜在的な特許紛争を回避するためにいくつかの独自設計によるメモリを開発してきたのは事実であるが、今後10年間で自国資本による競争力あるメモリ産業を発展させることができるのか、はたまた自国のメモリニーズをかなり満たすところまで発展させられるかに関しては、IC Insightsは極めて懐疑的であると述べている。

具体的には、「多くの中国関係者は、中国が自国のICニーズをみたすために自国での生産にさらに依存するようになるという、いわゆる自給自足体制に関して過大視しているようであるが、これを成し遂げるには多くの課題がある。そのうちの主要な課題の1つは中国独自の非メモリIC技術の欠如である」としている。現在、中国には、大手のアナログ、ミクスドシグナル、サーバMPU、MCU、または特殊用途のロジックICメーカーは見当たらないし、2018年の中国IC市場の過半を占めるこれらの製品セグメントのプレイヤーの大半は数十年の経験と何千人もの従業員を擁する経験豊富な外国企業が占めているためである。

IC Insightsでは、中国企業が非メモリIC製品分野で競争力を持てるようになるには数十年かかるという見方を示している。現在多くの関係者が、中国におけるメモリ市場の動きに注目しているが、非メモリIC分野で自給自足することは中国にとって、メモリ以上に困難な問題を投げかけることになるという。

  • 中国半導体

    中国の半導体市場規模(単位:10億ドル)と中国での半導体生産額(単位:10億ドル)。中国での半導体生産額には外国企業による中国国内での生産額を含む (出所:IC Insights)

中国におけるIC市場の売上高と生産額を比較すると、2018年のIC市場の規模(外国企業および中国企業による中国市場でのIC売上高総額)は1,550億ドルだったが、そのうち240億ドル(全体の15.5%)だけが中国国内で製造されたものである。しかも、そのうち、中国国内に本社を置く企業(中国企業)は65億ドル(240憶ドルの27.1%)しか生産しておらず、これは中国IC市場全体の4.2%に過ぎない。これはTSMC、SK Hynix、Samsung、Intelはじめ中国国内にICウェハ製造工場を有する外資系企業が残りを生産したことを意味している。IC Insightsは、中国を拠点とする企業が製造した65億ドルのICのうち、約10億ドルがIDM、55億ドルがSMICなどのファウンドリからのものであると推測している。

IC Insightsは中国内でのIC生産量が2023年に452億ドルに増加すると予測しているが、これが正しかったとしても、同国内におけるIC生産額の規模は、世界全体の8.4%(2023年の市場予想額は5388億ドル)にしか過ぎない。中国内のファウンドリとファブレスを足し合わせてかさ上げした場合でも、中国企業ベースのIC生産は世界市場の約10%ほどにしかならないという。

  • 世界のIC市場規模:4217億ドル(2018年)
  • 中国のIC市場規模:1551億ドル(2018年)

  • 中国国内におけるIC生産額:240億ドル(2018年)

  • 世界のIC市場に占める割合:5.7%

  • 中国のIC市場に占める割合:15.5%

  • 中国資本の企業によるIC生産額:65億ドル

  • 中国全体のIC生産量に占める割合:27.1%

  • 世界IC市場に占める割合:1.5%

  • 中国IC市場に占める割合:4.2%

確かに現在、中国は将来のIC産業の能力向上に向けて注力している。しかし、今日の中国企業のIC生産規模や技術レベルを考えると、中国が自国のICニーズを満たすレベルに自給自足できる体制を整えるには、今後5年はおろか、おそらく10年という期間では不可能であるとIC Insightsは判断している。