半導体市場動向調査会社の仏Yole Developpementは9月9日に発行する予定の「IGBTマーケット&テクノロジー・トレンド2017」と題したレポートの概要を8月31日(欧州時間)に発表し、その中で、世界のIGBT市場は2016年に30億ドルをやや超える規模だったものが、車載関係を中心に成長を続け、2022年までに50億ドルを超えるまでに成長する見通しであり、そのうちの4割(20億ドル)を電気自動車(EV)およびHEV(ハイブリッド車)向けが占めるとの予測を明らかにした。

図1 応用分野別IGBT売上高の推移予測(2016年は実績、2017年~2022年は予測) (単位:10億ドル)。赤色:EV/HEV、橙色:モーター、緑色:その他 (出所:Yole Developpement)

EV/HEV分野は最も有望な成長分野

Yoleのパワーエレクトロニクス技術および市場調査アナリストのAna Villamor氏は、「IGBT業界は、主な市場である自動車、特に電気自動車(EV)/ハイブリッド車(HEV)におけるパワートレインの電動化によってもたらされるパワーエレクトロニクスの成長パターンにしたがうことになるだろう」としている。EV/HEV分野は、未だに新興市場であり、将来、巨大市場に成長する可能性を秘めているためだ。

また、自動車とならぶIGBTの大きな応用分野として、モータードライブ市場がある。Yoleでは、2016年から2022年までのモータードライブ向けレギュレータの年平均成長率を4.6%と予測しており、中でも太陽光発電と風力発電は成長が著しい市場であるとする。2016年、中国が総出力350GWの太陽電池を設置するなど、注目に値する動きを見せているためだ。

IGBTは次世代パワー半導体に置き換わるのか?

現在、パワー半導体は、SiからSiCやGaNといったワイドバンドギャップの化合物半導体に注目が移りつつある。例えばYoleでも自動車市場においてSiCがSiからその役目を引き継ぐ可能性が高いとしている。しかし、IGBTがパワーエレクトロニクス業界で大きな市場を形成していることから、SiからSiCに完全に置き換わることはないだろうともしている。

実際、IGBTがすでに技術的な限界に近づいてしまっているとしても、新しい構造や新しい材料を採用することで、システムとしての性能を向上させ、SiCやGaNなどのワイドバンドギャップ半導体の登場に対抗することができている。今後数年にわたって、独Infineon Technologies、富士電機、スイスABBといったメーカーが新たな構造のIGBTが市場に投入する予定であるほか、寄生容量を減らし、システム効率を向上させるために、パッケージの改良を進めているメーカーもある。例えば、個別のIGBTやそのモールド化に組込技術を導入することで、IGBTモジュールのサイズを縮小したり、機能密度を高めたりしている。Yoleでも、2025年ごろには、スーパージャンクションIGBTやSiC基板を用いたIGBTが登場するだろうと予測している。

図2 今後2025年に向けて先進IGBTメーカーが導入予定の新技術や新構造 (出所:Yole Developpement)

こうした取り組みの結果、IGBTメーカーは400Vから6.5kVまでの幅広い電圧範囲を製品ポートフォリオとして持つに至っている。しかし、IGBTは成熟した技術であり、自社製品の付加価値を高めるものとして、多くの企業が参入している結果、サプライチェーンが確立されており、一定の収益を上げることができているが、2016年末にON SemiconductorがFairchild Semiconductorを買収したほか、回路保護部品メーカーである米LittelfuseがIGBTを得意とするパワー半導体メーカーの米IXYSを2017年8月末に買収することを発表するなど、企業買収が徐々にだが始まるなど、業界に動きが生じようとしている。

低電圧はON Semi、中電圧は1Infineon、高電圧は三菱がトップ

パワー半導体市場全体ではInfineonが、Si、SiC、GaNのパワーデバイスやICのすべてを扱い、全方位で技術開発を行うことでリードしている。世界市場のシェアも27%と2位のON Semiconductorが(合併したFairchild分をあわせても)9%台であることを考えると、倍以上の差があると言え、現状、車載用パワー半導体市場での技術や製品の潮流を決める存在になっているといえる。

ただし、IGBTに限ってみた場合、InfineonはIGBTの主流である中間電圧範囲(600V~1.7kV)でトップの座にあるが、低電圧範囲(400V以下)ではON Semiconductorが、2.5kV以上の高電圧分野では三菱電機がそれぞれトップを獲得している。また、低電圧分野では、サンケン電気や米Microchip Technologyなどが強みを発揮しているほか、東芝やロームがランクインしている一方、4.5kV以上の高電圧クラスでは、5位に世界最大の鉄道車両メーカーである中国国有企業の中国中車(CRRC)がランクインするなど、違いが鮮明である。中国中車の子会社である電気機器メーカーの株洲中車時代電気がIGBT専用8インチ(200mm)ラインを有し、各種車両向けにIGBTを製造している。2.5kVから6.5kVまでのIGBTモジュールは、中国の高速鉄道や電気機関車はじめ、さまざまな種類の鉄道車両に盛んに採用されており、大きな需要を生んでいるという。

図3 耐電圧クラス別IGBTサプライヤの売上高ランキング。主流の中電圧分野はInfinionがトップだが、低電圧はON Semiconductor、高電圧は三菱電機がトップ。富士電機、日立、東芝、ロームなど日本勢も善戦している (出所:Yole Developpement)