大阪大学(阪大)と中外製薬は5月19日、同大学の免疫学フロンティア研究センター(IFReC)と中外製薬による免疫学研究活動に関する包括連携契約を締結したことを発表した。

同契約により中外製薬は、2017年4月から2027年3月までの10年間にわたり、年間10億円の資金をIFReCに提供することで、IFReCが取り組む自主研究テーマに関する成果の情報開示を受けるとともに、共同研究に関する第一選択権を取得する。

IFReCは、免疫学の世界的権威である審良静男教授を拠点長とした、免疫学や生体イメージング、バイオインフォマティクス分野の研究機関であり、制御性T細胞の発見者である坂口志文教授をはじめ約180名の研究者が在籍している。2007年10月に、文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」に採択され発足したIFReCだが、2016年度で同プログラムが終了することを受けて、昨年2月に、IFReC側から同契約に関する話を中外製薬に持ちかけたという。WPIからIFReCへは現在、年間13億円の補助金が提供されているが、2017年度からは中外製薬からの資金でこれを補う形となる。

大阪大学総長 西尾章治郎氏

大阪大学総長西尾章治郎氏は、「過去にも大学と民間企業との連携は数多くあったが、それらの多くは企業からの特定分野への研究費委託によって大学の研究を進めるという形態をとっていた。しかし今回の包括連携契約は、従来の共同研究や寄付支援とは異なり、本学が提案する新しい産学連携形式となる。基礎研究段階から研究資金の提供を受けることで、長期的視野で基盤研究の推進を図り、産学連携を強化するもの」であるとしている。

寄付支援では、継続的に多額の資金を受け入れることが困難である一方、企業との受託研究や共同研究は、どうしても応用寄りの内容になってしまうため、研究者の自由な発想ベースで行うことができないという課題があった。同契約は、寄付支援と共同研究の相互のメリットを併せ持つ仕組みであるといえる。

中外製薬 代表取締役会長 最高経営責任者 永山治氏

中外製薬は、バイオ・抗体医薬品の創薬において強みがあり、2005年には国産初の抗体医薬品「アクテムラ」の開発に成功している。もともと免疫学系の基礎研究に対する理解があり、大阪大学はこれまでにも同社との共同研究を行ってきたというが、今回、同大学が提携先として同社を選んだのは、「IFReCの研究成果を正しく評価していること」「革新的な創薬技術に長けており実績があること」「海外連携の素地があること」が決め手だったという。

一方、中外製薬 代表取締役会長 最高経営責任者 永山治氏は、「抗体医薬の数は200~300程度あるが、それに対応する抗原の数は40前後という状況。競争が厳しい創薬業界においては、今までにない画期的な医薬品を作っていかなければならない。今回の契約で、新しい抗原、新しいシーズを獲得し、薬に変えていくことが我々の使命」であると今回の契約の意義について語っている。

同契約においては、年2回、IFReCが取り組む研究テーマについて成果の開示を中外製薬へ行い、中外製薬はこのなかから共同研究に進めるテーマを選択。ここで選ばれたテーマについて、IFReC内に設置される予定の「連携推進ラボ」で双方の研究者が共同研究を実施する。非臨床研究後期以降は、中外製薬が単独プロジェクトなどの研究開発を実施していく。常時5~10件の共同研究を推進している状態にしていくことが両者の目標だ。

なお、中外製薬との共同研究に至らなかったテーマは、他の企業との展開も可能なため、大阪大学は他社との契約も視野にいれているという。

左から、中外製薬 代表取締役会長 最高経営責任者 永山治氏、iFReC 拠点長 審良静男氏、大阪大学 総長 西尾章治郎氏