東京医科大学と工学院大学は4月21日、治療や診断における患者の身体的な負担を軽減する低侵襲な治療方法や診断装置の開発に特化した共同研究事業を開始することで合意した。

東京医科大学は手術ロボット「ダヴィンチ」を早期に導入するなど、低侵襲医療を従来から推進してきたが、今後、さらに検査や診断、手術などの治療まであらゆる局面での低侵襲化を進めることを目指して2016年4月に「低侵襲医療開発総合センター」を開設するなど、取り組みを強化している。今回の共同研究事業は、同センターに設置されている部門の1つである「ロボット・診断治療装置開発部門」を受け皿とし進められる予定。また、同センターのもう1つの部門である「健康増進・先制医療応用部門」では、主に唾液をメタボローム解析することで、超早期のがん発見を実現する技術などの開発と臨床応用に向けた研究がすすめられている。

東京医科大学学長の鈴木衞氏は、今回の取り組みについて、「創立100周年の今年、我々らしい研究を進めたいと思い、そのための組織を立ち上げた。大まかなテーマを低侵襲としたが、工学系の専門家と共同研究を行う必要があるとして、従来より連携してきた工学院大学と連携して、我々からテーマを提出し、研究テーマのマッチングを図った」と説明。「今後、2つの大学の力を合わせることで、3年をめどに何らかの成果が生まれてくることを期待している」と、今後の医学と工学の双方向からの研究を進め、患者にやさしい診断治療を実現できる成果が生み出されることへの期待を示した。

一方、工学院大学学長の佐藤光史氏も、「今回の共同研究事業に参加させてもらえたことに感謝している。工学院大学の建学の精神は社会産業と最先端の学問を幅広く結ぶ工(エンジニア)の精神で、医学の分野にも大きく貢献できると期待している。これからスタートとなるが、多くの支援のもと、研究が活性化することを期待したい」と述べ、工学院大学としてもエンジニアという観点から積極的に取り組んでいく姿勢を強調した。

具体的には、以下の7つの共同研究テーマが3年をめどに進められていくこととなる。

  1. 新規人工股関節シミュレータの開発
  2. ブレインコンピュータインタフェース(BCI)を用いた認知症の早期診断
  3. 経口的手術用リトラクターにおける低圧舌圧子の開発研究
  4. 侵襲なく耳小骨病変を診断する新検査機器の開発
  5. リキッドバイオプシーによる低侵襲診断システムの開発
  6. 肺がんのバイオマーカーによる悪性度評価と次世代低侵襲治療
  7. 放射線治療における高精度体位位置決め法の開発

これらは低侵襲というテーマの下、さまざまな医療分野と機械工学や映像工学など幅広い工学が密接に関わっていく研究ばかりであり、その密接さが研究の成果を高めることに結びつくことになる。そのため、今後はグループごとに研究や開発を進めながら、日々進化する工学技術の動向や臨床医学の現場の状況やそこで生じる課題なども交えて全体での情報共有を図っていくことで、低侵襲医療化の発展を目指していきたいとしている。

合意書を取り交わす東京医科大学学長の鈴木衞氏(左)と工学院大学学長の佐藤光史氏(右)

左から東京医科大学副学長の池田德彦氏、東京医科大学学長の鈴木衞氏、工学院大学学長の佐藤光史氏、工学院大学副学長の鷹野一朗氏