BLEビーコンを活用した屋内位置情報サービス

富士通では、クラウドベースの位置情報サービス「SPATIOWL」を以前から提供してきた。車両に搭載されたプローブや、各種センサー、施設情報に、外部から提供される天候情報や電車運行情報といったものを組み合わせて解析・分析を行うサービスだ。この「SPATIOWL」ブランドに新たに加わったのが、店舗内の同線データを活用して来店客満足度の向上を目指す「SPATIOWL 人流分析サービス」だ。

「いろいろなセンサーからの情報取得にSPATIOWLは対応していますが、人流分析サービスでは店舗入口に設置したKinectで人の出入りを、名刺大のビーコンカードで店舗内の動線を確認できます」と語るのは、富士通 イノベーションビジネス本部 テレマティクスサービス統括部 マネージャーの畑瀬勉氏だ。

富士通 イノベーションビジネス本部 テレマティクスサービス統括部 マネージャーの畑瀬勉氏

動線解析に使うのはBluetoothビーコンで、名刺大のカードを店員の動きを見たいのならば名札ケースの裏等に、買い物客の動きを見たいならば買い物籠に取り付けるイメージだ。

ビーコン利用のイメージ

「Bluetoothビーコンは受信機が安価で、導入が容易です。BLEビーコンが広がってきているため、今後ビーコン価格の低下も見込めます。位置情報の精度は受信機の設置密度次第ですが、一般に5~10mに設置するケースが多いですね。1mごとに並べれば当然詳細なデータは取得できますが、コストとの兼ね合いになります。複数の受信機で受信した電波の強度から細かな位置を割り出す方式は採用しておらず、最も近い受信機を特定するのみにしています」と畑瀬氏は語る。

Bluetoothビーコンの種類は限定しておらず、もしすでに手持ちのものがあれば再利用することも可能だという。また「SPATIOWL」ではすでにさまざまなセンサーを扱ってきているため、他のセンサー類を活用したいという要望があれば個別に相談は可能だ。

店舗内の買い回り動線や出入りを把握

基本的な使い方としては、売場のブロックごとに受信機を設置し、人の流れをビーコンのIDで追いかける。スーパーマーケットならば、野菜売場を見た後に肉売場にしばらく留まった人がこれだけいて、肉売場は通りすぎるだけで魚売場に立ち止まっていた人がこれだけ、特設の催事スペースに立ち寄った人の比率はどの程度、というような見方になる。

「設定次第ですが、センサーの能力的には1秒ごとのデータ取得も可能です。蓄積したデータを後で分析すれば、どのIDが、どの受信機の近くに、どれだけいたのかがわかります。1つの受信機で、実験では100人以上のデータを取得できていますから、店舗内の動線把握には十分な能力です」と畑瀬氏。蓄積したデータと受信機を配置した店内図をあわせれば、人が動く流れをマップ上で確認することもできる。

入口に設置するKinectでは、非常に近い位置関係で出入りした1組を1人とカウントしてしまう可能性はあるが、1カ所の設置で流入出の数字は十分にわかる。天候や交通状況といったデータと組み合わせて周辺状況と来店数の変化を知りたいといった場合や、イベント時と平常時の来店数変化を見たい場合には便利そうだ。

「すでに実証実験として駅ナカやスポーツジム、スーパーなどで導入されています。また、サービス化する以前にも展示会等での実験を行ってきた実績があります」と畑瀬氏は語った。

店舗側の需要としては、買い回り動線を確認して棚の配置を改善するといった使い方が考えられる。しかし将来的にはより幅広い場での活用が期待されるサービスだ。

「倉庫や工場等で作業員の動きを見るためや、イベント会場での人流を見るというニーズはあると考えています。店舗の場合も細かい来店客の動きではなく、従業員がバックヤードと店舗を出入りする様子を確認してバックヤードのレイアウト改善に役立てたいというようなニーズもあります」と、畑瀬氏は屋内での位置情報活用による幅広い展開を語る。

データを組み合わせて多彩な分析も可能

一方で、位置情報に別の情報を組み合わせた高度な分析を行いたいというニーズもある。店舗側からよく出る要望としてあげられたのは、顧客の属性を組み合わせた分析だ。性別や年代によって買い回りの傾向が違う可能性を知りたいというニーズだが、これは会員カードなど別途属性情報を持つものと位置情報を組み合わせることで実現できる。

「たとえばレジに受信機を置き、会員カードを会計時に受け取って操作することで属性情報と購入情報を組み合わせることはできます。しかし、お客様からリクエストが多いのは、購入した人よりも、購入せずに帰ってしまった人の情報が欲しいという要望なのです。そうなると、お客様に会員カードをどこかでかざしてもらうようなアクションをしてもらわなければなりませんから、かなり難しくなりますね」と畑瀬氏。

来店者のアクションが必要だという点がハードルにはなっているが、仮に退店時にカードをリーダーにかざさせることができるような仕掛けがあれば、その情報と組み合わせて店舗側が欲しがっている未購入者のデータも取得できるということでもある。このように、工夫次第でいろいろな使い方ができるサービスだ。

来店客数推移

商品棚別顧客滞留時間

「今後は多くのデータと組み合わせた活用を提案できるようにしたいですね。たとえば、天候データや交通データと組み合わせた分析です。交通データについてはタクシーから取得している情報を持っていますので、活用したいですね」と畑瀬氏。富士通側でユーザーが利用しやすいさまざまなデータを今後揃えて行きたいとも語っている。

「ビーコンの方を固定し、来店者のスマートフォンと通信してプッシュで情報提供を行うなど、さまざまな使い方が考えられると思います。まずは試しに1週間程度のデータを取得するスモールスタートをお勧めしています。導入は下見から配線工事までを含めても2週間程度で可能です。まずはご相談いただきたいですね」と畑瀬氏は語った。