東北大学(東北大)は2月1日、質量ゼロの「ディラック電子」の流れを制御できる新しい磁石を発見したと発表した。

同成果は、大阪大学大学院理学研究科 酒井英明 准教授(研究開始時:東京大学大学院 工学系研究科 助教)、東京大学大学院 工学系研究科 石渡晋太郎 准教授、修士課程2年 増田英俊 氏、東京大学 物性研究所 徳永将史 准教授、東京大学大学院 工学系研究科 山崎裕一 特任講師、東北大学 金属材料研究所 塚﨑敦教授らの研究グループによるもので、1月29日付けの米科学誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。

通常の金属や半導体中の電子の運動は、質量を持った粒子として振る舞うことが知られているが、近年、黒鉛の単原子層であるグラフェンでは、質量のない粒子として電子が伝導することが明らかとなっている。このような固体中のディラック電子は、極めて高い移動度を有するため、エレクトロニクス分野への応用などが期待されており、実際の応用例として、ハードディスクのような磁気的情報メディアにおけるデータの超高速書き込み/読み込みを、ディラック電子の外部磁場制御により実現するこ となどが考えられる。そのためには、ディラック電子による高い伝導性と磁場に対する高い応答性を併せもった新しい磁性体を開拓する必要があるが、このような物質は極めてまれであるため、固体中の磁性とディラック電子の伝導性との相関は未解明な点が多く、現在スピントロニクスの分野における重要な問題のひとつとなっている。

今回、同研究グループは、比較的融点の低い融剤(フラックス)に、合成したい化合物の原料を溶かしこみ、過飽和の条件で析出させて単結晶を得る「フラックス合成法」を高真空中で行うことにより、ディラック電子と磁石の性質が共存すると予想される高品質単結晶の層状物質(EuMnBi2)の合成に成功。同物質は、ディラック電子状態を担うビスマス層と、磁石の性質を担うユーロピウムなどからなるブロック層が積層したハイブリッド構造を特徴としている。

また今回の研究では、この物質においてディラック電子と磁気状態が互いに強く結びついていることを実証するために、東京大学 物性研究所附属 国際超強磁場科学研究施設、および東北大 金属材料研究所 強磁場超伝導材料研究センターにおいて、約30~60テスラの強磁場中で電気抵抗測定を行った。さらに磁気状態の解明に向け、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 フォトンファクトリーにおいて、放射光エックス線の磁気散乱実験を行った。この結果、ユーロピウムの磁気秩序に伴い、電気抵抗率が大きく変化することを発見した。特に面直方向へ磁場を加え、磁気モーメントの方向を90度回転させると、面直方向への伝導が1桁近く抑制されたという。さらにこの効果を利用して、ディラック電子を電気伝導層であるビスマス層(二次元層)内に強く閉じ込めることにより、ディラック電子層が積層したバルクの磁性体において初めて、ホール抵抗値が離散的となる半整数量子ホール効果を実現した。

同研究グループは今回の研究成果について、今までになかった強相関ディラック電子物質という新しいスピントロニクス材料を切り拓く結果であり、今後は超高速かつ省エネ動作が可能なハードディスクのヘッドや磁気抵抗メモリMRAMなどへの応用が期待されると説明している。

ディラック電子と磁性が共存する物質EuMnBi2の結晶構造と磁気構造