大気汚染ガスの二酸化窒素(NO2)の衛星観測に3~5割の過小評価があることを、海洋研究開発機構地球表層物質循環研究分野の金谷有剛(かなや ゆうごう)分野長代理らの国際研究チームが見つけた。その原因として、大気中に共存する微小粒子PM2.5などのエアロゾルが太陽光の経路をかく乱し、地表付近のNO2を観測されないように覆い隠してしまう「シールド効果」を実証した。日本、中国、韓国、ロシアでの地上観測網のデータと衛星データを比較して検証した結果で、8月11日に欧州地球科学連合誌Atmospheric Chemistry and Physicsに発表した。

グラフ1. 6地点のNO2濃度の衛星データ(紫)と地上からの観測データ(赤)との時系列比較。衛星データが系統的に低い傾向にある。(提供:海洋研究開発機構)

この成果で、これまで衛星データに基づいて推計された窒素酸化物の発生量見積もりを上方修正する必要性が出てきた。同時に、人間活動の地球環境への影響がこれまでの予想以上である可能性を示した。研究チームは「衛星観測からNO2の量を導き出す際の精度を高めるには、PM2.5などのエアロゾル粒子の光かく乱効果を適切に考慮することの重要性を観測結果で初めて示した」と強調している。

グラフ2. 衛星の観測データが地上からの計測値より低くなる(縦軸に示した比の値が1より系統的に低くなる、赤矢印)のは、(a)エアロゾルの光学的厚さが大きいとき、(下)NO2が地表付近1km以内に偏在する場合であることがわかった。(提供:海洋研究開発機構)

図. PM2.5の共存による「シールド効果」の概念図。PM2.5があると、太陽の光が地表付近まで深く入り込まず、衛星観測が地表付近を見逃す。(提供:海洋研究開発機構)

広域の大気汚染状況を一度に把握できる衛星観測は地球環境の状態を知るのに欠かせなくなっている。NO2の衛星観測では、地表から反射される太陽光の紫外・可視領域の光を分光し、NO2分子に固有の吸収度を計測して、大気中のNO2累積濃度を測定している。この衛星観測で、欧米や日本上空での濃度減少と対照的に、中国上空では過去約15年でNO2が3倍にも増加し、巨大な発生源に変化したことが示されてきた。

しかし、衛星から遠く離れた地上付近に存在するNO2による微弱な吸収(1%以下)を、雲や成層圏を通して、光の経路も考慮しながら精度よく計測するのは非常に難しく、信頼度の検証が求められていた。研究チームは、地上からの観測網を2007年から、日本、中国、韓国、ロシアの7カ所に展開し、12年末までの6年間で8万を超える観測データを収集し、NASAが2004年に打ち上げたAura衛星の データと比較して、NO2観測を検証した。

地上からの観測ではエアロゾルの量も併せて測定した。検証の結果、衛星データが地上の観測データに比べて3~5割低かった。さらに詳しく分析すると、その差が増えるのは、大気中のエアロゾル量が多くなるか、NO2が高度1㎞までの地上近くに偏って分布しているときであることを見いだした。エアロゾルが上空まで拡散している場合は、地表付近のNO2を覆い隠してしまう可能性が理論的に予測されていたが、今回の研究でそのシールド効果が初めて裏付けられた。

研究チームの金谷有剛さんらは「衛星観測ではこれまで、エアロゾルを雲の一種のように扱ってきたが、精度を高めるにはエアロゾルの影響を適切に考慮する方法に改める必要がある。今後も地上観測を継続し、水平解像度が10㎞を切る次世代型の高分解能衛星観測データの検証にも役立てたい。NO2以外のガスの衛星観測(ホルムアルデヒドなど)も、同様の仕組みによる過小評価が存在するか、検討する」と話している。